極道恋事情

一園木蓮

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身代わりの罠

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 僚一はクラウスにもその旨を耳打ちすると同時に、乾杯のシャンパンには口を付けないようにと伝えた。
「乾杯発声後はグラスを掲げるだけに留めてください。口に持っていってはいけません。中身だけでなく、グラスの縁に毒物が仕込まれている可能性もありますから」
 クラウスは驚きつつも素直にうなずいた。
「それから遼二。余興中に襲ってくる可能性が高いからクラウスの前後左右に目を光らせろ。紫月のことは焔たちに任せてお前はクラウスの警護に集中するんだ」
「ああ――、了解だ」
 どさくさに紛れて舞台上の紫月が襲われる可能性もゼロではないので、鐘崎にとっては当然気に掛かるところだろうが、今はクラウスの警護の方が優先だ。僚一も息子の気持ちを分かっていて釘を刺すのは辛いところだが、これは任務だ。
 紫月の警護についている周もまた、そういった親子の気持ちを痛いほど承知しているので、万が一の際には自分が親友に代わって彼を守ろうと思うのだった。
 
 乾杯が無事に済むと、日本医師会を代表して歓迎の挨拶が述べられた。その直後に紫月による居合抜きの余興が披露される。舞台上に袴姿の侍が真剣を携えて現れると、会場内は歓喜に湧いた。
『皆、照明が落ちる。全方向に意識を研ぎ澄ませろ。怪しい動きを見掛けたら躊躇せずに確保、絶対にクラウスを狙わせるな!』
『了解!』
 そうしてステージが始まった。予想通りか、場内の視線は一斉に余興へと集中する。照明もステージ以外は薄暗く落とされているので注意が必要だ。
 居合抜きの見せ場が終了した時だった。場内が拍手喝采に湧く中、クラウスを目掛けて三方向から男たちが動きを見せた。ごくごく至近距離になるまではその動きも感知できなかったことから、敵も素人ではないと思われる。おそらくはクラウスを狙う者たちがプロの殺し屋を雇ったのだろう。
 だがこちらもプロだ。そうそう思うようにやられるわけにはいかない。僚一と源次郎がクラウスの盾となって守る中、鐘崎が向かってきた男たちを体術で次々と沈めていった。――と、その直後だ。
「キャア……!」
 突如女の悲鳴が轟いた。
 クラウス本人に隙がないことを悟った敵が夫人を人質にせんと羽交い締めにして連れ去ったのだ。
 まあ夫人の方は本物ではなくエージェントのメビィが替え玉となっているわけだから、慌てるには及ばないといったところか。あとは彼女が属するチームのエージェント仲間が助け出すだろう。
 僚一らは予定通り女の方には気を取られずに、引き続きクラウスの安全確保に当たる。と同時に場内の客たちの安全面にも気を配るのを忘れない。いかにクラウスを守り切ったとはいえ、医師会の面々に何かあれば、それはそれで一大事だからだ。
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