極道恋事情

一園木蓮

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身勝手な愛

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「お、お父様、お兄様……! もったいないお言葉でございます……! 俺は……お力になるどころか自分が連れ去られてしまって皆様にご迷惑をお掛けしてしまって……」
 確かに今回は結果オーライだったものの、重鎮方と冰の拉致犯がまったく別の人間という場合も有り得たわけだ。冰は自分がボサッとしていたせいで連れ去られるなどという失態を侵してしまったことに深く反省していると言って頭を下げた。
「まあ――冰の言うことも一理あるでしょう。こいつにとってもいい経験になったでしょうし、これからは街中などで気を抜かんように心掛けるでしょう」
 亭主の周もそう言うので、父と兄も少しは気持ちが軽くなったようだ。彼らにしてみれば冰が一人で自分たちの側近方を守り通してくれた恩がたいそう大きく感じられていたわけだからだ。
「それでな、あの郭芳だが――例の鉱山へ送ることにしようと思っている」
「鉱山……って、あのロンさんのいる……鉱山ですか?」
「そうだ。本来ならばファミリーの重鎮といえる者たちを拉致監禁したとあれば、即刻手打ちにすべきであろうがな。ヤツ自身もそれを望んでいて、今ここで我々に始末されるのが何よりの望みであり、けじめであると覚悟はできているようだったのだが――」
「結果として拐われた者が誰一人怪我もなく無事に帰って来たというのと、郭芳が心底から我々ファミリーに悪意を持っているわけではないというのが分かるのでな。首の皮だけは繋げてやることにしたのだ。それに――ヤツは冰の心意気にすっかりやられてしまったようでな、人生の最期にあのような方と巡り会えたことは何よりの幸せだと心酔しきりだ」
 今度生まれ変わってきたら自分もあの人のような大きな心を持てる人間になりたいと言っては涙していたそうだ。
 冰にとっては照れ臭いやら恐縮やらで、困ったようにうつむいてしまったのだが、とにかくは郭芳が最悪の極刑とならずに済んだことは素直に良かったと思うのだった。
「鉱山にはロンさんもいますしね。郭芳さん、元気でやってくれることを願っています」
 郭芳のような男にとっては体力的にも非常に厳しい生活となろうが、それでもこうして情けをかけてもらい、生かしてもらえただけでも御の字だろう。冰はまた、鉱山を訪れた際にロンや郭芳の元気な姿を見られることを楽しみに思うのだった。
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