極道恋事情

一園木蓮

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身代わりの罠

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 川崎、鐘崎組――。
 周が冰と共に事務所を訪ねると、紫月の方でもやはり画像のことを知っているふうであった。既に外出できるような出立ちでいることから、彼もまた出掛けようとしているところのように思える。おそらくは鐘崎に会って確かめる心づもりでいるのかも知れない。きっと相当に思い悩んでいるに違いない。
 だが、そんな予想とは裏腹に、パソコン画面から視線を外した彼が柔和な表情で迎えてくれた。
「よう! 二人ともこんな朝っぱらからー」
 大して驚いたふうでもないことから、紫月の方でも何故二人が駆け付けてくれたのかを理解している様子であった。
「もしかしてお前らもこれを見たんか?」
 パソコン画面を指さして笑う。
「紫月さん……あの、それ……」
「お前さんが余裕で笑ってるところからすると――こいつは何かの策なのか?」
 紫月があまりにもあっけらかんとしているので、もしかしたらこれも今回の任務の一環なのかと思ってしまう。ところがそうではなかったようだ。
「いや、策とかじゃあねえな。俺も聞いてねえし」
「聞いてねえだと? カネから連絡は? 昨夜はここへ帰ってねえのか?」
「エージェントの姉ちゃんからウチの清水宛てに連絡は来てたけどな。敵の視察が続いてるとかで、泊まり込みで任務を続けるって話だったようだ。遼には電話してみたけど出ねえわ」
「出ねえだと? やっぱり何かヤベえ事態に巻き込まれてるんじゃあるめえな? ――で、お前がそんな悠長にしてるところを見ると――何か気付いたことでもあるわけか」
「まあね。この画像から察するに――おそらくだが遼は睡眠薬でも盛られたってところだろうな。電話に出ねえってことはまだ薬が切れてなくて夢の中なのかも」
「薬を盛られただと? 何故分かる」
「見ろ、遼のこの手の形だ」
 紫月は一枚の画像を拡大しながら言った。
「女の背中に回された手の形だ。遼は何か物を掴む――というか抱える時には必ず中指を九の字に折る癖があるんだ」
「……ふむ、癖か。ちなみにお前を抱く時もそうか?」
 際どい質問とも取れるが、周は至って真顔だ。
「その通り」
 紫月はニヤっと笑うと、手の部分を更に拡大して説明を続けた。
「どの画像を見ても遼の指は五本とも揃って伸びきっている。しかも力が入ってねえのが丸分かりだ。つまり――」
「睡眠薬で眠らされて、女が自分でカネの手を背中の位置にもっていったってことか?」
「多分な」
 だが音声はどうだ。どう聞いても鐘崎の声に思える。
「音声の方も編集されたのかも知れねえな。遼の声質をどっかで拾われて都合のいいように作り変えたと考えるのが妥当だと思うね。それを女の声と合成したのかも」
「なるほど――。今、俺の方でも李に画像と音声を検証してもらっているんだが、もしかしたら作られた物かも知れんな」
 そうなると、気になるのはこんな物が出回った理由だ。わざわざ裏の世界の誰もが見られるニュース掲示板に上げる目的が分からない。
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