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5. Night Emperor
Night Emperor 2話
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「――ったく! 意味深なことばかり抜かしやがって。お前の戯れに付き合ってやらねえでもねえが……俺がその提案に乗ったことで何かメリットはあるのかよ」
半ば諦め口調で氷川は訊いた。すると、帝斗は嬉しそうに即うなずいてみせた。
「もちろんだ。お前さんにとってもかけがえのない宝物を手にすることができる――かも知れないぜ?」
「かも知れない――は余計だろうが。何が”かけがえのない宝物”だか知らねえが……」
「なに、お前さんは仕事人間だからね。そろそろ自分の為の時間を持つことも必要なんじゃないかって思うだけさ」
「今でさえ時間がねえところに持ってきて、更にホストになって働くことが自分の為の時間かよ」
呆れ顔で氷川は溜め息をついた。
「まあ、そう言いなさんな。表面上はそう見えても、何かお前さんに心温まるものがあって欲しいっていう、僕の願いなのさ」
この帝斗がわざわざこんな謎めいたことを言ってくるのには、それ相応の理由があるのだろうと思う。単に戯れや冷やかしでこんなことを言い出す男ではないからだ。
今はその理由が明かせないというだけで、”為”にならないようなくだらないことは絶対にしない男である。氷川は帝斗の差し出した謎かけに受けて立ってもいいかという気になった。
「仕方ねえな、ノってやるよ」
そう言うと、帝斗はパッと表情をほころばせた。
「ありがとう。お前さんならきっと分かってくれると思っていたよ」
「――で、俺はお前の店でホスト稼業を体験すりゃいいんだな?」
「ああ、そうだ。お前さんも忙しいだろうから毎日じゃなくて構わないよ。とりあえず六本木の支店に入ってもらって、一ヶ月ほど勤めてもらいたい。その間に僕の方で裏から手を回して、お前さんにはナンバーワンを取ってもらうことにする」
「――ナンバーワンだ?」
「どうせやるなら名目だけでもトップを取らなきゃ意味ないだろう? まあ、他のホストたちにはバレないように上手く操作するから――」任せてよ、と言い掛けた時だった。
「必要ねえな」
氷川はきっぱりと言い切った。
「――え? でもホスト業界は言うほど甘くはないんだよ? 如何にお前さんでも、未知の世界で短期でのし上がるのは至難の業だと思うがね」
「お前――俺を誰だと思ってやがる。ナンバーワンだかピンだか知らねえが、俺に不可能はねえな」
帝斗はキョトンと瞳を丸めながら氷川を凝視し、次の瞬間、プッと思い切り噴き出して笑い転げてしまった。
「お前さんの言いそうなことだよ! そう、じゃあ任せるからがんばっておくれ」
「は――、バカにしてやがるな?」
「いや、その逆! 尊敬してるのさ。改めて感服――とでもいう感じかな」
「やっぱりバカにしてんじゃねえか」
氷川は少々スネたように唇を尖らせると、恨めしげに帝斗を見やった。
夏の朝が明けるのは早い――
ついさっきまでは深い蒼を讃えていた空の色は、ほんの数分で白へと変わる。その白い空に浮かぶ雲の峰の際が黄金色に輝き出す瞬間は間もなくだ。大都会にそびえる高楼の屋上から眺めるこの景色は、まさに絶景であった。
「ご覧よ、もうすぐ陽が昇る。何て綺麗なんだろうね」
「ああ、そうだな」
眩しそうに瞳を細める帝斗を横目に、氷川も東の空へと視線をやった。
「ねえ白夜――」
「――何だ」
「清々しくて自由で素晴らしい夜明けだろう?」
「――ああ」
「もしも羽が生えていたら、飛んでみたくなるような空だよね。僕にはね、どうしてもこの空を見せてあげたい奴がいるんだ」
やわらかな笑顔とは裏腹に、まるで祈るようにそう言った帝斗の言葉がさざ波のように氷川の心の琴線に触れては、波紋となって揺れ広がった。まるでこの先に待っている特別な何かを予感させるかのように胸を逸らせ吹き抜ける――。
真夏を告げる黄金色の光が美しい朝のことだった。
-FIN-
次エピソード6『Red Zone』です。
半ば諦め口調で氷川は訊いた。すると、帝斗は嬉しそうに即うなずいてみせた。
「もちろんだ。お前さんにとってもかけがえのない宝物を手にすることができる――かも知れないぜ?」
「かも知れない――は余計だろうが。何が”かけがえのない宝物”だか知らねえが……」
「なに、お前さんは仕事人間だからね。そろそろ自分の為の時間を持つことも必要なんじゃないかって思うだけさ」
「今でさえ時間がねえところに持ってきて、更にホストになって働くことが自分の為の時間かよ」
呆れ顔で氷川は溜め息をついた。
「まあ、そう言いなさんな。表面上はそう見えても、何かお前さんに心温まるものがあって欲しいっていう、僕の願いなのさ」
この帝斗がわざわざこんな謎めいたことを言ってくるのには、それ相応の理由があるのだろうと思う。単に戯れや冷やかしでこんなことを言い出す男ではないからだ。
今はその理由が明かせないというだけで、”為”にならないようなくだらないことは絶対にしない男である。氷川は帝斗の差し出した謎かけに受けて立ってもいいかという気になった。
「仕方ねえな、ノってやるよ」
そう言うと、帝斗はパッと表情をほころばせた。
「ありがとう。お前さんならきっと分かってくれると思っていたよ」
「――で、俺はお前の店でホスト稼業を体験すりゃいいんだな?」
「ああ、そうだ。お前さんも忙しいだろうから毎日じゃなくて構わないよ。とりあえず六本木の支店に入ってもらって、一ヶ月ほど勤めてもらいたい。その間に僕の方で裏から手を回して、お前さんにはナンバーワンを取ってもらうことにする」
「――ナンバーワンだ?」
「どうせやるなら名目だけでもトップを取らなきゃ意味ないだろう? まあ、他のホストたちにはバレないように上手く操作するから――」任せてよ、と言い掛けた時だった。
「必要ねえな」
氷川はきっぱりと言い切った。
「――え? でもホスト業界は言うほど甘くはないんだよ? 如何にお前さんでも、未知の世界で短期でのし上がるのは至難の業だと思うがね」
「お前――俺を誰だと思ってやがる。ナンバーワンだかピンだか知らねえが、俺に不可能はねえな」
帝斗はキョトンと瞳を丸めながら氷川を凝視し、次の瞬間、プッと思い切り噴き出して笑い転げてしまった。
「お前さんの言いそうなことだよ! そう、じゃあ任せるからがんばっておくれ」
「は――、バカにしてやがるな?」
「いや、その逆! 尊敬してるのさ。改めて感服――とでもいう感じかな」
「やっぱりバカにしてんじゃねえか」
氷川は少々スネたように唇を尖らせると、恨めしげに帝斗を見やった。
夏の朝が明けるのは早い――
ついさっきまでは深い蒼を讃えていた空の色は、ほんの数分で白へと変わる。その白い空に浮かぶ雲の峰の際が黄金色に輝き出す瞬間は間もなくだ。大都会にそびえる高楼の屋上から眺めるこの景色は、まさに絶景であった。
「ご覧よ、もうすぐ陽が昇る。何て綺麗なんだろうね」
「ああ、そうだな」
眩しそうに瞳を細める帝斗を横目に、氷川も東の空へと視線をやった。
「ねえ白夜――」
「――何だ」
「清々しくて自由で素晴らしい夜明けだろう?」
「――ああ」
「もしも羽が生えていたら、飛んでみたくなるような空だよね。僕にはね、どうしてもこの空を見せてあげたい奴がいるんだ」
やわらかな笑顔とは裏腹に、まるで祈るようにそう言った帝斗の言葉がさざ波のように氷川の心の琴線に触れては、波紋となって揺れ広がった。まるでこの先に待っている特別な何かを予感させるかのように胸を逸らせ吹き抜ける――。
真夏を告げる黄金色の光が美しい朝のことだった。
-FIN-
次エピソード6『Red Zone』です。
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