極道恋事情

一園木蓮

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絞り椿となりて永遠に咲く

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「遼、仕事は? もう済んだん?」
「ああ。ちょうど帰り道だったからな」
 迎えに寄ったのだと言って微笑を見せる。紫月に向けられたその笑顔は穏やかでやさしく、完璧なまでに品がいい。
「楽しめたか?」
 短いそのひと言の裏には、『もう夜も遅い。そろそろお開きにしよう』という意図が含まれているように思えたのか、三春谷は苦虫を噛み潰したような顔つきで黙り込んでしまった。
「迎えに来てくれたんか! さんきゅなぁ」
 紫月は今し方注いだグラスをクイと空けると、そろそろ行こうかと言って三春谷に向かって微笑んだ。
「三春谷、今日はありがとな! 幸せになれよー」
 そう言って伝票を手に取る。ここは俺が――ということなのだろう。三春谷は半ば呆然ながらもその動きをただただ目で追っていたが、その直後にオーナーの銀ちゃんから思いもよらない言葉を聞いてハタと我に返らされてしまった。
「紫月ちゃん! いいのよぉ。お代はもう遼ちゃんからいただいてるの!」
 ゲイバーをやっているだけあって、クネっと腰をよじりながら可愛らしい仕草でウィンクをしてよこす。
「マジ? 遼が?」
 悪いなと言いつつも、穏やかに細められた視線が頼れる亭主だと言っているようで、三春谷は礼の言葉さえ詰まったまま金縛り状態でいて、しばらくは立ち上がることさえできずにいた。
「三春谷、行くべ!」
 紫月にうながされてようやくと我に返る。外へ出れば既にタクシーが一台待っていて、それも鐘崎が手配したのだろうことが窺えた。
「そんじゃな! 気をつけて帰れよー。婚約者さんによろしくなぁ!」
「あ……りがとうございます……。紫月さんも……」
 それ以上は言葉にならない。自分でも何をしているのかよく分からない内にタクシーが走り出し、窓の外には笑顔で手を振る紫月の姿。その脇には嫌味なほどにサマになっているダークスーツの男。そしてそれによくよく似合いの黒塗りの高級車が一台。聞かずともそれが彼の車なのだろうと分かる。飛んでいく景色の中、それらが切り取られた絵画のようになって視界に焼きついた。
「……チッ! ヤクザめが……」
 思わずこぼれてしまった舌打ちに、運転手がチラリとバックミラーに視線を動かす。その後、実家に帰り着くまで三春谷の舌打ちはとまらなかった。

 一方、紫月の方はタクシーが遠ざかるのを見送りながら、ホッとしたように小さな溜め息をつき、すぐに愛しい亭主に向かって礼を述べていた。
「遼、まさか迎えに寄ってくれるなんてさ! ありがとなぁ」
 笑顔ながらもやれやれと肩の力が抜けたような面持ちを見ただけで、鐘崎にはその胸中が理解できたようだった。おそらくは自分たちが男同士で結婚したことや、組についての話題なども出たのだろう。それを肯定するように駆け付けてきた橘と春日野の表情を見れば、どんな話題でどんな様子だったのかも一目瞭然だ。
「お前らもご苦労だったな」
 労うように肩を抱いてくれる亭主の肩に頬を預け、紫月は『ありがとう』と言うように笑みを見せたのだった。
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