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孤高のマフィア
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「五百……ッ!?」
「そう、五百万だ」
「そんな……」
「なに、安いもんだろ? アンタん所は地元じゃ老舗の文具店だ。それに専務のアンタが妻子を放っぽって別の男に入れ上げてるなんてことが知れたら困るだろうが? ここはおとなしく五百万払って、邪魔なガキを始末して、惚れた男を手に入れるのが得策だと思わねえか?」
これは脅しだと知りつつも、香山には既に断る勇気はなかった。男から提示された金額も五百万なら家族には知られずに何とかして出せるギリギリのところともいえる。ここで断れば妻子にバラすと脅されそうだし、もう腹を括るしかない。香山は迷いながらもうなずいてしまったのだった。
「わ、分かりました……。よ、よろしくお願いします……。ただ……本当に五百万以上は出せないんで……それでよろしければですが」
「ああ、それでいい。前金で半分の二五〇、ガキを拐って来て上手く大陸の連中に売り渡したら残り二五〇でどうだ」
「分……かりました」
香山としても、仮に騙されたとしても半分の二五〇万円なら何とかなると踏んだのだろう。例の秘書という男の拉致に失敗したとしても残り半分は支払わずに済むだろう。安易な憶測で香山は男との契約を交わすことに決めてしまったのだった。
◇ ◇ ◇
一方、香山たちがそんな企てをしていることなど知る由もない周と冰は、いつもと何ら変わりのない平穏な日常を過ごしていた。それらが一転したのは香山が愛莉の男と契約を交わしてから一週間が経った頃に起こった。
それは周と冰が里恵子の店であるクラブ・フォレストに訪れた際のことだ。鐘崎と紫月も一緒だった。
全くのプライベートだった為、仕事絡みのクライアントなどもおらず、四人は和気藹々と里恵子とのおしゃべりを楽しんでいた。
「うはぁ……! 手がベタベタになっちゃった。ちょっと洗ってくるー」
豪華なフルーツ盛りを素手で頬張っていた冰が照れ笑いをしながら席を立つ。
「おいおい、しょうのねえヤツだな。一人で行けるのか?」
亭主である周が半分からかいながら愛しげに笑って、冰がテーブルから出やすいように膝をよけてやっている。
「だ、大丈夫。おトイレくらい一人で行けるって」
恥ずかしそうにしながらも冰はいそいそ化粧室へと向かって行った。
「ったく、ああいうところはいつまでもガキのまんまだな」
苦笑しつつもそんな子供っぽい一面がまた可愛いのだと顔に書いてある。一人で化粧室へと向かった伴侶をソワソワと気遣う素振りの周を横目に、ママの里恵子がクスッと微笑みながら席を立った。
「周さんったら、何だかんだ言って冰ちゃんのことが心配で仕方ないんだから! いいわ、アタシが様子を見てきてあげる」
里恵子はそう言うと冰の後を追い掛けて化粧室へと向かった。
「そう、五百万だ」
「そんな……」
「なに、安いもんだろ? アンタん所は地元じゃ老舗の文具店だ。それに専務のアンタが妻子を放っぽって別の男に入れ上げてるなんてことが知れたら困るだろうが? ここはおとなしく五百万払って、邪魔なガキを始末して、惚れた男を手に入れるのが得策だと思わねえか?」
これは脅しだと知りつつも、香山には既に断る勇気はなかった。男から提示された金額も五百万なら家族には知られずに何とかして出せるギリギリのところともいえる。ここで断れば妻子にバラすと脅されそうだし、もう腹を括るしかない。香山は迷いながらもうなずいてしまったのだった。
「わ、分かりました……。よ、よろしくお願いします……。ただ……本当に五百万以上は出せないんで……それでよろしければですが」
「ああ、それでいい。前金で半分の二五〇、ガキを拐って来て上手く大陸の連中に売り渡したら残り二五〇でどうだ」
「分……かりました」
香山としても、仮に騙されたとしても半分の二五〇万円なら何とかなると踏んだのだろう。例の秘書という男の拉致に失敗したとしても残り半分は支払わずに済むだろう。安易な憶測で香山は男との契約を交わすことに決めてしまったのだった。
◇ ◇ ◇
一方、香山たちがそんな企てをしていることなど知る由もない周と冰は、いつもと何ら変わりのない平穏な日常を過ごしていた。それらが一転したのは香山が愛莉の男と契約を交わしてから一週間が経った頃に起こった。
それは周と冰が里恵子の店であるクラブ・フォレストに訪れた際のことだ。鐘崎と紫月も一緒だった。
全くのプライベートだった為、仕事絡みのクライアントなどもおらず、四人は和気藹々と里恵子とのおしゃべりを楽しんでいた。
「うはぁ……! 手がベタベタになっちゃった。ちょっと洗ってくるー」
豪華なフルーツ盛りを素手で頬張っていた冰が照れ笑いをしながら席を立つ。
「おいおい、しょうのねえヤツだな。一人で行けるのか?」
亭主である周が半分からかいながら愛しげに笑って、冰がテーブルから出やすいように膝をよけてやっている。
「だ、大丈夫。おトイレくらい一人で行けるって」
恥ずかしそうにしながらも冰はいそいそ化粧室へと向かって行った。
「ったく、ああいうところはいつまでもガキのまんまだな」
苦笑しつつもそんな子供っぽい一面がまた可愛いのだと顔に書いてある。一人で化粧室へと向かった伴侶をソワソワと気遣う素振りの周を横目に、ママの里恵子がクスッと微笑みながら席を立った。
「周さんったら、何だかんだ言って冰ちゃんのことが心配で仕方ないんだから! いいわ、アタシが様子を見てきてあげる」
里恵子はそう言うと冰の後を追い掛けて化粧室へと向かった。
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