極道恋事情

一園木蓮

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ダブルトロア

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 なるほど――。
 美紅以外の四人を助ければ、風も優秦のお陰でチンピラ集団から皆を守ってもらえたと思うだろうということか。本当は全員を助けようとしたが、美紅だけは間に合わず殺されてしまったとするつもりだったのだろう。その後、あわよくば風の後妻に収まろうとでも思っているということか。
「まったく、あの嬢さんの考えることといったら……。そんなことをしても風老板が嬢さんに傾くわけもねえってのに!」
 男は舌打ちながらも地上へ通じる重い床板を持ち上げて、美紅へと手を差し伸べた。
「掴まってください。ちょっと急ですが気をつけて、慌てなくていいんでゆっくり上がって来てください! 曹先生たちは隣の建物に拘束されてるはずだ。あっちには嬢さんの雇ったヨーロッパ人が見張りについてるが、それもたった二人だ。ヤツらを片付けるのはワケねえんで任せてくだせえ」
 男は美紅の体調を気遣うよう丁寧に引き上げると、二人揃って曹らの元へと急いだ。

 一方、そんなことになっているとは露知らずの曹らの方では、美紅を救出する為の準備に取り掛かっていた。まずは冰がトイレに行かせて欲しいと言って見張りの一人を引きつけ、紫月がその後をつけて捩じ伏せるという作戦だ。
「見張りの男たちはドイツ語で話していましたから、おそらく広東語には明るくないでしょう。冰さんはわざと片言の英語でたどたどしい感を出してください。言葉が通じないと分かれば相手の油断を誘えるはずです」
「分かりました。では始めましょうか」
 冰は大きく深呼吸をすると、モゾモゾと起き出し、見張りに聞こえるように大袈裟な調子で騒ぐところから始める。まずは広東語でだ。
「うわ……! どうしたんだ僕たち!? ここはどこ!? 紫月さん、皆さん、起きてくださいよー! 大変なんです!」
 案の定、その声を聞きつけた見張りの二人が慌てて近付いて来る足音が聞こえてきた。
「なんだ、もう目を覚ましたってのか?」
「あの薬、朝までぐっすりだって聞いてたが、話が違うじゃねえかよ!」
 男たちも焦っているようだ。ドイツ語なので、鄧が横たわったままで密かに通訳をする。暗闇の中、気付かれにくいのは幸いである。少しすると男たちがやって来た。
「なーんだ。起きたのはコイツ一人か。他のヤツらは眠ったまんまだ」
「は……、脅かしやがる」
 少々ホッとしたように肩を落としたのが雰囲気で分かった。
「おい、ガキ! ギャアギャア騒ぐな! 他のヤツらが起きちまうだろうが!」
「静かにしやがれ!」
 男たちも冰の容姿から警戒する必要のない優男と踏んだようだ。
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