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慟哭
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一方、汐留では周焔が李以下側近を伴って鐘崎と合流すべく港の倉庫街を目指していた。体制は仰々しいくらいに万全を敷いて出掛ける。
まずは周と李らはいつものセダンではなく通信機器などを積み込んだ専用のワゴン車――他所からの傍受などにも完璧な対策が敷かれている強固なキャンピングカーのような代物だ。その他に、怪我人が出た際を考慮して最新設備を積み込んだ医療車は必須。万が一の際には車両の中で手術も行えるようになっている。それには医師の鄧浩を筆頭に、医療室に詰めている助手の医師らも数人同行させる。
別口では乱闘を踏まえて、もしもの時に盾にできる頑丈なトラックに、逃走劇になった場合に性能の点で有利なスピード重視のスポーツカー、万が一の銃撃戦に備えてあらゆる武器と通信機材などが積み込まれた専用車なども出動させる。
冰には汐留に残るよう伝えたが、とてもじゃないがじっとしていられないと言って、彼も半ば強引について来たのだった。
時刻は夕方の四時半に差し掛かったところだった。今は夏場で陽が最も長い時期だ。高速道路を西へ急ぐ車中から望む景色は、焦燥感とは裏腹に、昼間のどんよりとした曇り空から一転、雲間から夕陽が差し込んで眩いばかりだった。
その車中で橘から共有された情報がキャッチされる。李があらゆる通信機器を屈指しながらすぐさま辰冨鞠愛の足取りについて調査に取り掛かった。
「辰冨鞠愛というと、カネを追い掛け回してたっていう例の女か――。まだ諦め切れていなかったということか。カネではなく一之宮に直接連絡をしてきたということは目的は恋情が叶わなかったことによる逆恨みの報復と考えるのが妥当だろう。港の倉庫街といい、女が単独で思い付ける場所じゃねえな。おそらく場慣れした男連中を連れていると見て間違いねえ」
彼女がいつ日本に入国し、誰と行動を共にしているのかなどの足取りを調べていく。
「外交官の娘ということだが、父親が一緒でない限りプライベートジェットではないか――。入国は一般路線の可能性が高いだろうな」
「老板のおっしゃる通りですね。念の為、本日から遡って一般路線、プライベートジェット共にしらみ潰しに当たります!」
李があらゆる方面から出来得る限りの情報を拾っていく。こうした調査にかけては、周の下では彼の右に出る者はいないというくらいのスペシャリストだ。しかも危険が迫っているのは鐘崎の伴侶である紫月となれば、李もまた全力を振り絞って情報収集に当たるのだった。
「目的地に着いたら全員倉庫を取り囲むように散らばって配置につけ。各自サイレンサーを付けて銃を携帯、防弾ベストも忘れるな! 鄧は医療車で待機だ。それから冰、お前も鄧たちと共に車へ残れ」
現段階で冰にできることは少ない。
「分かった! 白龍たちも気をつけて!」
心配ながらも素直にうなずく冰だった。
まずは周と李らはいつものセダンではなく通信機器などを積み込んだ専用のワゴン車――他所からの傍受などにも完璧な対策が敷かれている強固なキャンピングカーのような代物だ。その他に、怪我人が出た際を考慮して最新設備を積み込んだ医療車は必須。万が一の際には車両の中で手術も行えるようになっている。それには医師の鄧浩を筆頭に、医療室に詰めている助手の医師らも数人同行させる。
別口では乱闘を踏まえて、もしもの時に盾にできる頑丈なトラックに、逃走劇になった場合に性能の点で有利なスピード重視のスポーツカー、万が一の銃撃戦に備えてあらゆる武器と通信機材などが積み込まれた専用車なども出動させる。
冰には汐留に残るよう伝えたが、とてもじゃないがじっとしていられないと言って、彼も半ば強引について来たのだった。
時刻は夕方の四時半に差し掛かったところだった。今は夏場で陽が最も長い時期だ。高速道路を西へ急ぐ車中から望む景色は、焦燥感とは裏腹に、昼間のどんよりとした曇り空から一転、雲間から夕陽が差し込んで眩いばかりだった。
その車中で橘から共有された情報がキャッチされる。李があらゆる通信機器を屈指しながらすぐさま辰冨鞠愛の足取りについて調査に取り掛かった。
「辰冨鞠愛というと、カネを追い掛け回してたっていう例の女か――。まだ諦め切れていなかったということか。カネではなく一之宮に直接連絡をしてきたということは目的は恋情が叶わなかったことによる逆恨みの報復と考えるのが妥当だろう。港の倉庫街といい、女が単独で思い付ける場所じゃねえな。おそらく場慣れした男連中を連れていると見て間違いねえ」
彼女がいつ日本に入国し、誰と行動を共にしているのかなどの足取りを調べていく。
「外交官の娘ということだが、父親が一緒でない限りプライベートジェットではないか――。入国は一般路線の可能性が高いだろうな」
「老板のおっしゃる通りですね。念の為、本日から遡って一般路線、プライベートジェット共にしらみ潰しに当たります!」
李があらゆる方面から出来得る限りの情報を拾っていく。こうした調査にかけては、周の下では彼の右に出る者はいないというくらいのスペシャリストだ。しかも危険が迫っているのは鐘崎の伴侶である紫月となれば、李もまた全力を振り絞って情報収集に当たるのだった。
「目的地に着いたら全員倉庫を取り囲むように散らばって配置につけ。各自サイレンサーを付けて銃を携帯、防弾ベストも忘れるな! 鄧は医療車で待機だ。それから冰、お前も鄧たちと共に車へ残れ」
現段階で冰にできることは少ない。
「分かった! 白龍たちも気をつけて!」
心配ながらも素直にうなずく冰だった。
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