極道恋事情

一園木蓮

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身勝手な愛

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「実母が親父の命の恩人というのは理解できた。だが、だからといってあんなに人の好い継母を裏切るようなことをした親父の行動が……どうしても納得いかなくてな。俺は生まれてくるべきじゃなかった人間なんだと悩んだこともあった。継母と兄貴にも申し訳ない――その思いから親父と口をきくのも嫌になって、反抗的な態度でいた頃もあったんだ。だが、そんな俺を叱咤してくれたのが兄貴だった」
 兄の風は自分たちに対して申し訳ないなどと思うお前の考え方は間違っている、親父も継母も、そしてむろんのこと実母のあゆみも――誰が悪いとか間違いを侵したなどということは無いのだと言ってくれたのだそうだ。
「兄貴は――俺が生まれてきたことを悔やむなど以ての外だと言ってな。逆に、運命が俺たち家族を巡り合わせてくれたのだ、こんなに尊いことはない。与えられた絆を大事にし、受け入れて精一杯共に生きようと言ってくれた。俺は情けなくて……と同時に有り難くて……兄貴の前で酷く泣いたのをよく覚えている」
 風とは少し歳が離れていたこともあり、時に父親のようにして包み込んでくれたそうだ。
「兄貴はその言葉通り実母のことも姉のように慕ってくれた。何も恥じることなどない、俺たちは全員で家族なのだと言ってくれてな」
 その頃から周はファミリーの為に何か役に立てることができないかと思い始めたそうだ。もちろん、家族以外の側近を含め、外では自分たち母子を疎む者がいることも知っていた。先程の重鎮たちもその一部だったのは事実だ。
「だから俺は――兄貴や継母の負担にならない場所から少しでもファミリーの支えになれる方法を探そうと思ったんだ」
 それには香港を離れて、遠く日本の地で起業し、わずかながらでもファミリーの資金源を提供できたらと思ったのだという。初めて周本人の口から聞くその経緯に冰はまたしても大粒の涙をこぼした。
「お前はいつもそうやって俺の為に涙してくれるのだな――」
 そう言いながら更に強く強く腕の中に抱き締める。愛しさ余ってか、周の低い声もわずかに震え、必死に堪えた熱い雫が今にも黒髪を濡らさんとするのを感じながら、冰もまた大きな背に両腕を回して抱き締め返した。
「白龍、生まれてきてくれてありがとう……! 出会ってくれてありがとう! 俺、俺……」
「それは俺の台詞だ。お前に出逢えて俺は――生まれてきて良かったのだと思うことができた。人を愛するという気持ちを知って――当時の親父と実母のことも素直に受け入れられるようになったんだ」

 お前が俺を導いてくれた。
 お前を愛し、愛されたからこそ今の俺があるのだ――。

 その思いのままに強く強く抱き締めた。
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