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三千世界に極道の華
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同じ頃、敵のアジトの方でも丹羽が引き入れた警察の援護によって制圧が完了していたようだ。それと同時に僚一と源次郎が囮となって引き連れて行った傭兵上がりのボディガードたちも丹羽ら警察や大工に化けて潜入していた鐘崎組の組員らと合流したことにより、一網打尽にすることに成功した。
大通りの彼方から武装した特殊部隊にお縄にされた悪党たちがゾロゾロと引き連れられ大門へと向かって行った。その先には警察の装甲車が待ち構えているわけだ。武器庫を空にしたことで危惧していた銃撃戦に至ることもなく、爆発や火災を起こさずに一件落着できたことに誰もがホッと胸を撫で下ろす。悪党たちが護送されていく後ろ姿を見送りながら、三浦屋主人の伊三郎をはじめ、周辺茶屋の主人や遊女たちが感無量といった顔つきで胸前で手を組んでは喜びと安堵の涙に暮れていた。
客たちもまた然りである。長い間闇に閉ざされていたこの世界に光が戻ってきたことをすぐには信じられないといったふうに呆然ながらも、戦いの幕引きを実感してか誰彼ともなく肩を抱き合っては歓喜したのだった。
それと同時に鐘崎組の若い衆らも続々と三浦屋の前に戻って来た。その一等後ろの方から群衆を掻き分けるように何度も飛び跳ねて遠くを見渡しながら駆け寄ってくる一人の男の姿があった。彼は群衆の中にお目当ての姿を見つけると、歓喜に掠れる声で目一杯その名を叫んでよこした。
「兄さん! 菫兄さーん!」
まるで迷子になっていた仔犬が飼い主を見つけたかのように必死の形相でクシャクシャに顔を歪めながら駆け寄って来る。男は鐘崎組に入って日の浅い徳永であった。自分の世話係として面倒を見てくれている兄貴分の春日野を心配して、是が非でも大工の任務に加えて欲しいと組幹部の清水に泣きついたとのことだった。
「徳永! お前も来てくれたのか!」
「兄さんもご無事で……ああ、ホントに良かったっす! 俺もう心配で心配で……! 兄さんたちがいなくなっちまった日から生きた心地がしなかったっす!」
思わずこぼれた涙をグイと袖で拭いながら男泣きをしている。そんな彼の頭をワシャワシャと撫でながら、
「心配掛けたな。すまねえ」
春日野もまた瞳を細めてみせたのだった。
かくして永きに及んだ抗争の果て、地下三千世界に平穏な日々が戻ってきた。三浦屋の伊三郎は紫月らに心からの礼を述べると共に、これで彼らともお別れだと思うと寂しい気持ちが過るのか涙が止まらないようであった。
「紅椿、できることならこのままずっとお前さんたちと一緒に店をやっていければと思うが……そうもいかないね。本当に皆さんにはお世話になって……御礼の言葉もございません!」
「ンな辛気臭えツラすんなって! あんたが俺らの親父であることはこれからも変わらねえ。地下だろうが外界だろうが、何処にいたって俺らはずっとあんたの子供さ!」
「紅椿……お前さん」
伊三郎は人目も気にせずにおいおいと声を立てて嗚咽を繰り返した。
大通りの彼方から武装した特殊部隊にお縄にされた悪党たちがゾロゾロと引き連れられ大門へと向かって行った。その先には警察の装甲車が待ち構えているわけだ。武器庫を空にしたことで危惧していた銃撃戦に至ることもなく、爆発や火災を起こさずに一件落着できたことに誰もがホッと胸を撫で下ろす。悪党たちが護送されていく後ろ姿を見送りながら、三浦屋主人の伊三郎をはじめ、周辺茶屋の主人や遊女たちが感無量といった顔つきで胸前で手を組んでは喜びと安堵の涙に暮れていた。
客たちもまた然りである。長い間闇に閉ざされていたこの世界に光が戻ってきたことをすぐには信じられないといったふうに呆然ながらも、戦いの幕引きを実感してか誰彼ともなく肩を抱き合っては歓喜したのだった。
それと同時に鐘崎組の若い衆らも続々と三浦屋の前に戻って来た。その一等後ろの方から群衆を掻き分けるように何度も飛び跳ねて遠くを見渡しながら駆け寄ってくる一人の男の姿があった。彼は群衆の中にお目当ての姿を見つけると、歓喜に掠れる声で目一杯その名を叫んでよこした。
「兄さん! 菫兄さーん!」
まるで迷子になっていた仔犬が飼い主を見つけたかのように必死の形相でクシャクシャに顔を歪めながら駆け寄って来る。男は鐘崎組に入って日の浅い徳永であった。自分の世話係として面倒を見てくれている兄貴分の春日野を心配して、是が非でも大工の任務に加えて欲しいと組幹部の清水に泣きついたとのことだった。
「徳永! お前も来てくれたのか!」
「兄さんもご無事で……ああ、ホントに良かったっす! 俺もう心配で心配で……! 兄さんたちがいなくなっちまった日から生きた心地がしなかったっす!」
思わずこぼれた涙をグイと袖で拭いながら男泣きをしている。そんな彼の頭をワシャワシャと撫でながら、
「心配掛けたな。すまねえ」
春日野もまた瞳を細めてみせたのだった。
かくして永きに及んだ抗争の果て、地下三千世界に平穏な日々が戻ってきた。三浦屋の伊三郎は紫月らに心からの礼を述べると共に、これで彼らともお別れだと思うと寂しい気持ちが過るのか涙が止まらないようであった。
「紅椿、できることならこのままずっとお前さんたちと一緒に店をやっていければと思うが……そうもいかないね。本当に皆さんにはお世話になって……御礼の言葉もございません!」
「ンな辛気臭えツラすんなって! あんたが俺らの親父であることはこれからも変わらねえ。地下だろうが外界だろうが、何処にいたって俺らはずっとあんたの子供さ!」
「紅椿……お前さん」
伊三郎は人目も気にせずにおいおいと声を立てて嗚咽を繰り返した。
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