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三千世界に極道の涙
28(三千世界の極道の涙 完結)
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「過ぎてしまったことはいいのだ。お金のことも気にしないでください。私はこの通りもういい歳だ。お金はキミら若い人たちのこれからに役立ててくれた方が嬉しいのだよ。お二人のそのお気持ちを聞けただけで充分幸せですから」
「ですが……本当に気持ちだけでも……」
汰一郎は汰一郎で、例え月に僅かずつでもお返ししないと気が済まないと言って、申し訳なさそうな顔をする。――と、第一応接室のドアがノックされて、三人が振り返るとそこには組長の僚一が姿を現したのに、皆驚き顔で彼を見つめた。
「失礼するよ。まずは――汰一郎君、涼音さん、ご結婚おめでとう。二人の末永いお幸せを祈っておりますぞ」
「は――! はい……あの、恐縮です!」
汰一郎には初めて目にする僚一が誰なのかは分からなかったものの、そのオーラだけで近寄り難いものを感じたようだ。
「不躾ながら少々話が聞こえてしまったものでね。汰一郎君、源さんの言う通りだ。キミたちのその気持ちを聞けただけで源さんは何を貰うよりも嬉しかったはずだよ。それでも――どうしてもというなら、たまに二人で顔を見せに寄ってやってください。それが源さんの一番の喜びだと思うのでね」
穏やかに微笑む僚一に、源次郎も有り難い思いでいっぱいだったようだ。
「組長、わざわざのお越し、ありがとうございます。誠、おっしゃる通りです。私にとって若い二人がいつまでも仲睦まじく手を取り合っていってくれることこそが何よりの幸せでございますゆえ」
汰一郎も涼音も、源次郎の『組長』という言葉に驚いた様子でいる。二人共にガチガチに硬直しながらも、揃って深々と頭を下げた。
「あ、ありがとうございます……! お言葉を……決して忘れずに二人で一生懸命歩いていきたいと思います!」
緊張しながらの言葉もまた清々しい。僚一と源次郎は互いを見やりながら微笑んだのだった。
源次郎にとって苦く切なく、そして長かった冬が終わろうとしている。二十年の月日がようやくと報われ、新たな春を目前にした今、その陰には我が事のように親身になって支えてくれた鐘崎や紫月、そして組長の僚一。周家の面々や一之宮道場の飛燕に綾乃木、鐘崎組の若い衆たち、そんな皆があってこそなのだとしみじみ思う。
源さんは俺の親父でもありお袋でもある――若頭と姐さんが二人揃って同じことを言ってくれた。
壮年を過ぎ、高年を迎えた今、これまで歩んできた人生を振り返る。妻も子も持たなかったものの、そんな自分を親と慕ってくれる若者たちが側にいてくれる。源次郎にとってこれほど嬉しいことはない。
かくも幸せな人生だと、心の底からそう思う。
皆に囲まれて生かされている至福を噛み締める源次郎の頬に一筋の涙がこぼれて落ちた。
極道一筋に人生を捧げた男の――幸せの涙がこぼれて落ちた。
三千世界に極道の涙 - FIN -
「ですが……本当に気持ちだけでも……」
汰一郎は汰一郎で、例え月に僅かずつでもお返ししないと気が済まないと言って、申し訳なさそうな顔をする。――と、第一応接室のドアがノックされて、三人が振り返るとそこには組長の僚一が姿を現したのに、皆驚き顔で彼を見つめた。
「失礼するよ。まずは――汰一郎君、涼音さん、ご結婚おめでとう。二人の末永いお幸せを祈っておりますぞ」
「は――! はい……あの、恐縮です!」
汰一郎には初めて目にする僚一が誰なのかは分からなかったものの、そのオーラだけで近寄り難いものを感じたようだ。
「不躾ながら少々話が聞こえてしまったものでね。汰一郎君、源さんの言う通りだ。キミたちのその気持ちを聞けただけで源さんは何を貰うよりも嬉しかったはずだよ。それでも――どうしてもというなら、たまに二人で顔を見せに寄ってやってください。それが源さんの一番の喜びだと思うのでね」
穏やかに微笑む僚一に、源次郎も有り難い思いでいっぱいだったようだ。
「組長、わざわざのお越し、ありがとうございます。誠、おっしゃる通りです。私にとって若い二人がいつまでも仲睦まじく手を取り合っていってくれることこそが何よりの幸せでございますゆえ」
汰一郎も涼音も、源次郎の『組長』という言葉に驚いた様子でいる。二人共にガチガチに硬直しながらも、揃って深々と頭を下げた。
「あ、ありがとうございます……! お言葉を……決して忘れずに二人で一生懸命歩いていきたいと思います!」
緊張しながらの言葉もまた清々しい。僚一と源次郎は互いを見やりながら微笑んだのだった。
源次郎にとって苦く切なく、そして長かった冬が終わろうとしている。二十年の月日がようやくと報われ、新たな春を目前にした今、その陰には我が事のように親身になって支えてくれた鐘崎や紫月、そして組長の僚一。周家の面々や一之宮道場の飛燕に綾乃木、鐘崎組の若い衆たち、そんな皆があってこそなのだとしみじみ思う。
源さんは俺の親父でもありお袋でもある――若頭と姐さんが二人揃って同じことを言ってくれた。
壮年を過ぎ、高年を迎えた今、これまで歩んできた人生を振り返る。妻も子も持たなかったものの、そんな自分を親と慕ってくれる若者たちが側にいてくれる。源次郎にとってこれほど嬉しいことはない。
かくも幸せな人生だと、心の底からそう思う。
皆に囲まれて生かされている至福を噛み締める源次郎の頬に一筋の涙がこぼれて落ちた。
極道一筋に人生を捧げた男の――幸せの涙がこぼれて落ちた。
三千世界に極道の涙 - FIN -
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