極道恋事情

一園木蓮

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身代わりの罠

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 こうしてクラウス・ブライトナー夫妻の警護というひとつの大きな任務が終了した。早いもので、今日はもう夫妻がドイツへと帰国する日である。関わったすべての者たちで夫妻を見送る為、鐘崎と紫月らも空港へとやって来ていた。もちろん僚一と源次郎やメビィのチームのメンバー達も一緒だ。
 チームの面々にとっては鐘崎組に対して頭が上がらない状態であったが、窮地に陥ったメビィを救い出してくれた寛大な心に深く礼を述べると共に、自分たちの企てが如何に浅はかであったかということが身に沁みたようである。二度とこのような軽率な行為はしないと誓い、チームのヘッドとメンバーたちは長の僚一に平身低頭で謝罪をしたのだった。
 クラウスとその夫人も無事に発表までの警護を成し遂げてくれた皆に礼を述べ、故国へと帰って行ったのだった。

 空港の屋上テラスではクラウスらの乗った飛行機を見送りがてら、メビィが紫月に改めて謝罪を述べていた。
「本当にごめんなさい。あなたには何度謝っても足りないわね……」
 申し訳なさそうに伏目がちでいる彼女が酷く肩を落としている様子に、紫月の方は元気付けんとおどけてみせる。
「もう済んだことだし気にすんなって。な?」
 ニカッと白い歯を出して笑う笑顔が相変わらずに爽やかだ。言葉の上だけのお愛想ではない真心のこもった晴れやかな笑顔を見ているだけで、またもや潤みそうになる目頭を必死に押さえながらメビィはポツリとつぶやいた。
「ねえ、紫月さん。失礼ついでと言ったら言葉は悪いけど……ひとつだけ訊いてもいい?」
「ん? なに?」
「あのね、もしも……もしもよ。そんなことは絶対ないって分かってるけど、もしも今回アタシが遼二さんに色仕掛けをした時……遼二さんの方でもその気になってくれたとしたら……」

 あなただったらどうしたかしら?

 鐘崎は今回、メビィがどれだけアプローチをかけてもまったく靡かなかったわけだが、万が一出来心で一時の過ちを侵すような事態になっていたとしたら、あなたは彼を許せるかと、そんなふうに訊いたわけだ。
 いかにお互いを想い合っていても、魔が差すことだってあるかも知れないし、そうなればいくら心の広い紫月でも到底許し置けないだろうと思うのだ。メビィはもしもそんな状況になったとして、この紫月がどんなふうに対応するのかということに興味が抑えられずにいたようだ。
 だが、紫月はメビィの思っていたことを遥かに裏切る答えを平然と言ってのけた。
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