極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
898 / 1,212
紅椿白椿

60(紅椿白椿 完結)

しおりを挟む
「我々は心から若と姐さんを尊敬し、お慕い申し上げております。生涯あなた方の下でお仕えし、ついて参りたいと存じます。未熟者の集まりではございますが、どうかこんな我々をお二人の子と思い、末永くお導きいただけたら幸甚でございます」
 清水の挨拶と同時に組員全員が揃って頭を下げた。
「清水……皆んな……」
 鐘崎の声は感激にくぐもり、その瞳には既に堪え切れなくなった涙があふれ出していた。紫月もまた同様だ。
 おそらくは後継ぎがどうの、孫の顔がどうのという何かにつけて世間から言われるであろうそれを吹き飛ばすかのように、自分たちが若頭夫婦の子供でありたいと、そんな思いを込めてくれたのだろう。あまりの嬉しさに鐘崎は図らずもその場で号泣してしまった。
「す……まねえ、皆んな……。こ……んな、嬉しい日にみっともねえところを見せちまって……極道としても立つ背がねえが、あんまりにも嬉し過ぎて……おめえらの気持ちが有り難くて、涙がとまらねえ」
 本当にありがとうと言っては目も鼻も真っ赤にしては男泣きする鐘崎に、組員たちもつられるように涙したのだった。
「皆んな、本当にありがとうな! 泰造親方と駈飛ちゃんもありがとう! それから親父たちに綾さん、源さん、氷川と冰君も本当にありがとう! 俺もこの白椿を授かったことだし、改めて皆んなと共にこの組を繁栄させていきたいと思ってる。俺も遼も未熟で足りねえところも多いが、これからも末永くよろしくな!」
 涙で言葉にならない亭主に代わって紫月が力強く微笑んだ。
「こちらこそ! これからもますますよろしくお願いいたしやす!」
「若頭、万歳ー!」
「姐さん、万歳ー!」
 皆が万歳に湧く中、
「よーし、それじゃ祝膳といくか! 皆、今日は無礼講だ。楽しんでくれ!」
 長の僚一の言葉で皆はそれぞれの席に着いて祝膳が運ばれてくるのを待つ。
「皆、ありがとう。乾杯の発声はここに集まってくれた全員にお願いしたい」
 真心でいっぱいの若頭からの要望で、乾杯の発声は全員ですることとなった。
「若と姐さん、鐘崎組とお集まりの皆様のご健勝ご発展を祈念して――乾杯!」
 野太く雄々しい声が大広間にこだまする。これからますます強く、熱くなる初夏の陽射しの如く歓喜あふれる幸せの宴はいつまでもいつまでも陽気な笑い声であふれてやまなかった。

 この至福の日を記念して、鐘崎と紫月の二人から皆に贈られた引出物は紅白椿の描かれた塗りの薬入れだった。いわゆる――かの有名な印籠である。房の組紐は黒に近い濃い蘇芳色と鮮やかな藤紫色が組み込まれており、二人の感謝の気持ちが込められた何よりの記念の品だった。組員たちはもちろんのこと、周や冰、綾乃木、それに庭師の泰造と小川にも贈られて、皆はまたひとしおの感激に浸ったのだった。


 紅椿白椿、互いの肩の上で生涯枯れぬ大輪の花と共にこの生を全うせん。
 手と手を取り合って、いつまでも永久とわに――。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

処理中です...