極道恋事情

一園木蓮

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ダブルトロア

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「おっしゃる通り、私どもは当初フランスで細々と事業を始めたのですが、ひょんなご縁からこのウィーンで商売をしてみないかという誘いを受け、ここへ移り住んだのでございます」
 転居のことを香港に報告しなかったのは自分の落ち度だと言って、光順は涙した。彼にしてみれば、もう周直下を離れた身だ。いちいち自分たちのことで香港のファミリーを煩わせることもなかろうと思っての気遣いだったのだろうが、こんなことになるならやはり居処くらいは報告しておくべきだったかと酷く後悔しているようであった。
「風老板、娘のしたことは私が行ったも同然です。どうか我々を警察に突き出してください」
 現時点で警察を呼んでいないということは、風の温情と心得たのだろう、彼らが通報しないというのなら、光順は自ら娘を連れて自首する覚悟でいるようだ。
 だが風はそんな彼を引き留めた。
「まあ待て。警察に突き出すのは簡単だが、それでは根本的な解決にならんだろう。如何に許し難い企てといえど、曹ら皆の機転で大事は免れたわけだ。実際の被害という点では大した罪にはならない。刑期が明けてシャバに出ればまた同じようなことが起こらんとも限らない」
 風としてはこのカタは司法ではなく裏の世界の掟に則ってつけるのが筋だというのだ。
「既に香港の親父にも報告を入れている。沙汰は親父の考えを聞いてからにさせてもらう」
「……は」
 光順は今この場で自害してでもすぐに制裁を受けたいといったような顔つきで、その場に崩れてしまった。
「何にせよ一度香港に出向いてもらうことになろう。それまで優秦の身柄は預からせてもらう。貴殿にとっては心痛むことだろうが、そこは了承して欲しい」
「は……」
 もう声にすらならないまま床に突っ伏して動けずにいる彼を、誰もが気の毒な思いで見つめるしかできなかった。



◇    ◇    ◇



 その後、ウィーンでの滞在期間中は風の側近らが交代で優秦を監視することとなり、父の光順も一旦自宅へと帰されることとなった。むろんのこと、こちらも監視付きだ。光順には気の毒といえるが、万が一にも責任を取って自決などされたらいけない。それは誰もが望むことではないからだ。
 また、周ら一行も残っていた見本市での仕事が済めば、後は帰国までの数日を観光して過ごす予定でいたわけだったが、とんだ事件のせいでか誰もが心から楽しい気分ではいられなかったのは致し方ないといえよう。それでもせっかくヨーロッパまで来たことだしと、皆は予定通り観光名所を巡って歩くことに決めたのだった。
 今度は曹に李、源次郎といった精鋭ががっしりと主人らの脇を支えて出掛けたので、何かと安心ではあったものの、楚光順の胸の内を思えばやはり心底から浮かれる気にはなれない。誰もがどこそこ遠慮がちな表情でいる中、周と鐘崎が皆を元気付けるように明るい声を出してみせた。
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