極道恋事情

一園木蓮

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倒産の罠

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「悪党共の検挙は表向き警視庁の連中に任せるが、我々は彼らとはまた別の意味で敵の息の根を止めねばならない。冗談でもマフィアの組織を囮にするんだ。調子付いて今後良からぬ考えを起こされては迷惑だからな。そちらの方は香港のボスと鐘崎組が上手く始末をつけてくださる算段だ」
 曹の言葉を受けて李と劉が意思のある表情でうなずく。
「承知した。私と劉も滞りなく計画を進められるよう邁進する。その間、焔老板と冰さんにはご苦労をお掛けするが、一日も早くここへお戻りいただけるよう頑張るぞ」
「かしこまりました! 私も李さんと共に励みます!」
「うむ、社の方は李と劉に任せるとして、焔君へは逐次現状をご報告する。その役目は鄧、お前さんに任せたい」
「いいでしょう。では私は周囲に気付かれぬよう変装にて焔老板と接触します。同時に老板たちのご健康も窺えますし」
 鄧は医師であるから、周らが慣れない生活の中で身体を壊さぬよう健康面でも気遣ってくれるという。
「ではそちらは鄧に任せた。俺の方では今日から鐘崎組の遼二が秘書として就いてくれることになっている。香港の企業に潜入した当初から俺は日本人として曹田来人そうだ らいとと名乗っているからそのつもりでいてくれ。遼二の方も金山理央かなやま りおという偽名を使う。名刺などは手配済みだ。遼二と共に敵幹部たちとの接触が主になるが、社の業務に関する質問などを受けた際には李と劉に対応してもらう」
 曹は経営者というよりも次なる乗っ取り先を敵に提案する役目を担うという。
「各自、密に連絡を取り合いながら慎重にやっていくぞ」
「承知!」
 こうして裏社会の男たちの計画は本格的に動き出すこととなった。



◇    ◇    ◇



 一方、周と鐘崎の方でも敵の目を欺く為の日々が始まっていた。周は早朝から工事現場で日雇い労働者として働き出し、冰もまた紹介された図書館への勤務が始まった。その間、鐘崎は曹の直近の部下という形で秘書役を演じながらも、何とか敵組織の幹部連中と対面できる機会を窺っていく。と同時に、紫月には組の若い衆と共に目立たぬよう冰らの護衛を引き受けてくれるようにと頼んだ。
「いいか? 遼の話では乗っ取り犯たちが氷川や冰君の暮らしぶりを偵察に来るってことだからな。あろうことかヤツらは企業をぶん取るだけじゃ飽き足らず、強盗にまで入るって話だ。氷川ン家には昼間は真田さんが一人だ。会社乗っ取られた上に強盗なんざ冗談じゃねえ。何があっても真田さんが被害に遭わねえよう守ってくれ。それから冰君のことも同様に見守るぞ! まかり間違って変なちょっかい掛けられねえようにしっかり見張ってくれ。何かあっても氷川は自分で対処できるだろうが、真田さんや冰君に手を出されたらいけねえ。極力気付かれねえように二人をガードするんだ」
「了解です!」
 組員らは図書館に通う清掃業者や一般市民を装ったりして、がっしりと冰の警護体制を固めていった。むろん、アパートに残っている真田の周辺にも同じように護衛が配置された。
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