593 / 1,212
孤高のマフィア
16
しおりを挟む
「香山ちゃんを脅そうっていうの? アンタもワルねえ」
愛莉は呆れてみせたが、確かに男の言うことも一理ある。香山の様子ではこれからもしつこくどうなったかと尋ねてきそうだし、追い払いがてら小銭が手に入れば一石二鳥である。何より少し痛い目を見れば懲りて考え直すかも知れないと思うのだ。香山本人がどうなろうとさして興味はないが、その妻のことを考えたら同じ女性として気の毒にも思えるからだ。今はいっときの感情で我を失っているのかも知れないが、香山にも目を覚ましてもらうきっかけになればいい、愛莉は意外にも純粋な気持ちで灸を据える程度に思ったのだった。
「んー、でも案外それいいかも! アンタが手伝ってくれるんなら銀座の仲間に言って情報仕入れてやるのも悪くないわね。もうちょい香山ちゃんを煽れるネタが手に入るかも知れないし」
「そんなら俺は香山ってヤツの方の近辺を探ってやろうじゃねえか。ちょいと叩けば他にも埃が出るかも知れねえ」
「やだ、案外大金が巻き上げられちゃったりして?」
「そしたら二人で豪勢に海外でも行って遊んで来るか!」
「バーカ! まだお金になるかどうかも分かんないのにさぁ」
「なるかどうか分かんねえモンを金にするのが俺の腕の見せ所だからな。まあ任せろ! 上手く搾り取ってやるって!」
男は愛莉を抱きすくめると、上機嫌でソファに押し倒した。
「前祝いってことで一発な?」
「ヤダァ、相変わらず気が早いんだからぁ」
こうして愛莉と男は香山を嵌めて金を騙し取る作戦に出ることになったのだった。
一方、香山の方は愛莉からの情報を今か今かと待つ日々が続いていた。表面上は普通を装いながらいつもと何ら変わりのない時間だけが過ぎていく。裏では愛莉の男が自分に探りを入れているなどとは夢夢知らないままで一週間が経った頃、待ちに待った愛莉からの連絡を受けて、香山は彼女に呼び出された街外れのバーへと向かった。
そこは表通りからかなり入り組んだ裏路地に建つ何とも怪しげな店だったが、今の香山にとっては情報欲しさが先に立っていて危険な雰囲気などを察知できる余裕はない。逸る気持ちで店に入れば、奥まった薄暗がりの席に愛莉の姿を見つけてパッと瞳を輝かせた。
ところが席に近付いてみれば愛莉の他に見知らぬ男が一緒だ。無精髭を生やした、見るからに堅気ではない雰囲気に押されてさすがに息を呑む。
「あの……こちらさんは?」
おずおずとする香山を横目に、愛莉は親しげに微笑んでみせた。
「そう警戒しないでー。氷川さんのことについてこの人もいろいろ協力して調べてくれたんだから! 女のアタシ一人じゃ分からなかった貴重な情報がたーくさん入手できたのよ。まあ座ってちょうだいな」
「そ、そうですか……。世話を掛けてすみません」
香山は半信半疑ながらも貴重な情報という言葉に抗えずにひとまずは腰を落ち着けた。
愛莉は呆れてみせたが、確かに男の言うことも一理ある。香山の様子ではこれからもしつこくどうなったかと尋ねてきそうだし、追い払いがてら小銭が手に入れば一石二鳥である。何より少し痛い目を見れば懲りて考え直すかも知れないと思うのだ。香山本人がどうなろうとさして興味はないが、その妻のことを考えたら同じ女性として気の毒にも思えるからだ。今はいっときの感情で我を失っているのかも知れないが、香山にも目を覚ましてもらうきっかけになればいい、愛莉は意外にも純粋な気持ちで灸を据える程度に思ったのだった。
「んー、でも案外それいいかも! アンタが手伝ってくれるんなら銀座の仲間に言って情報仕入れてやるのも悪くないわね。もうちょい香山ちゃんを煽れるネタが手に入るかも知れないし」
「そんなら俺は香山ってヤツの方の近辺を探ってやろうじゃねえか。ちょいと叩けば他にも埃が出るかも知れねえ」
「やだ、案外大金が巻き上げられちゃったりして?」
「そしたら二人で豪勢に海外でも行って遊んで来るか!」
「バーカ! まだお金になるかどうかも分かんないのにさぁ」
「なるかどうか分かんねえモンを金にするのが俺の腕の見せ所だからな。まあ任せろ! 上手く搾り取ってやるって!」
男は愛莉を抱きすくめると、上機嫌でソファに押し倒した。
「前祝いってことで一発な?」
「ヤダァ、相変わらず気が早いんだからぁ」
こうして愛莉と男は香山を嵌めて金を騙し取る作戦に出ることになったのだった。
一方、香山の方は愛莉からの情報を今か今かと待つ日々が続いていた。表面上は普通を装いながらいつもと何ら変わりのない時間だけが過ぎていく。裏では愛莉の男が自分に探りを入れているなどとは夢夢知らないままで一週間が経った頃、待ちに待った愛莉からの連絡を受けて、香山は彼女に呼び出された街外れのバーへと向かった。
そこは表通りからかなり入り組んだ裏路地に建つ何とも怪しげな店だったが、今の香山にとっては情報欲しさが先に立っていて危険な雰囲気などを察知できる余裕はない。逸る気持ちで店に入れば、奥まった薄暗がりの席に愛莉の姿を見つけてパッと瞳を輝かせた。
ところが席に近付いてみれば愛莉の他に見知らぬ男が一緒だ。無精髭を生やした、見るからに堅気ではない雰囲気に押されてさすがに息を呑む。
「あの……こちらさんは?」
おずおずとする香山を横目に、愛莉は親しげに微笑んでみせた。
「そう警戒しないでー。氷川さんのことについてこの人もいろいろ協力して調べてくれたんだから! 女のアタシ一人じゃ分からなかった貴重な情報がたーくさん入手できたのよ。まあ座ってちょうだいな」
「そ、そうですか……。世話を掛けてすみません」
香山は半信半疑ながらも貴重な情報という言葉に抗えずにひとまずは腰を落ち着けた。
32
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる