極道恋事情

一園木蓮

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身勝手な愛

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 汐留、午後九時――、ラグジュアリーと言われているホテルのバーだ。
「しかし変わられましたね、焔老板イェン ラァオバンも。すっかり企業人になってしまわれていて驚いた――」
 カラカラとスコッチのグラスを弄びながら男が苦笑する。香港マフィア頭領の次男坊で今は東京の汐留にて大手商社を経営している周焔ジォウ イェンについての話題だ。
 男の対面ではその周焔側近の李狼珠リー ランジュが感情の見えない無表情でバーボンを傾けていた。
「――褒め言葉と受け取っておく」
 仮にも侮蔑の意味で言ったのなら容赦しないぞという意味だ。
「何もそういきり立つことはないでしょう。悪い意味で言ったわけじゃありませんよ。あなたも相変わらずですね、李さん」
 決して怒っているというわけではなかろうが、どうもこの李という男は感情の起伏が見えにくい。まるでそう言いたげに男は肩をすくめてみせた。
 男の名は郭芳グォ ファン、元は香港の周ファミリーに与していたことのある――李からすればいわば昔の同胞だ。とはいえ郭芳グォ ファンがファミリーにいたのはほんの数年で、同胞と思っているのは彼のみかも知れない。
「他人のことよりお前さんの方はどうなのだ。確かモデル業一本で生きてみたいからヨーロッパに渡ると言って組織を抜けたと記憶しているが」
 そうなのだ。この男、郭芳グォ ファンは元々香港にいた頃から見目の良い容姿を買われて、表向きはモデルとして芸能事務所に在籍しながら社交界で情報収集に当たるというお役目を授かっていたという経緯の持ち主である。主には李同様、周焔の管轄下に置かれていた男である。
 ところがそのお役目でやっていたはずのモデルという職業が性に合ったとかで、本格的に世界の檜舞台で勝負してみたいだなどと身勝手な理由からファミリーを抜けたのだった。――が、思ったようにうだつが上がらず、モデル業はほんの一年ほどでリタイア、ヨーロッパを出て以降は東南アジアに渡ったらしい。
「本来だったら到底許されまい我が侭だ。それをボスが寛容なお心でお赦しくださったのだ。他の組織では有り得んことではあるな」
 無表情のままで李が言う。いわば嫌味である。男はバツの悪そうに苦笑いを繰り返してみせた。
「まあそう苛めないでくださいよ。私だって単なる身勝手でファミリーを去ったわけじゃない。モデルを隠れ蓑に情報収集するのなら、香港という小さな枠にとらわれず世界の舞台でより貴重な情報をファミリーに提供したいと思ったからです」
 今でもファミリーのことは何より敬服しているのだと彼は言った。
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