極道恋事情

一園木蓮

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三千世界に極道の涙

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「ふむ、おめえには苦労を掛けるが、案外そいつぁ名案かも知れんな……」
 鐘崎は心配ながらも、自分たちが花魁付きの下男として座敷に上がれるならばそれも悪くないと思ったようだ。そうすれば芸妓たちを危ない目に遭わせずに済むし、代田らを捕えるにしても都合がいい。
 それを聞いていた冰が、だったらこの際、賭場も開いて自分も紫月と一緒に座敷に出たいと言い出した。冰にしてみれば紫月一人を危険な目に遭わせるのは心が痛む、自分にもできることがあれば協力させて欲しいと言うのだ。
「賭場か――」
 周にとっては心配の種が増えることになるが、賭場を開けば中盆役や両替役として自分たちも堂々と側に居られることになる。
「悪くねえかもな。俺は中盆に扮し――」
 周がチラリと鐘崎を見やり、
「それなら俺は用心棒として見張り役になろう」
 鐘崎もそう続けてうなずく。
 結局、綾乃木には両替役に扮してもらい、組員の春日野には花魁付きの下男として護衛方々紫月の側に控えてもらうことになった。
 伊三郎らが協力してくれてそれぞれ着替えをし、花魁役の紫月には白塗りの化粧が施される。
「紅椿や。今回はいつぞやと違って男花魁ではなく女物のお服だからね。お前さん、少々声色を高くして、極力喋らないようにしていておくれ」
 花魁が男だとバレれば代田らがどんな暴れ方をするか知れない。伊三郎にしてみれば一度は店子として抱えた紫月を大事に思うからこその言葉なのだ。
「ダイジョブだって! 親父っさん、俺たちを信じて任せてくれって」
「そりゃあもちろん信じているともさ。だが、お前さんや紅龍にもしものことがあったらと思うと心配なのだよ」
 『紅龍』とは冰のことだ。以前、ここで賭場師をした際に決めた冰の源氏名ならぬ呼び名である。伊三郎にとっては未だに二人は花魁紅椿と賭場師紅龍といった感覚でいるのだろう。元はといえば今回の鎮圧を鐘崎組に依頼したのは伊三郎なわけだが、いざこんな流れになると、やはり二人のことが本当の子供のように思えて心配になってしまうのだろう。そんな伊三郎の気持ちが嬉しかった。
 そうして支度が整った紫月が姿を現すと皆からは溜め息ものの歓声が上がった。
「どうよ、ちっとばかし背が高えが、座敷に座ったままでいりゃ問題ねえだろう。なかなかにイケてね?」
 確かに群を抜いて美しい芸妓――というよりも本格的な遊女の出来上がりだ。冰の方も賭場師として少々強面のメイクを施し、準備は万端に整った。
 それから待つこと一時間ほど。代田が現れ、仲間を引き連れて大門をくぐったとの知らせが届いた。
「来やがったか。まずは様子見といこう」
 組員たちを客として最上屋に送り、いざという時には加勢できる体制を敷いて完全に外堀を固める。鐘崎らはそれぞれ持ち場に付いて代田らを迎えた。
 驚いたのは当の代田だ。今宵は御職の涼音が居ない代わりにこの街きっての花魁が相手をするという。しかもその座敷には賭場が用意されていて、粋と雅に目を剥くほどの体制で迎えられたからだ。
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