1,104 / 1,212
三千世界に極道の涙
4
しおりを挟む
「汰一郎君の話では証券会社に勤めて営業として働いているとか――。上司にも恵まれて真っ当に生きている、これも今まで気に掛けてくれた私のお陰だと言ってくれたのですが……まさか盗聴器を仕掛けて帰るなど……」
今は現役を退いたといえど精鋭の源次郎だ。素人の青年がソファに盗聴器を仕込むのを見逃すはずもなかった。
「汰一郎君の言うには近々身を固めるとかで、相手の女性を私にも紹介したいと言っておりましたから……おそらくは再度ここを訪ねて来るつもりでいるものと思われます」
盗聴器自体は始末しようと思えば容易だが、彼の目的を探る為にもしばらくは気付かぬふりをすべきかとも思っている――源次郎はそう言って肩を落とした。
「彼はこの邸の造りなど把握しているわけもないでしょうから、応接室に仕掛ければ何らかの情報が拾えるとでも思ったのでしょうが……」
鐘崎はそこまで黙って話を聞いていたが、一通りの状況が分かった時点でようやくと口を開いた。
「だが、その町永汰一郎にとって源さんはいわば恩人でもあるわけだろう? ヤツがこの邸を探りたい理由は何だと思う」
源さんには心当たりがあるかと訊いたところ、思いもよらない答えが返ってきて、鐘崎は驚かされてしまった。
「――おそらくは復讐かと」
「…………!? 復讐?」
「あの時、彼の両親だけを救ってやることができなかったわけですが、他の三家族は皆、汰一郎の同級生の家族でした。両親亡き後も彼らは級友として同じ小学校に通ったわけですが――そんな中で汰一郎はこれまでと何ら変わりのない友達を目の当たりにし、何故に自分だけがこのような不幸に見舞われなければならないのかと思ったはずです。あの時、彼の両親だけを救えなかった私を恨んだとしても不思議はありません」
結局、鐘崎は応接室の盗聴器をそのままにすることに同意し、しばらくは様子を見ようということになった。
父の僚一は例によって海外での仕事に出ていて留守である。彼がいれば何かと知恵を授けてくれそうだが、とにかくは自室へ戻り、夕卓を囲みながら紫月にもその旨を伝えた。
「そんなことがあったんか……。けどよ、その汰一郎ってヤツにとって源さんは成人するまで生活費を欠かさず援助してくれた恩人だべ? 彼の両親だけが亡くなっちまったのは気の毒としか言いようがねえが、そいつぁ源さんのせいじゃねえ。恨むとしてもその時財布を掏ったっていう少年グループに向けられるべきじゃねえか?」
確かに紫月の言うことも一理ある。
「まあ復讐ってのは単に源さんの想像ともいえる。もしかしたら目的は復讐ではなく、源さんにその時の少年グループを見つけ出して欲しいと思っている――ということも考えられる」
「その汰一郎ってヤツは源さんの――ってよりもウチの、鐘崎組の素性を知ってんのか?」
「おそらくはな。源さんが彼らの仲裁に入った事件の時、一応は警察も介入している。当時十歳そこらの子供だったとしても、生活費の援助まで続けてくれていたんだ。源さんがどこの誰なのかということを、施設を通して汰一郎はその素性を知ったはずだ。極道と言われているうちの組ならば、当時の犯人たちを捜すことも可能だと思ったのかも知れん。だが、もしそれが目的だとしたら、少年グループを捜し当てた段階で復讐を成し遂げるという可能性も出てくるがな」
今は現役を退いたといえど精鋭の源次郎だ。素人の青年がソファに盗聴器を仕込むのを見逃すはずもなかった。
「汰一郎君の言うには近々身を固めるとかで、相手の女性を私にも紹介したいと言っておりましたから……おそらくは再度ここを訪ねて来るつもりでいるものと思われます」
盗聴器自体は始末しようと思えば容易だが、彼の目的を探る為にもしばらくは気付かぬふりをすべきかとも思っている――源次郎はそう言って肩を落とした。
「彼はこの邸の造りなど把握しているわけもないでしょうから、応接室に仕掛ければ何らかの情報が拾えるとでも思ったのでしょうが……」
鐘崎はそこまで黙って話を聞いていたが、一通りの状況が分かった時点でようやくと口を開いた。
「だが、その町永汰一郎にとって源さんはいわば恩人でもあるわけだろう? ヤツがこの邸を探りたい理由は何だと思う」
源さんには心当たりがあるかと訊いたところ、思いもよらない答えが返ってきて、鐘崎は驚かされてしまった。
「――おそらくは復讐かと」
「…………!? 復讐?」
「あの時、彼の両親だけを救ってやることができなかったわけですが、他の三家族は皆、汰一郎の同級生の家族でした。両親亡き後も彼らは級友として同じ小学校に通ったわけですが――そんな中で汰一郎はこれまでと何ら変わりのない友達を目の当たりにし、何故に自分だけがこのような不幸に見舞われなければならないのかと思ったはずです。あの時、彼の両親だけを救えなかった私を恨んだとしても不思議はありません」
結局、鐘崎は応接室の盗聴器をそのままにすることに同意し、しばらくは様子を見ようということになった。
父の僚一は例によって海外での仕事に出ていて留守である。彼がいれば何かと知恵を授けてくれそうだが、とにかくは自室へ戻り、夕卓を囲みながら紫月にもその旨を伝えた。
「そんなことがあったんか……。けどよ、その汰一郎ってヤツにとって源さんは成人するまで生活費を欠かさず援助してくれた恩人だべ? 彼の両親だけが亡くなっちまったのは気の毒としか言いようがねえが、そいつぁ源さんのせいじゃねえ。恨むとしてもその時財布を掏ったっていう少年グループに向けられるべきじゃねえか?」
確かに紫月の言うことも一理ある。
「まあ復讐ってのは単に源さんの想像ともいえる。もしかしたら目的は復讐ではなく、源さんにその時の少年グループを見つけ出して欲しいと思っている――ということも考えられる」
「その汰一郎ってヤツは源さんの――ってよりもウチの、鐘崎組の素性を知ってんのか?」
「おそらくはな。源さんが彼らの仲裁に入った事件の時、一応は警察も介入している。当時十歳そこらの子供だったとしても、生活費の援助まで続けてくれていたんだ。源さんがどこの誰なのかということを、施設を通して汰一郎はその素性を知ったはずだ。極道と言われているうちの組ならば、当時の犯人たちを捜すことも可能だと思ったのかも知れん。だが、もしそれが目的だとしたら、少年グループを捜し当てた段階で復讐を成し遂げるという可能性も出てくるがな」
21
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる