極道恋事情

一園木蓮

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身勝手な愛

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「郭芳さん! 郭芳さん、いますか? お話したいことがあるんです。開けていただけませんか?」
 ドンドンと扉を叩いて呼び掛けると、郭芳が怪訝そうな顔つきで姿を現した。
「今度は何だ、騒々しい!」
「ああ郭芳さん。良かった。あなたにちょいとお願いがありましてね」
「お願い――だ?」
「そうです。ちょっとこちらへ来ていただけませんか?」
 怪訝に思ったわけか、郭芳は手下たちを引き連れて倉庫の中へとやって来た。
「それで? 話ってのは何です」
 手下に重鎮たちを見張らせて冰と対峙する。
「――周家とのリモートの準備はまだ整いませんか?」
「……ああ、まだ返事は来ませんね。私の伝手があるのはファミリーの中でも下っ端の連中ですからね。上へ上げるのに少々時間が掛かっているのかも知れません」
「そう……。それは困ったな。できれば早くして欲しいんだけどなぁ」
 冰はこれまでの態度とは一変、敬語もすっ飛ばした怠惰な素振りで呆れ気味に肩をすくめてみせた。
「実はね、郭芳さん! アンタが今回俺を拉致ってくれたことには感謝してるのよ。しかも周家との縁を切れときたもんだ! 俺にとっちゃこんな好都合はねえってことでね」
「好都合だ……? どういう意味だ」
「あんたは何も知らずに俺を拐って来たようだが、正直なところ俺はずっとこういう機会を待ってたわけよ。今は周家の次男坊の秘書として日本の汐留に住んでるが――実際はマフィアの檻の中に閉じ込められてるも同然でね。いい加減自由になりたいと思ってたわけ! けど俺一人であの次男坊を説得できるわけもなく――。半分は諦めの境地でいたんだけど――俺だって一応男だ。一生籠の鳥なんて冗談じゃない! いつか何かの機会が巡ってきたら……その時こそあいつの下から解放されてやるって――ずっとそう思ってきたわけ!」
 郭芳はもちろん驚いたが、重鎮たちにしてもそれは同様だったようだ。皆、ほとほとびっくりしたように目を剥いては互いを見合わせている。それらを横目に更なる太々しい態度で冰は続けた。
「郭芳さん、アンタどういうつもりでいるか知らねえが、リモートが繋がって俺が周家から無事に籍を抜いてもらえたら――その先はどうするつもりだったわけ? あのファミリーのことだ、犯人がアンタだってのはいずれ突き止められちまうぜ? 俺のことはともかく、このご老人方を掻っ攫ったとありゃあ、当然タダでは済まないだろうよね? この香港を出てどっかの国に高跳びでもするつもりだった?」
 冰は堂々たる素振りで郭芳が連れていた手下の胸ポケットに見つけたタバコをスイと抜き取った。
「悪い、火貸してくんない?」
 あまりの堂々ぶりに押されてか、手下も目を白黒させながら冰の咥えタバコに火を点ける。
「さんきゅ!」
 美味そうに煙を吐き出しながら冰は木箱の上へと腰掛けては笑った。
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