極道恋事情

一園木蓮

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慟哭

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 お前に手を出された日には、俺は修羅にも夜叉にも平気でなるぞ――若かりし青春の日に男が云った言葉だ。
 彼は唯一人の相手を心の底から愛していた。
 その相手の幸せが自分の幸せだと、口癖のようにそう言っていた。万が一にも想い人に危険が及ぶことがあったなら、自分の命に代えても構わない――本気でそう思っていた。



 極道として生きていくことを決めた時、人前では決して弱みを見せまいと心に誓った。
 幸せの涙を晒すことがあったとしても、苦渋の涙は決して見せるまい。例えそれがどんなに心を抉るような悲しみであったにせよ、慟哭を胸の中に押し殺し、平静を装わねばならない。
 それがくだらない意地だと言われても、男が一度決めたこと――貫き通していかねばならない。



 暖かい春を迎える前には厳しき越冬が待っている。
 雄々しい太陽が燦々と輝く真夏の直前には、梅雨明けを告げる雷鳴がやってくる。
 そんな季節の儀式の如く、凍てつく氷が大地を覆い、分厚い雲が連れてくるいかづちが愛する者らの頭上に立ち込めようとしていた。






 冬来りなば、慟哭を呑み込んで――





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