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ダブルトロア
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「旅行中と――な」
それならば諦めるしかない。
「そうか。では我々はこれで失礼する」
早々に立ち去ろうとした周風を優秦は慌てて引き止めた。
「あら、随分じゃない? そんなにそっけなくしなくてもいいじゃないの。それよりあなたたちこそ皆んなで怖い顔して何かあったの? 曹先生の姿が見えないけど、いつもあなたにビッタリなのに珍しいこと」
もう深夜だというのに、こんなロビーなどで何をしているの? と、相変わらずに図太い神経の女だ。
「バーで飲んでいただけだ。曹は部屋に戻っている」
「ふぅん? あなたを置いて先に部屋へ戻っちゃうなんて曹先生も薄情ね」
優秦は何とかして会話を引き延ばしたい素振りでいたが、正直なところ構っている場合ではない。
「用があるので失礼する」
風はきっぱりと強めの口調でそれだけ告げると、もう彼女を振り返ることなくその場を後にした。周や鐘崎以下、皆も同様で、誰一人として愛想の笑顔すら見せずに立ち去った。
「ちょっと風……!」
呼び止めたが振り返る者はいなかった。
「なによ! あの態度! 失礼にもほどがあるわ……!」
いくら事件を起こしたからといって、もうあれから二年以上も経っている。自分たちはファミリーも抜けさせられてヨーロッパという遠い地に移り住んだわけだし、制裁ならもう十分だと思うのだ。
「……ッ! せっかくこのアタシが力を貸してやろうと思ったのに! 曹先生は部屋に戻っているですって? 嘘をつくのも大概にしろってのよ!」
曹は美紅らと共に行方不明になっているというのに白々しい――と、憤りが隠せない。
「いいわ、そっちがその気ならもう曹先生たちのことだって助けてあげないんだから! 今頃彼らが何処にいるかの見当さえつけられないくせしてさ! せいぜいこのアタシを蔑ろにしたことを後悔するといいわ!」
優秦はスマートフォンを取り出すとすぐに地元の不良グループに指示を出した。
「見てなさい。この界隈で悪名高い暴走グループに襲撃させてやるんだから! いくら曹先生がデキる男だからって、あれだけの大人数に襲われれば勝ち目なんかないんだからね! 後で泣いたって遅いわよ!」
こうして暴走グループが曹らの元へと集結することになってしまったのだった。
「老板、女をつけます。こんなところで偶然に出くわすなど胡散臭いにもほどがあります。もしかしたら今回の事件の裏で手を引いているのはあの女かも知れません」
李が名乗りを上げる。
「そうだな。偶然にしては出来過ぎている。楚優秦の仕業の線が濃厚だ」
何も手掛かりがない以上、皆でここにいても解決しない。
「では李と共に私も同行しましょう。ドイツ語が必要と思われます」
鄧の兄である海もそう言ってくれるので、周兄弟はひとまず彼らに託すこととした。
それならば諦めるしかない。
「そうか。では我々はこれで失礼する」
早々に立ち去ろうとした周風を優秦は慌てて引き止めた。
「あら、随分じゃない? そんなにそっけなくしなくてもいいじゃないの。それよりあなたたちこそ皆んなで怖い顔して何かあったの? 曹先生の姿が見えないけど、いつもあなたにビッタリなのに珍しいこと」
もう深夜だというのに、こんなロビーなどで何をしているの? と、相変わらずに図太い神経の女だ。
「バーで飲んでいただけだ。曹は部屋に戻っている」
「ふぅん? あなたを置いて先に部屋へ戻っちゃうなんて曹先生も薄情ね」
優秦は何とかして会話を引き延ばしたい素振りでいたが、正直なところ構っている場合ではない。
「用があるので失礼する」
風はきっぱりと強めの口調でそれだけ告げると、もう彼女を振り返ることなくその場を後にした。周や鐘崎以下、皆も同様で、誰一人として愛想の笑顔すら見せずに立ち去った。
「ちょっと風……!」
呼び止めたが振り返る者はいなかった。
「なによ! あの態度! 失礼にもほどがあるわ……!」
いくら事件を起こしたからといって、もうあれから二年以上も経っている。自分たちはファミリーも抜けさせられてヨーロッパという遠い地に移り住んだわけだし、制裁ならもう十分だと思うのだ。
「……ッ! せっかくこのアタシが力を貸してやろうと思ったのに! 曹先生は部屋に戻っているですって? 嘘をつくのも大概にしろってのよ!」
曹は美紅らと共に行方不明になっているというのに白々しい――と、憤りが隠せない。
「いいわ、そっちがその気ならもう曹先生たちのことだって助けてあげないんだから! 今頃彼らが何処にいるかの見当さえつけられないくせしてさ! せいぜいこのアタシを蔑ろにしたことを後悔するといいわ!」
優秦はスマートフォンを取り出すとすぐに地元の不良グループに指示を出した。
「見てなさい。この界隈で悪名高い暴走グループに襲撃させてやるんだから! いくら曹先生がデキる男だからって、あれだけの大人数に襲われれば勝ち目なんかないんだからね! 後で泣いたって遅いわよ!」
こうして暴走グループが曹らの元へと集結することになってしまったのだった。
「老板、女をつけます。こんなところで偶然に出くわすなど胡散臭いにもほどがあります。もしかしたら今回の事件の裏で手を引いているのはあの女かも知れません」
李が名乗りを上げる。
「そうだな。偶然にしては出来過ぎている。楚優秦の仕業の線が濃厚だ」
何も手掛かりがない以上、皆でここにいても解決しない。
「では李と共に私も同行しましょう。ドイツ語が必要と思われます」
鄧の兄である海もそう言ってくれるので、周兄弟はひとまず彼らに託すこととした。
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