極道恋事情

一園木蓮

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身勝手な愛

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「で、では……さっきアンタが素直にサインしたのは」
「そ! 絶好のチャンスが転がり込んできて、これを逃す手はないと思ったからよ!」
「じゃ、じゃあ……キミはあの人……いや、周焔のことは何とも思っていないというのか? 噂じゃ結婚したということになっているが……」
「結婚? そんなふうにしときゃ、万が一俺が逃げ出しても、ファミリーの誰かが捕まえ易いとでも思ったんじゃねえの? 実際、そこのご老人方だって俺があの次男坊の妻だと思ってるようだしね」
 チラリと重鎮方に視線をやりながら小馬鹿にしたように笑う。冰はダメ押しするように続けた。
「……ったく! どいつもこいつも勘弁して欲しいっての! 周風だか周焔だか知らないけどさぁ、そのお爺さんたちだってさっきっから二人のことを素晴らしいご兄弟だとか何とか言って、こっちはもう耳が腐りそうなんだけどー! 素晴らしい兄弟どころか、使える物は都合よく使って他所には絶対渡さない。本人の意思も尊重しない。言う通りにならなきゃマフィアの権限を使って籠の鳥にする。俺から言わせりゃ人間を道具のように扱うクソ野郎としか思えねえけどね!」
 ここまでズケズケと兄弟をこき下ろした冰の態度に、重鎮たちは呆気にとられたままポカンと大口を開けている。さすがに郭芳も信じる気になったようだ。
「じゃあキミは……本当に周ファミリーと縁を切りたいと思っているのだな?」
「その通りよ! さっきっからそう言ってるでしょ! だからね、ホントはこんな所でノコノコやってたくないわけ! 今すぐにでも逃げたいのは山々だけど、周家の籍に入ってる内は逃げたところで世界中どこへ行ってもいずれ捕まる。そうなりゃ元鞘に戻されるだけで済むわけもないことくらいアンタにも分かるでしょ? 酷い仕打ちが待ってるか、あるいはホントに殺されちゃうことだって充分に有り得る。だからアンタの力を借りて、一も二もなく籍を抜きたいのよ。早いとこリモートってのを繋げて欲しいんだけどね」
 あーあ、とふてくされたように木箱の上で寝っ転がる始末だ。郭芳はすっかり冰の陽動作戦に嵌ってしまったようだ。
「……そうか。まさかキミがそんなふうに思っていたとはな。私は……少々勘違いをしていたようだ。このご老人方を拐ったのも……あの人のトップ就任の邪魔をされると思ったから、少し怖い目に遭ってもらって早々に隠居してもらうのが目的だった。この口うるさい重鎮たちがいなくなれば、あとの側近連中など何とでもなるんだ。実際、風老板よりも焔老板にトップを取って欲しいと思っている派閥の人間もいるはずだ。そいつらと手を組んで焔老板をトップに押し上げられる。キミのことは……てっきりあの人をたぶらかして腑抜けにした毒婦だと思っていたから……この際、脅して周家から追い出すつもりでいたんだが」

 なるほど――それが本音か。冰はおくびにも態度には出さないまま、心の中でそうだったのかとうなずいた。
 彼の本音を知ってしまえばこっちのものだ。この後のリモートで周一族と対面した際、どのように話を持っていけばいいかが組み立て易いからだ。
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