極道恋事情

一園木蓮

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紅椿白椿

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「組長さん、皆さん……どうかその……もうお顔を上げてください……。お気持ちはよく分かりました。私どもこそご無理なことを申し上げたことをお詫びします」
 そう言われて、ようやくと三人は姿勢を直した。
「ご理解に感謝いたします」
「いいえ……。で、ではそろそろ失礼させていただきましょうか……」
 辰冨は立ち上がったが、鞠愛は完全には納得しきれていないようだ。それでも唯一本能で感じるのは、自分はおそらく一生この鐘崎遼二という男には振り向いてもらえることはないのだろうということだった。
「……何よ、そんな仰々しいことされたら……こっちの立場がないじゃない。まるでアタシたちは悪者扱い……? 失礼だわ!」
 こんなことならあの時助けてあげるんじゃなかったとさえ言いたげにキッと睨みをきかせると、ワナワナと身を震わせながら席を立った。
「パパ、帰りましょう! まさかこんな仕打ちを受けるなんて思ってもみなかったわ……。命の恩人だの感謝してるだのって……所詮は口だけじゃないの! 綺麗事ばっかり並べ立てて……自分たちの主張だけはこれみよがしに正当化して……! 本当は恩だなんてこれっぽっちも思ってやしないのよ! こんな無礼な人たち……こっちから願い下げだわ!」
 ののしらずにはいられないとばかりの暴言と共に、逃げるようにして自ら部屋を出ていった。父親の方はさすがに大人だ。丁寧に一礼すると、娘の後を追ったのだった。



◇    ◇    ◇



 親娘の去った応接室で僚一はやれやれと微苦笑を浮かべると、大きな伸びと共にソファへと腰を下ろした。だが、鐘崎としてはそんな余裕はとうにない。大真面目な表情で父を見やりながら、深々と頭を下げた。
「親父……自分が不甲斐ないばかりにお手を煩わせてしまいました。申し訳ありません」
 普段はおおよそ滅多に使わない敬語で謝罪し、それこそ腰を九十度に折ってビシッと礼をする。その姿勢が今の胸中をありありと代弁しているかのようだった。
 紫月もまた、亭主の横に並んで頭を下げた。
「お手数をかけました。ありがとうございました」
 そんな息子夫婦にうなずきながら、僚一は明るくおどけた声を出してみせた。
「ああ、いい、いい! 楽にしろ。お前さんたちもご苦労だったな!」
 するとタイミング良くか源次郎が茶を持ってやって来た。彼もまた、応接室の様子を隣の事務所のモニターから窺っていたのだった。
「若、姐さん、お疲れ様でございましたな」
 皆の前に茶を差し出しながら労いを口にする。
「源さんも一緒にやってくれ」
 僚一がソファを譲りながら源次郎の腰掛けるスペースを作る。
「しかしあの親娘は手強かったな。さすがの俺でも一人じゃ太刀打ちできなかったろうぜ」
 三人で頭を下げたから理解してもらえたのだと言って笑う。むろんこれは僚一なりの気遣いに他ならないし、酸いも甘いも熟知している彼ならば当然一人で対処できたのだろうが、鐘崎も紫月も父が自分たちの気持ちを楽にしてくれる為にわざとそんなことを言ってくれているのだと重々承知していた。
「感謝しています。本当に……」
「うむ、お前たちの気持ちはよく解ってる。もう気にするな」
 そう言って笑う。
 と、そこへ扉がギシギシという音が聞こえてきたと思ったら、組員たちがおしくら饅頭のようにして応接室へと雪崩れ込んできた。
「おわ! 何やってるんでい、てめえら……!」
 源次郎が慌てて眉間に皺を寄せる。
「す、すんません!」
「だって気になって仕方なかったス!」
「そうっスよ! 若と姐さんに何かあったらと思うと気が気じゃなかったっス!」
「俺らの姐さんは一人しかいねえっス! でーじな姐さんに何かされようもんなら、俺たちゃ命かけて身体を張りますぜ!」
 自分たちの姐さんは紫月しかいない。万が一にも恩を盾に取られて姐さんが肩身の狭い思いでもしようものなら、迷わず戦争おっ始めますぜとばかりに鼻息を荒くしながらも、ホッとしたように安堵の視線を向ける。中には涙ぐんでか鼻の頭を真っ赤にしている者もいるくらいだ。
 そんな組員たちを見渡しながら僚一はとびきりの笑顔で微笑んでみせた。
「心配するな。俺と遼二の目の黒い内は天地がひっくり返っても滅多なことはさせやせん!」
 頼もしい言葉に、皆はそれこそ組を挙げてといったくらい歓喜に湧き立ったのだった。
 鐘崎と紫月もまた、あたたかい皆の気持ちに支えられながら、この面々と共に生きていけることを至福に思うのだった。
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