極道恋事情

一園木蓮

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ダブルトロア

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 それとは裏腹、ホテルに着くと優秦の父・楚光順がいたたまれない表情で一行を待っていた。
「周風老板! も、申し訳ございません!」
 光順は必死の形相で駆け寄って来ると同時に、風らの前で崩れ落ちるようにして土下座をした。これ以上ないくらいに身を縮め、頭を床に擦り付けたまま言葉すら発せずの勢いでいる。できることならこのまま地中に埋まってしまいたいというようにして床にへばりついている彼を、風の側近らが両脇から抱え上げてようやくと顔を見ることができたといったところだった。
 風にしてみても、この光順がどんな人間かはよくよく分かっているつもりだ。彼は周直下に与していた頃から人柄も温厚で、忠義にも厚く信頼たり得る人物だったからだ。
 そんな彼が間違っても今回のような企てを考えるはずもない。例によって娘の優秦が勝手にしたことで、父である彼には何ら責任はないことも風らは重々理解していた。
「楚光順、とにかく顔を上げてくれ。此度のこと、貴殿の仕業だとは思っていない」
 それよりもこうなった経緯について少しでも知っていることがあれば話してもらいたいと風は言った。光順もまた、自身の知り得る限りのことをすべて報告せんと、未だ頭を上げられないまま蚊の鳴くような声で経緯を話し始めた。
「皆様がこのウィーンで開催される宝飾市にいらっしゃることは香港時代から懇意にしていた知人に聞き、知りました。彼もまた我が娘の優秦が起こした二年前の事件のことを危惧してくれておりまして、万が一にもこのウィーンの街で皆様と娘が鉢合わせることのないようにと気遣ってくれていたのです」
 その情報を知った後、光順は宝飾市の開かれる間は娘を家族旅行に誘い、ウィーンを離れる心づもりでいたそうだ。
「ですが、娘を誘いましたところ、ちょうどその期間は女友達とイギリス旅行に行きたいと申しました。それは何よりだと思い、私は快諾いたしました」
 だが実際にはイギリス旅行などへは行っておらず、今回の企てを実行すべくウィーンに留まっていたわけだ。
「出発の日、私が自ら娘を空港まで送りました。娘は大きなスーツケースを持って行きましたし、まさかこのウィーンに残っているなどとは夢にも思いませんでした。家を出てからあれがどこでどうしていたのかは見当もつきません」
 つまり光順は彼女がどこで寝泊まりしているのかも知らなかったというわけらしい。
「経緯は解った。だが貴殿らがこのウィーンに移り住んでいたとはな。香港を離れた当初はフランスに行くと聞いていたが」
 風が訊くと光順は未だ頭を上げられないままで引越した経緯についても詳しく話してよこした。
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