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孤高のマフィア
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冰は相変わらずに咥えタバコで紫煙を燻らせながらも渡されたカードを手に取ると、なるほど流麗な仕草でそれを扱ってみせた。一本目の煙草は既に吸い終わっていたのだが、隣にいた客が気を利かせるように新しい一本を差し出してよこしたのだ。言うまでもなく、先程よりも丁寧な仕草でジッポライターを点すオマケ付きである。その厚意を当たり前のように受けながらも上品に会釈をする仕草自体にも、周囲のギャラリーの目は興味をそそられているようだ。
むろんのこと単純な興味で見ている者もいれば、中には胡散臭いとおもむろに敵視する様子の者もいる。
それらをものともせずに冰は台の上でカードを開き、一瞬で閉じる。手の中では扇状に開いたかと思えば滝が流れ落ちるような見事な捌きでカードを自在に操ってから目にも止まらない速さで束ねて数回シャッフルを繰り返すと、寸分違わずというくらい綺麗に揃えたカードの山をディーラーへと差し出した。
流麗な仕草の一部始終はそれを見られただけで満足といえるほどの完璧な神技だ。対戦中ということを忘れ、マジックでも始まるのかというような心持ちにさせられる。客たちはもっと見ていたいというように身を乗り出しては、テーブル全体がうっとりとした溜め息であふれかえっていった。
「ありがとう。たいへん満足しましたよ。ではお約束通り次で勝負と参りましょう」
そう言いながら灰皿の上で煙草をひねり消す。指先の一挙手一投足までがいちいち美しく、ギャラリーたちは冰が動くだけで視線を釘付けにさせられている。まるでフロアにいる全員が冰に加担するとでも言わんばかりの異様な重圧の中、ディーラーは震える手でカードを配り終えた。
「それで……どうされる。まさかだが、また降りるというのだけはご勘弁願いたいね」
「ご心配なく。僕は約束を違えるようなことはしませんよ。お付き合いいただくのはこれで最後です」
「……だったらいいが……」
「うん、そうだね。それじゃ一枚もらおうかな。やっぱりね、ポーカーというからには一度くらいはカードのチェンジもしなきゃ面白味がありませんからね」
「……ッ、分かった」
ぎこちない滑り方でカードの山札から一枚が冰の目の前に届けられる。揃った目はダイヤのフラッシュであった。
「うん、いいね! それじゃ勝負と参りましょう」
冰がにこやかに微笑んでカードを開くと、それを目にしたディーラーはホッとしたように肩を落とした。そして次の瞬間にはようやくと自信を取り戻したわけか、勝ち誇ったように自らもカードを裏返しながらこう言った。
「フルハウス。残念ながら勝負は私の勝――」
勝ちですねと言い掛けて、思わず「ヒッ!」と喉を詰まらせた。
「なに……ッ!?」
まるで急転直下の七面鳥のごとくみるみると血の気が引いてゆき、見開かれた目には真っ赤な血管の筋までが浮き出る勢いで棒立ちとなる。フルハウスになるはずだったカードは一枚が欠けたことによりただのスリーカードとなってしまっていたからだ。
むろんのこと単純な興味で見ている者もいれば、中には胡散臭いとおもむろに敵視する様子の者もいる。
それらをものともせずに冰は台の上でカードを開き、一瞬で閉じる。手の中では扇状に開いたかと思えば滝が流れ落ちるような見事な捌きでカードを自在に操ってから目にも止まらない速さで束ねて数回シャッフルを繰り返すと、寸分違わずというくらい綺麗に揃えたカードの山をディーラーへと差し出した。
流麗な仕草の一部始終はそれを見られただけで満足といえるほどの完璧な神技だ。対戦中ということを忘れ、マジックでも始まるのかというような心持ちにさせられる。客たちはもっと見ていたいというように身を乗り出しては、テーブル全体がうっとりとした溜め息であふれかえっていった。
「ありがとう。たいへん満足しましたよ。ではお約束通り次で勝負と参りましょう」
そう言いながら灰皿の上で煙草をひねり消す。指先の一挙手一投足までがいちいち美しく、ギャラリーたちは冰が動くだけで視線を釘付けにさせられている。まるでフロアにいる全員が冰に加担するとでも言わんばかりの異様な重圧の中、ディーラーは震える手でカードを配り終えた。
「それで……どうされる。まさかだが、また降りるというのだけはご勘弁願いたいね」
「ご心配なく。僕は約束を違えるようなことはしませんよ。お付き合いいただくのはこれで最後です」
「……だったらいいが……」
「うん、そうだね。それじゃ一枚もらおうかな。やっぱりね、ポーカーというからには一度くらいはカードのチェンジもしなきゃ面白味がありませんからね」
「……ッ、分かった」
ぎこちない滑り方でカードの山札から一枚が冰の目の前に届けられる。揃った目はダイヤのフラッシュであった。
「うん、いいね! それじゃ勝負と参りましょう」
冰がにこやかに微笑んでカードを開くと、それを目にしたディーラーはホッとしたように肩を落とした。そして次の瞬間にはようやくと自信を取り戻したわけか、勝ち誇ったように自らもカードを裏返しながらこう言った。
「フルハウス。残念ながら勝負は私の勝――」
勝ちですねと言い掛けて、思わず「ヒッ!」と喉を詰まらせた。
「なに……ッ!?」
まるで急転直下の七面鳥のごとくみるみると血の気が引いてゆき、見開かれた目には真っ赤な血管の筋までが浮き出る勢いで棒立ちとなる。フルハウスになるはずだったカードは一枚が欠けたことによりただのスリーカードとなってしまっていたからだ。
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