極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
1,035 / 1,212
身勝手な愛

24

しおりを挟む
「当時はまだ掘削技術なども今ほど発達しておらんかったからの。現場では事故も多く、怪我人もしょっちゅう出ていたそうじゃ。そんな中、若い隼坊っちゃんは現地の工員たちと一緒になって掘削を手伝ったりしておった」
 ところがある日、現場で落盤事故が起こり、工員を庇った隼が巻き込まれたのだそうだ。
「坊っちゃんの機転で工員たちの怪我は軽くて済んだのじゃが、落石と一緒に掘削中の斜面から滑り落ちたことで身体中に無数の傷を負っての。坊っちゃんは高熱を出してしまわれたのじゃ」
 麓の村から多少医療の心得がある者が駆け付けては来たのだが、元々過疎地の上に当時は都市部からの交通も整っておらず、満足な薬も調達できなかったそうだ。
 三日三晩経っても高熱は下がらず、寝具などもふかふかのベッドなどあるわけもない。隼はとにかく寒がって、容態は悪くなる一方――。そんな時、氷川あゆみが寝ずの看病をしてくれたのだそうだ。
「あゆみ殿はご自分の着ていた衣服を脱いで裸身になり、熱でうなされ寒さに震えておった坊っちゃんの布団になるように寄り添っては、体温で坊っちゃんを温めてくれなすった……」
「お陰で数日後には熱も下がって快復に向かったが、若い男女のことじゃ。あゆみ殿はとてもお綺麗で気立てのいい娘御だったし、嫁入り前だというのに裸を晒してまで坊っちゃんの為に献身的な介護をしてくれたのじゃ。坊っちゃんが心惹かれないわけもなかった」
 二人がどのように惹かれ合って、どのように気持ちを紡いだのかは分からなかったという。だが、その時に情を交わし合ったことは事実だったのだろう。
「あゆみ殿が子を孕ったことを知ったのは、現地の視察から帰って三月みつきもした頃じゃった。坊っちゃんはその時の礼を言いに日本へ出向き、懐妊を知ったそうじゃ」
 ちょうど隼が氷川財閥を訪ねた時、あゆみは孕った子を堕ろそうと病院に出掛けていたそうだ。それを知った隼が急いで彼女を追い掛けて、何とか手術に入る手前で引き留めることが叶ったのだそうだ。
「その後もあゆみ殿は子を堕すと言って聞かなかったそうじゃ。理由は坊っちゃんのことを嫌っていたわけではなく、既に妻も子もある坊っちゃんに迷惑が掛かってはいけないと……ただそれだけの思いだったと聞いておる」
 おそらくあゆみも隼のことを愛していたに違いなかろうが、妻子のある彼に迷惑を掛けまいと、たった一人でお腹の子を始末しようとしていたのだと皆は言った。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

処理中です...