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封印せし宝物
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「ううん! そんなことない! すごく良く似合ってるよ……!」
やはりあのお兄さんは周だった。それが分かっただけでも冰にとっては何ものにも変え難い安堵に違いない。
「白龍、ありがと……。ありがとうね……! 俺、俺……」
やっと宝物を探し出すことができたよ!
そう言って自ら広い胸に飛び込んだ。
お兄さん、行かないで――。ずっと側にいて――!
あの日、この場所で強く強くそう願った。夕陽が沈み、街に灯がともり、百万ドルの夜景に包まれながらもその煌めきが自分の涙の粒のように思えていた。
その時の感情を思い出した瞬間に、次々と思い出が蘇ってきた。
一緒に公園を散歩したことも、饅頭を交換して食べたことも、黄老人の帰りを待ちながら宿題を見てもらったことも、すべてが走馬灯のようにして鮮明に蘇ってきたのだ。
『ボウズ! おい、ボウズ! そう急ぐな。走って転んだりしたらいけねえ』
『大丈夫だもーん! だってお兄さんが一緒なんだもん! もしも転んでもすぐにお兄さんが助けてくれるもん!』
『こいつぅ! じゃあ、そうだな。転ばぬ先の杖だ。こうして――』
周は小さな手を取ると、大きな掌の中にしっかりと握り込んだ。
『ころばる……? ってなぁに?』
『転ばぬ――だ。お前が怪我したりしねえようにだな、こうして俺が常に見ててやれば安心というような意味だな』
『お兄さんがいつも見ててくれるの?』
『そうだ。お前一人じゃ危なっかしくていけねえ』
大きな掌のぬくもりがあたたかかった。何よりもずっと側で見守っていてくれるという言葉が嬉しくて堪らなかった。
ドキドキと心臓が大きな音を立てて脈打つ感覚も早くなっていく。
そう、そうだよ。ずっとこのまま――このお兄さんと一緒にいたい。
ずっと側にいて欲しい。
ずっとこうしてあったかい大きな掌で握っていて欲しい。
お兄さんは特別な人だもの。僕にとって大好きな大好きな大切な人。
できることなら……お兄さんが僕だけのものだったらいいのになぁ。
そんなふうに思う時、楽しさや幸せな感覚とは裏腹に胸がキュウっと締め付けられるように苦しくもなった。
幼心に芽生えた小さな独占欲や嫉妬心の意味などまったく分からなかったが、その頃からこのお兄さんが自分だけを見ていてくれたらどんなにいいかと思ったものだ。
多分――あれは既に自覚こそないものの、恋の感情だったのだろうと思う。
ずっと一緒にいたい。誰にも盗られたくない。自分だけを見ていて欲しい。
彼の側にいると幸せだった。だが、同時に甘苦しくもあった。そんな気持ちを人は何と呼ぶのだろう。
初恋――というのだろうか。
「うん、そう! 白龍だよ! あのお兄さんの顔、今ならはっきり分かる。白龍だよ……!」
今ならば分かる。あれは紛れもない初恋だった。
ポロポロとこぼれてやまない涙の粒を亭主の広い胸に預けて冰は泣いた。
哀しい涙ではない。嬉しくて、満面の笑みと共にこぼれる幸せの涙だった。
やはりあのお兄さんは周だった。それが分かっただけでも冰にとっては何ものにも変え難い安堵に違いない。
「白龍、ありがと……。ありがとうね……! 俺、俺……」
やっと宝物を探し出すことができたよ!
そう言って自ら広い胸に飛び込んだ。
お兄さん、行かないで――。ずっと側にいて――!
あの日、この場所で強く強くそう願った。夕陽が沈み、街に灯がともり、百万ドルの夜景に包まれながらもその煌めきが自分の涙の粒のように思えていた。
その時の感情を思い出した瞬間に、次々と思い出が蘇ってきた。
一緒に公園を散歩したことも、饅頭を交換して食べたことも、黄老人の帰りを待ちながら宿題を見てもらったことも、すべてが走馬灯のようにして鮮明に蘇ってきたのだ。
『ボウズ! おい、ボウズ! そう急ぐな。走って転んだりしたらいけねえ』
『大丈夫だもーん! だってお兄さんが一緒なんだもん! もしも転んでもすぐにお兄さんが助けてくれるもん!』
『こいつぅ! じゃあ、そうだな。転ばぬ先の杖だ。こうして――』
周は小さな手を取ると、大きな掌の中にしっかりと握り込んだ。
『ころばる……? ってなぁに?』
『転ばぬ――だ。お前が怪我したりしねえようにだな、こうして俺が常に見ててやれば安心というような意味だな』
『お兄さんがいつも見ててくれるの?』
『そうだ。お前一人じゃ危なっかしくていけねえ』
大きな掌のぬくもりがあたたかかった。何よりもずっと側で見守っていてくれるという言葉が嬉しくて堪らなかった。
ドキドキと心臓が大きな音を立てて脈打つ感覚も早くなっていく。
そう、そうだよ。ずっとこのまま――このお兄さんと一緒にいたい。
ずっと側にいて欲しい。
ずっとこうしてあったかい大きな掌で握っていて欲しい。
お兄さんは特別な人だもの。僕にとって大好きな大好きな大切な人。
できることなら……お兄さんが僕だけのものだったらいいのになぁ。
そんなふうに思う時、楽しさや幸せな感覚とは裏腹に胸がキュウっと締め付けられるように苦しくもなった。
幼心に芽生えた小さな独占欲や嫉妬心の意味などまったく分からなかったが、その頃からこのお兄さんが自分だけを見ていてくれたらどんなにいいかと思ったものだ。
多分――あれは既に自覚こそないものの、恋の感情だったのだろうと思う。
ずっと一緒にいたい。誰にも盗られたくない。自分だけを見ていて欲しい。
彼の側にいると幸せだった。だが、同時に甘苦しくもあった。そんな気持ちを人は何と呼ぶのだろう。
初恋――というのだろうか。
「うん、そう! 白龍だよ! あのお兄さんの顔、今ならはっきり分かる。白龍だよ……!」
今ならば分かる。あれは紛れもない初恋だった。
ポロポロとこぼれてやまない涙の粒を亭主の広い胸に預けて冰は泣いた。
哀しい涙ではない。嬉しくて、満面の笑みと共にこぼれる幸せの涙だった。
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