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謀反
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「え……?」
冰はもちろんのこと、李も劉も、三人が三人ともポカンと口を開いたままで言葉を失ってしまった。そんな様子に微笑みながらも、周は長いストライドで足早にやって来ると、大きく広げた両腕で冰を抱き締めた。
「……白……龍?」
もしかして記憶が戻ったのだろうか。本能でそう感じた冰から出た言葉は、『周さん』ではなく『白龍』であった。
「ああ、ああ……。すまなかった。心配を掛けた!」
「白……! ホントに……白龍!? じゃ、じゃあ……」
思い出したの? その言葉は言わせてもらえなかった。
両の頬を大きな掌で包まれたと思ったら、そのまま広い胸に再度抱き包まれて、冰の瞳はみるみると熱い雫でいっぱいになっていった。それらがボロボロとこぼれ落ちるのを胸元のシャツで受け止めながら、周は腕の中の愛しい黒髪に口付けた。
「白龍……白ッ……!」
止め処なく流れ落ちる涙を見ただけで、何も言葉にせずともどんな思いでこのひと月余りを過ごしてきたかが分かる。きっと胸が潰れそうになりながらも精一杯明るい笑顔でただただ寄り添っていてくれたのだろう。そんな二人の様子を見つめる李と劉もまた、同じようにあふれた感激の涙を拭ったのだった。
「李と劉も、すまなかった。心配を掛けたな」
「老板……いえ、いいえ、とんでもありません! ご記憶の方は」
「ああ。お陰ですっかり思い出した。お前さんたちの助力には感謝でいっぱいだ」
「そ、そうですか……! 良かった……。本当に良かったです!」
いったい何がきっかけだったのだろう。皆思うところは一緒だった。
「そういえば俺が記憶喪失になっちゃった時は……白龍の……」
言い掛けて冰はハタと口を塞いだ。恥ずかしそうにしながらも頬を真っ赤に染めて視線を泳がせている。
冰が記憶を取り戻したきっかけは、周の自慰行為だったからだ。さすがに李と劉の前では暴露するわけにもいかず、冰はモジモジと顔を赤らめてしまった。
「きっかけはお前だ、冰」
「え……!? 俺!?」
え、俺……そりゃまあ確かに……そういうこともした……にはしたけど……。まさかアレを白龍が見てたっていうの……!?
「ちょっ……あの、待っ……白龍……俺、俺ね……確かにその……うわー……!」
取り止めもない言葉と共に顔を真っ赤にしたり、はたまた真っ青にしたりと忙しい。本人にとっては一大事なのだが、何も知らない李や劉からすればそれほどまでに嬉しいのだろうと微笑ましい笑顔で見つめてくる。冰はますます赤面させられてしまい、まるで子供が地団駄を踏むようにバタバタと顔を覆ってしまった。
実はこのひと月の間に幾度か周を想って自分を慰めたことがあった。もちろん深夜の自室でのことだし、それを誰かに見られているわけもないのだが、もしかしたら自分の気付かないところで周に見つかってしまっていたのかも知れない。冰は咄嗟にそんなふうに思ってしまったのだ。
瞳を白黒させながらもドキドキバクバクと心拍数が聞こえてきそうなくらい頬を紅潮させた冰の頭を、クシャクシャっと撫でながら周はきっかけを語った。
冰はもちろんのこと、李も劉も、三人が三人ともポカンと口を開いたままで言葉を失ってしまった。そんな様子に微笑みながらも、周は長いストライドで足早にやって来ると、大きく広げた両腕で冰を抱き締めた。
「……白……龍?」
もしかして記憶が戻ったのだろうか。本能でそう感じた冰から出た言葉は、『周さん』ではなく『白龍』であった。
「ああ、ああ……。すまなかった。心配を掛けた!」
「白……! ホントに……白龍!? じゃ、じゃあ……」
思い出したの? その言葉は言わせてもらえなかった。
両の頬を大きな掌で包まれたと思ったら、そのまま広い胸に再度抱き包まれて、冰の瞳はみるみると熱い雫でいっぱいになっていった。それらがボロボロとこぼれ落ちるのを胸元のシャツで受け止めながら、周は腕の中の愛しい黒髪に口付けた。
「白龍……白ッ……!」
止め処なく流れ落ちる涙を見ただけで、何も言葉にせずともどんな思いでこのひと月余りを過ごしてきたかが分かる。きっと胸が潰れそうになりながらも精一杯明るい笑顔でただただ寄り添っていてくれたのだろう。そんな二人の様子を見つめる李と劉もまた、同じようにあふれた感激の涙を拭ったのだった。
「李と劉も、すまなかった。心配を掛けたな」
「老板……いえ、いいえ、とんでもありません! ご記憶の方は」
「ああ。お陰ですっかり思い出した。お前さんたちの助力には感謝でいっぱいだ」
「そ、そうですか……! 良かった……。本当に良かったです!」
いったい何がきっかけだったのだろう。皆思うところは一緒だった。
「そういえば俺が記憶喪失になっちゃった時は……白龍の……」
言い掛けて冰はハタと口を塞いだ。恥ずかしそうにしながらも頬を真っ赤に染めて視線を泳がせている。
冰が記憶を取り戻したきっかけは、周の自慰行為だったからだ。さすがに李と劉の前では暴露するわけにもいかず、冰はモジモジと顔を赤らめてしまった。
「きっかけはお前だ、冰」
「え……!? 俺!?」
え、俺……そりゃまあ確かに……そういうこともした……にはしたけど……。まさかアレを白龍が見てたっていうの……!?
「ちょっ……あの、待っ……白龍……俺、俺ね……確かにその……うわー……!」
取り止めもない言葉と共に顔を真っ赤にしたり、はたまた真っ青にしたりと忙しい。本人にとっては一大事なのだが、何も知らない李や劉からすればそれほどまでに嬉しいのだろうと微笑ましい笑顔で見つめてくる。冰はますます赤面させられてしまい、まるで子供が地団駄を踏むようにバタバタと顔を覆ってしまった。
実はこのひと月の間に幾度か周を想って自分を慰めたことがあった。もちろん深夜の自室でのことだし、それを誰かに見られているわけもないのだが、もしかしたら自分の気付かないところで周に見つかってしまっていたのかも知れない。冰は咄嗟にそんなふうに思ってしまったのだ。
瞳を白黒させながらもドキドキバクバクと心拍数が聞こえてきそうなくらい頬を紅潮させた冰の頭を、クシャクシャっと撫でながら周はきっかけを語った。
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