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春遠からじ
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「アンタは女だ。俺たち野郎にとっては今ひとつよく分からねえ女心ってところで聞かせて欲しいんだがな。仮に今いる俺たちの中でアンタが惚れるとしたら誰を選ぶ? できればその理由も――例えばこいつとは付き合ってもいい、こいつは遠慮したい――ってなことも感じたままに教えて欲しい」
え――?
これにはメビィならずもこの場の誰もが驚いたように目を見張らされてしまった。周が何を言いたいのかまったく分からなかったからだ。
だが当の周は嫌味を言っているわけでもなく、はたまたからかっているわけでもなく、至極真剣そうだ。わずか沈黙の後にメビィは素直に答えてみせた。
「……そうね。まずあなた、周さんは付き合ってもいい――っていう方に入るかしらね。理由は――あなたが真剣にアタシを想ってくれたとしたら、おそらく裏切るようなことはしないと思うから。でもアタシの片想いっていうか、あなたがアタシをどう思ってくれているのか分からない内は……自分から打ち明けようとは思わないかも。あなたは自分の芯を持ってる感じがするから、もしもアタシなんか眼中にないっていう場合だったら、告白しても絶対に相手にしてもらえそうにないから」
「ほう? それで――?」
周は面白そうに続きを待つといった顔つきをする。
「そちらの――鄧さん? 彼も見た目はすごく素敵だけど、彼氏にするとしたら今ひとつ考えてることが読めなさそうでちょっと不安かな。っていうよりもすごく頭が良さそうだから、アタシ程度の女じゃきっと満足はできないだろうなって思うから――例えば第一印象でいいなと思っても、見下されるのが怖くて近付かないかも」
鄧は『おやおや』と笑ったが、次第に皆も自分が女性にどう思われているのかという興味が湧いたようだ。冰などはドキドキしながら自分はどう見られているんだろうとキョロキョロ視線を泳がせている。
「周さんのご伴侶の冰さん――だったかしら? 彼は心底性質が良さそうで、人間的には素晴らしい男の方だと感じるわ。ただアタシのようなアバズレにはもったいないっていうか、一緒にいて申し訳ない気持ちになっちゃいそうだから恋には発展しないかな」
「ほう? なるほどな」
なかなかに見る目があるじゃねえかと周はご機嫌だ。
「遼二さんは――見た目は抜群で、もしも相思相愛になれたとしたら最高の旦那様でしょうけど……アタシは……多分真剣にのめり込むことはないような気がするわね」
「ほう? そりゃまたどうしてだと訊きたいわな」
周が不敵に口角を上げる。
「うーん、素敵すぎて――いつも誰かに盗られちゃわないかってハラハラするのがくたびれちゃう気がするから」
ペロリと舌を出して笑った彼女に、周は「ハハハ」と声に出して受けてしまった。
「ってことは、アンタが選ぶとしたら一之……いや、紫月ってことか」
「そうね、紫月さんとなら――永く暮らしていく上で背伸びしないでいられそうって思うかも。時には喧嘩もできるし、でもちゃんとお互いを想い合っていられそうだし、何より人間性がすごく素敵! っていうか尊敬してるものアタシ、紫月さんのこと!」
そう言った側から、『んー、でも……』とメビィは腕組みながら考え込む仕草をしてみせた。
「でもやっぱり紫月さんとは友達でいたいかなぁ。例えば仕事で何かしくじったとか悩んでいる時とかに思いっきり愚痴を聞いてもらえそうだし、その時々でちゃんとしっかり『そうか』って思える答えを返してくれそうだから。心の安寧の場所っていうのかな。恋人や夫婦になれば、例えばお互いに性格が合わなくて別れることになる可能性もあるわけでしょ? でも紫月さんとはずっと繋がっていたい。生涯いい関係でいたいって思うから、別れる可能性のある恋人っていう関係よりも一生付き合っていける友達でいたいかも」
ひとつひとつ丁寧に詳しく答えた彼女に、それまで黙って聞いていただけだった鄧が興味ありげに口を挟んだ。
「なるほど、面白い考察力ですね。もしかしてあなたは何か心理学のようなことを学ばれたことがお有りですか?」
医者ならではの視点なのか、周らとはまた別の意味で興味を引かれた様子だ。
え――?
これにはメビィならずもこの場の誰もが驚いたように目を見張らされてしまった。周が何を言いたいのかまったく分からなかったからだ。
だが当の周は嫌味を言っているわけでもなく、はたまたからかっているわけでもなく、至極真剣そうだ。わずか沈黙の後にメビィは素直に答えてみせた。
「……そうね。まずあなた、周さんは付き合ってもいい――っていう方に入るかしらね。理由は――あなたが真剣にアタシを想ってくれたとしたら、おそらく裏切るようなことはしないと思うから。でもアタシの片想いっていうか、あなたがアタシをどう思ってくれているのか分からない内は……自分から打ち明けようとは思わないかも。あなたは自分の芯を持ってる感じがするから、もしもアタシなんか眼中にないっていう場合だったら、告白しても絶対に相手にしてもらえそうにないから」
「ほう? それで――?」
周は面白そうに続きを待つといった顔つきをする。
「そちらの――鄧さん? 彼も見た目はすごく素敵だけど、彼氏にするとしたら今ひとつ考えてることが読めなさそうでちょっと不安かな。っていうよりもすごく頭が良さそうだから、アタシ程度の女じゃきっと満足はできないだろうなって思うから――例えば第一印象でいいなと思っても、見下されるのが怖くて近付かないかも」
鄧は『おやおや』と笑ったが、次第に皆も自分が女性にどう思われているのかという興味が湧いたようだ。冰などはドキドキしながら自分はどう見られているんだろうとキョロキョロ視線を泳がせている。
「周さんのご伴侶の冰さん――だったかしら? 彼は心底性質が良さそうで、人間的には素晴らしい男の方だと感じるわ。ただアタシのようなアバズレにはもったいないっていうか、一緒にいて申し訳ない気持ちになっちゃいそうだから恋には発展しないかな」
「ほう? なるほどな」
なかなかに見る目があるじゃねえかと周はご機嫌だ。
「遼二さんは――見た目は抜群で、もしも相思相愛になれたとしたら最高の旦那様でしょうけど……アタシは……多分真剣にのめり込むことはないような気がするわね」
「ほう? そりゃまたどうしてだと訊きたいわな」
周が不敵に口角を上げる。
「うーん、素敵すぎて――いつも誰かに盗られちゃわないかってハラハラするのがくたびれちゃう気がするから」
ペロリと舌を出して笑った彼女に、周は「ハハハ」と声に出して受けてしまった。
「ってことは、アンタが選ぶとしたら一之……いや、紫月ってことか」
「そうね、紫月さんとなら――永く暮らしていく上で背伸びしないでいられそうって思うかも。時には喧嘩もできるし、でもちゃんとお互いを想い合っていられそうだし、何より人間性がすごく素敵! っていうか尊敬してるものアタシ、紫月さんのこと!」
そう言った側から、『んー、でも……』とメビィは腕組みながら考え込む仕草をしてみせた。
「でもやっぱり紫月さんとは友達でいたいかなぁ。例えば仕事で何かしくじったとか悩んでいる時とかに思いっきり愚痴を聞いてもらえそうだし、その時々でちゃんとしっかり『そうか』って思える答えを返してくれそうだから。心の安寧の場所っていうのかな。恋人や夫婦になれば、例えばお互いに性格が合わなくて別れることになる可能性もあるわけでしょ? でも紫月さんとはずっと繋がっていたい。生涯いい関係でいたいって思うから、別れる可能性のある恋人っていう関係よりも一生付き合っていける友達でいたいかも」
ひとつひとつ丁寧に詳しく答えた彼女に、それまで黙って聞いていただけだった鄧が興味ありげに口を挟んだ。
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