極道恋事情

一園木蓮

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三千世界に極道の涙

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「ごめんなさい東堂さん……俺、俺は……」
「いいんだ。いいんだよ」
「俺……あなたに……あんなに世話になっておきながら……。金だって……あんなにたくさん、毎月欠かさずに援助してもらったのに……俺……」
 涼音の父親への補填と代田の飲み代に使い果たしてしまい、掛けてもらった温情を無にしてしまった。汰一郎は後悔と自責の念に、あふれる涙を抑えることができなかった。
「いいんだ。妻も子も持たなかった私にとって、キミは息子も同然だった……。息子が何をしようと親が愛情を失くすなんてことはない。キミがこうして生きていてくれただけで……私は充分だよ」
「東堂さん……ッ、俺、俺……! ごめんなさい……本当に……ごめんなさ……ッ」
 しゃくり上げて涙する汰一郎の手をしっかりと握り締めながら、源次郎もまた熱くなった目頭を抑えたのだった。



◇    ◇    ◇



 町永汰一郎が涼音と共に鐘崎組を訪れたのはそれから三ヶ月後のことだった。傷もすっかり完治して、仕事にも復帰を果たせたとのことだ。代田を襲おうとしたことで一旦は身柄を拘束され、事情聴取を受けたものの、情状酌量で執行猶予がついたのだ。
 その代田の方は汰一郎を刺した傷害の罪で逮捕され、過去のこともあって当分は獄中暮らしになるようだ。父親の頭取も責任を取って辞職に至ったとのことだった。
「東堂さん、本当にお世話になりました。ご恩は一生忘れません。これからは心を入れ替えてこの涼音と共に生きていきます」
 涼音の父親への恨みから彼女に近付いたものの、憎しみは愛しさを超えることはできなかったそうだ。
 あの最上屋で逢瀬を重ねる中でどんどん惹かれ合っていき、汰一郎は愛情と恨みの間で苦しんだそうだが、結局は恨み切ることができなかったと言って、自らの浅はかさを悔いたという。涼音もまた、すべてを知って尚、汰一郎への愛情は揺るがなかったそうだ。父親が汰一郎にしたことは申し訳なく思えども、これからは二人で懸命に生きていくと誓い合ったとのことだった。
 そんな若き二人の報告に、源次郎は心から歓び、涙した。

「東堂さんにご援助いただいたお金は少しずつですがお返ししていきたいと思っています。本当に……せっかくのご厚意を無駄に使ってしまったこんな私ですが、できる限りご恩に報いたいと思います。様々ご無礼をお許しください」
 そう言って涼音共々揃って頭を下げた様子に、源次郎はとんでもないと首を横に振った。
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