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Daydream Candy 7話
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身体はどうしようもないくらい淫らに揺らされながら、心までもがこの男の持つ、得も言われぬ魅力に乱されつつある。
知らずの内に身も心も虜にされてしまいそうで、目を背けたくなる。この男に嵌ってしまう自分を少しでも想像すれば、怖くて腰の引ける思いがした。
店に来る彼女らも少なからずこんな思いでいるのだろうか。
この男の得体の知れない魅力にとり憑かれたが最後、苦しい嫉妬や孤独に苛まれながら、それでもひと目その姿に触れたくてフラフラと足が向いてしまうのだろうか。
そんな不思議な魅力がこの男にはあるのだ。
だが考えたくはない。間違ってもこの男を好きになったりすることなどない。そんなことが――あってはならない。
甘く息苦しい吐息の交叉する中で、波濤は目の前の生理的な欲望にだけ没頭したいというように、逞しい腕の中で無心になるしかできずにいた。
◇ ◇ ◇
「大丈夫か――身体、辛くねえか?」
背後から抱きすくめられたまま、半ば放心状態でベッドに身を投げ出していた。
「大丈夫なわけねえだろが……。ったく、容赦なくヤりやがって……。野郎同士なんて見下したようなこと言ってやがったくせに……てめえこそ他人のこと言えた義理かよ」
男と寝ることに慣れているとまでは言わないが、まるで抵抗も戸惑いもなく、ごく自然に没頭していたところを見ると、まるっきり初めてではないのだろうといった恨み調子で、波濤は毒づいた。
「見下してなんぞいねえさ。男だろうが女だろうが好きなヤツと寝るのが悪いだなんて言ってねえ。まあ、俺は男とはお前が初めてだが――」
嘘をつけ!
波濤はそう思ったが、『男はお前が初めて』という台詞に、心のどこかで安堵感が湧き上がるような気がしたのも否めない。そんな思いを振り払うように咄嗟に顔を背けた。
だが龍はそんな素っ気ない仕草にも全く動じずといった調子で、未だ後方から抱き包みつつ髪を撫でたりしてくる。
「――なぁ、波濤。もうこんりんざい客の男と寝るのはやめにしてくれねえか」
「は――?」
もっと信じ難い言葉が背後から囁かれたのはその直後だ。
「もう他の奴とはするなと言ったんだ。お前が俺の知らない誰かに抱かれる――なんて、想像するだけで気が違いそうだ」
フイと手を取り上げられ、そのまま軽いキスを落とされて驚いた。まるで『俺だけのものになれよ』とでも言わんばかりだ。
「お前に”こんなこと”を教えた誰かのことを考えると正直堪らない。酷い嫉妬で我を失いそうになる」
手の甲にキスを繰り返しながら囁かれる言葉の内容にも驚きだが、そんなことを平然と言ってのけること自体が先ずは信じられなかった。しかもまるで平静そのものの落ち着いた調子で、言っている内容とはあまりにもちぐはぐだ。突如告白めいたことを言われても、とてもじゃないが素直に聞き入れる気にはなれなかった。
からかわれているのか、あるいはほんの遊びの一端か――とりあえず付き合ってみて飽きたら綺麗に別れればいい、男同士なら後腐れもなく退屈しのぎになる、そんな軽い気持ちなのだろうか。それともナンバーワンの座を奪い取る為の単なる策略か。
真面目に受け取ってのめり込んだ挙句、傷付くだろう結末が咄嗟に脳裏を過ぎった。
甘い言葉にほだされてはいけない。
この男に夢中になって苦悩に嵌まる自分など想像したくはない。
戸惑いを振り払うように起き上がり、ベッド脇へと腰を掛け、波濤は逃げるように龍の手を振り払った。
「あのよ、今日はなんかいきなりヘンなことになっちまったけど……火遊びってことにして忘れてやっから……くだらねえこと抜かしてんなよな」
「俺は火遊びをしたつもりなどない」
「……ッ、ならどんなつもりだよっ!? 第一てめえ、最初に一発いくらとか訊いてきただろうが! 遊ぶつもりだったろ……!? だったらそれでいいじゃねえか。今まで通りただの同僚ってことで……」
「あれは単に口実だ。そうでも言わなきゃ、お前が真面目に取り合ってくれそうもなかったからだ」
そのひと言に波濤は驚いたように龍を振り返り、ほんの一瞬視線が互いを捉え合った。そして大きな掌が愛しげに、頬と、そして髪をも撫でる――。
「お前、店でもそうだよな? 誰にでも愛想良くして、一見取っつき易そうに見えるが、本当の自分はぜってー見せねえだろ。広く浅く両手を広げて誰でも分け隔てなく受け入れる。如才ないヤツなのかと思いきや、ちょっとでも踏み込まんと近付けば、途端に甲羅を固くして遠ざけちまう」
「は……? 何、急に……」
「誰にも本当の自分を見せねえ奴だって言ってんだ。寂しさとか、弱さとか、逆に怒りでも――そういうもんを全部封じ込めて、自分の綺麗なところだけを表に出してる。確かに商売の上では立派だとは思うが、お前自身はそれで幸せなのか? 心から笑い合ったり、悩みや愚痴を言い合えるダチを作るわけでもねえ。誰にでも明るく振る舞って、それじゃ機械仕掛けの人形も同然だ。お前が楽しそうに笑う度に、俺にはひどく辛そうに見えるんだがな」
「や……めろっ……!」
波濤は怒鳴り上げた。
「そういう苦しさを紛らわせる為に客と寝たりして自分を貶めてる。わざと汚ねえ部分を作ることでお前はバランスを保ってるんだ。違うか?」
辛辣極まりない毒舌を淡々と突き付けられて、身体中から魂を吸い取られるような感覚に波濤はガクガクと身を震わせた。
知らずの内に身も心も虜にされてしまいそうで、目を背けたくなる。この男に嵌ってしまう自分を少しでも想像すれば、怖くて腰の引ける思いがした。
店に来る彼女らも少なからずこんな思いでいるのだろうか。
この男の得体の知れない魅力にとり憑かれたが最後、苦しい嫉妬や孤独に苛まれながら、それでもひと目その姿に触れたくてフラフラと足が向いてしまうのだろうか。
そんな不思議な魅力がこの男にはあるのだ。
だが考えたくはない。間違ってもこの男を好きになったりすることなどない。そんなことが――あってはならない。
甘く息苦しい吐息の交叉する中で、波濤は目の前の生理的な欲望にだけ没頭したいというように、逞しい腕の中で無心になるしかできずにいた。
◇ ◇ ◇
「大丈夫か――身体、辛くねえか?」
背後から抱きすくめられたまま、半ば放心状態でベッドに身を投げ出していた。
「大丈夫なわけねえだろが……。ったく、容赦なくヤりやがって……。野郎同士なんて見下したようなこと言ってやがったくせに……てめえこそ他人のこと言えた義理かよ」
男と寝ることに慣れているとまでは言わないが、まるで抵抗も戸惑いもなく、ごく自然に没頭していたところを見ると、まるっきり初めてではないのだろうといった恨み調子で、波濤は毒づいた。
「見下してなんぞいねえさ。男だろうが女だろうが好きなヤツと寝るのが悪いだなんて言ってねえ。まあ、俺は男とはお前が初めてだが――」
嘘をつけ!
波濤はそう思ったが、『男はお前が初めて』という台詞に、心のどこかで安堵感が湧き上がるような気がしたのも否めない。そんな思いを振り払うように咄嗟に顔を背けた。
だが龍はそんな素っ気ない仕草にも全く動じずといった調子で、未だ後方から抱き包みつつ髪を撫でたりしてくる。
「――なぁ、波濤。もうこんりんざい客の男と寝るのはやめにしてくれねえか」
「は――?」
もっと信じ難い言葉が背後から囁かれたのはその直後だ。
「もう他の奴とはするなと言ったんだ。お前が俺の知らない誰かに抱かれる――なんて、想像するだけで気が違いそうだ」
フイと手を取り上げられ、そのまま軽いキスを落とされて驚いた。まるで『俺だけのものになれよ』とでも言わんばかりだ。
「お前に”こんなこと”を教えた誰かのことを考えると正直堪らない。酷い嫉妬で我を失いそうになる」
手の甲にキスを繰り返しながら囁かれる言葉の内容にも驚きだが、そんなことを平然と言ってのけること自体が先ずは信じられなかった。しかもまるで平静そのものの落ち着いた調子で、言っている内容とはあまりにもちぐはぐだ。突如告白めいたことを言われても、とてもじゃないが素直に聞き入れる気にはなれなかった。
からかわれているのか、あるいはほんの遊びの一端か――とりあえず付き合ってみて飽きたら綺麗に別れればいい、男同士なら後腐れもなく退屈しのぎになる、そんな軽い気持ちなのだろうか。それともナンバーワンの座を奪い取る為の単なる策略か。
真面目に受け取ってのめり込んだ挙句、傷付くだろう結末が咄嗟に脳裏を過ぎった。
甘い言葉にほだされてはいけない。
この男に夢中になって苦悩に嵌まる自分など想像したくはない。
戸惑いを振り払うように起き上がり、ベッド脇へと腰を掛け、波濤は逃げるように龍の手を振り払った。
「あのよ、今日はなんかいきなりヘンなことになっちまったけど……火遊びってことにして忘れてやっから……くだらねえこと抜かしてんなよな」
「俺は火遊びをしたつもりなどない」
「……ッ、ならどんなつもりだよっ!? 第一てめえ、最初に一発いくらとか訊いてきただろうが! 遊ぶつもりだったろ……!? だったらそれでいいじゃねえか。今まで通りただの同僚ってことで……」
「あれは単に口実だ。そうでも言わなきゃ、お前が真面目に取り合ってくれそうもなかったからだ」
そのひと言に波濤は驚いたように龍を振り返り、ほんの一瞬視線が互いを捉え合った。そして大きな掌が愛しげに、頬と、そして髪をも撫でる――。
「お前、店でもそうだよな? 誰にでも愛想良くして、一見取っつき易そうに見えるが、本当の自分はぜってー見せねえだろ。広く浅く両手を広げて誰でも分け隔てなく受け入れる。如才ないヤツなのかと思いきや、ちょっとでも踏み込まんと近付けば、途端に甲羅を固くして遠ざけちまう」
「は……? 何、急に……」
「誰にも本当の自分を見せねえ奴だって言ってんだ。寂しさとか、弱さとか、逆に怒りでも――そういうもんを全部封じ込めて、自分の綺麗なところだけを表に出してる。確かに商売の上では立派だとは思うが、お前自身はそれで幸せなのか? 心から笑い合ったり、悩みや愚痴を言い合えるダチを作るわけでもねえ。誰にでも明るく振る舞って、それじゃ機械仕掛けの人形も同然だ。お前が楽しそうに笑う度に、俺にはひどく辛そうに見えるんだがな」
「や……めろっ……!」
波濤は怒鳴り上げた。
「そういう苦しさを紛らわせる為に客と寝たりして自分を貶めてる。わざと汚ねえ部分を作ることでお前はバランスを保ってるんだ。違うか?」
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