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7. Double Blizzard
Double Blizzard 2話
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ところが――だ。
「あー、ヘルプはいらねえから! 下がってくれていいよ」
個室に着くなり一掃で追い返されてしまった。
「無理言って店のナンバーワンを借りようってんだから、そんなに何人も付いてもらっちゃ悪いだろ?」
男はせせら笑いながら、これでも気を遣ってやっているんだとでも言いたげである。そこへ他のテーブルを抜けて一先ず挨拶をと、顔を出しに波濤がやって来た。
「ご指名ありがとうございます。波濤です」
黒服はもとより、純也らも心配なので、例え追い払われようと未だにその場を動けずにいた。
「あの、こちらのお客様がヘルプは必要ないとおっしゃられるんですが……」
コソッと波濤に耳打ちする。波濤の様子から、どうやら彼の方もこの四人の男には見覚えはないようなのが分かった。つまり、本当に単なる新規のお客というわけなのだろうか。
彼らの図々しさからして、ひょっとしたら波濤の知り合いか、何か因縁があるような訳有りの間柄にも思えたのだが、違ったようだ。こうなればとにかく様子を見るしかないだろうか――一同は一先ずこの場を波濤に託すことにしたのだった。
◇ ◇ ◇
黒服らが去って行った個室で、波濤も戸惑っていた。
新規の客が店先のボードを見ただけで自分を指名したと聞かされたが、単にそれだけではないような不気味さがあるのは否めなかったからだ。だが、やはり心当たりはない。
「では失礼して、お飲み物を作らせていただきますね。ストレート、ロックなどのお好みはございますでしょうか?」
極力笑顔を装って、高額ボトルの封を切る。四人の男の中でも頭的存在の客に先ずはそう訊くと、全員ロックで作ってくれと返答があった。
とりあえずは全員分の酒を作り、それぞれの席の前へとグラスを勧めた。タイミング良く、ちょうどつまみのディッシュとフルーツの盛り合わせが運ばれてきたことに内心ホッとする。運んできたボーイも事の成り行きを聞いているのか、若干緊張の面持ちである。
「ナンバーワンのあんたに酒を作らせちまって申し訳ねえからさ。代わりと言っちゃ何だが、あんたの酒は俺が作ってやるよ。ロックでいいかい?」
ニヘラニヘラと気持ちの悪い笑みを浮かべながらも、一応は客である男がそう言うので、波濤は『有り難いです』と返して微笑んでみせた。
「じゃ、乾杯しようか。お前らも、それから波濤さん? あんたも遠慮せずにやってくれ」
「――いただきます」
客の男に勧められたグラスに口を付けて、つまみなどを各人に取り分けるのも波濤の仕事だ。普段はヘルプのする役目だが、今この部屋にはホストは波濤一人なので当然そうなる。めったに無いことだが、正直どういった会話から切り出していいか戸惑ってもいたから、何かすることがあるのは有り難かった。
「どうぞ――」
「ああ、さんきゅー」
「お客様は当店は初めてでいらっしゃいますか? ご指名いただいて光栄です」
如何に苦手だろうが、客は客だ。波濤はにこやかに会話を向けた。おかしなことには、この間、この場の誰もが雑談のひと言も発しないということだった。ただひたすら互いを目線だけで見合いながら、時折ニタニタとした下卑た笑みを浮かべ合うだけなのが、ますます気味悪い。このまま会話が続かなかったらどうしようと、少々気重に感じていたその時だった。
「ところで――今日俺たちがここへ来た意味、分かる?」
先程から場を仕切っている男の方から切り出されて、波濤はハッと顔を上げた。
「俺たちは別に酒を飲みに来たわけでも、ホストと遊びに来たわけでもねえんだよねー」
「……えっと、それはどういう……」
「あんたに用があって来たんだ」
「俺に……ですか?」
「平井菊造を知ってるだろ?」
突如切り出されたそのひと言に、波濤は顔色を変えた。
「……はい、存じております」
平井菊造というのは波濤の腹違いの兄に当たる人物だった。
今は亡き母親の雪吹冴絵が恋に落ちたとされている平井剛造の一人息子である。国内でも有数とされる財閥当主の嫡男が菊造というわけだ。波濤にとってはあまり耳にしたくはない名だった。
菊造とは年齢も二歳ほどしか違わない。母親の冴絵が病死したのは、波濤が物心つく以前の幼子の時分だったが、いわば妾の立場である冴絵が、当時どれだけ肩身の狭い思いをしていたかということすら、波濤は見聞きしていないまま他界してしまったのだ。
その後、父である剛造の元で暮らすことは許されず、両親が出会った香港の地での共通の知人であった黄氏に引き取られて育ったわけだ。その黄氏が老衰で亡くなる直前に聞かされた、実の父である平井剛造に一目会いたいと日本へやって来たのだが、それを阻んだのが他ならぬこの菊造であった。
「あー、ヘルプはいらねえから! 下がってくれていいよ」
個室に着くなり一掃で追い返されてしまった。
「無理言って店のナンバーワンを借りようってんだから、そんなに何人も付いてもらっちゃ悪いだろ?」
男はせせら笑いながら、これでも気を遣ってやっているんだとでも言いたげである。そこへ他のテーブルを抜けて一先ず挨拶をと、顔を出しに波濤がやって来た。
「ご指名ありがとうございます。波濤です」
黒服はもとより、純也らも心配なので、例え追い払われようと未だにその場を動けずにいた。
「あの、こちらのお客様がヘルプは必要ないとおっしゃられるんですが……」
コソッと波濤に耳打ちする。波濤の様子から、どうやら彼の方もこの四人の男には見覚えはないようなのが分かった。つまり、本当に単なる新規のお客というわけなのだろうか。
彼らの図々しさからして、ひょっとしたら波濤の知り合いか、何か因縁があるような訳有りの間柄にも思えたのだが、違ったようだ。こうなればとにかく様子を見るしかないだろうか――一同は一先ずこの場を波濤に託すことにしたのだった。
◇ ◇ ◇
黒服らが去って行った個室で、波濤も戸惑っていた。
新規の客が店先のボードを見ただけで自分を指名したと聞かされたが、単にそれだけではないような不気味さがあるのは否めなかったからだ。だが、やはり心当たりはない。
「では失礼して、お飲み物を作らせていただきますね。ストレート、ロックなどのお好みはございますでしょうか?」
極力笑顔を装って、高額ボトルの封を切る。四人の男の中でも頭的存在の客に先ずはそう訊くと、全員ロックで作ってくれと返答があった。
とりあえずは全員分の酒を作り、それぞれの席の前へとグラスを勧めた。タイミング良く、ちょうどつまみのディッシュとフルーツの盛り合わせが運ばれてきたことに内心ホッとする。運んできたボーイも事の成り行きを聞いているのか、若干緊張の面持ちである。
「ナンバーワンのあんたに酒を作らせちまって申し訳ねえからさ。代わりと言っちゃ何だが、あんたの酒は俺が作ってやるよ。ロックでいいかい?」
ニヘラニヘラと気持ちの悪い笑みを浮かべながらも、一応は客である男がそう言うので、波濤は『有り難いです』と返して微笑んでみせた。
「じゃ、乾杯しようか。お前らも、それから波濤さん? あんたも遠慮せずにやってくれ」
「――いただきます」
客の男に勧められたグラスに口を付けて、つまみなどを各人に取り分けるのも波濤の仕事だ。普段はヘルプのする役目だが、今この部屋にはホストは波濤一人なので当然そうなる。めったに無いことだが、正直どういった会話から切り出していいか戸惑ってもいたから、何かすることがあるのは有り難かった。
「どうぞ――」
「ああ、さんきゅー」
「お客様は当店は初めてでいらっしゃいますか? ご指名いただいて光栄です」
如何に苦手だろうが、客は客だ。波濤はにこやかに会話を向けた。おかしなことには、この間、この場の誰もが雑談のひと言も発しないということだった。ただひたすら互いを目線だけで見合いながら、時折ニタニタとした下卑た笑みを浮かべ合うだけなのが、ますます気味悪い。このまま会話が続かなかったらどうしようと、少々気重に感じていたその時だった。
「ところで――今日俺たちがここへ来た意味、分かる?」
先程から場を仕切っている男の方から切り出されて、波濤はハッと顔を上げた。
「俺たちは別に酒を飲みに来たわけでも、ホストと遊びに来たわけでもねえんだよねー」
「……えっと、それはどういう……」
「あんたに用があって来たんだ」
「俺に……ですか?」
「平井菊造を知ってるだろ?」
突如切り出されたそのひと言に、波濤は顔色を変えた。
「……はい、存じております」
平井菊造というのは波濤の腹違いの兄に当たる人物だった。
今は亡き母親の雪吹冴絵が恋に落ちたとされている平井剛造の一人息子である。国内でも有数とされる財閥当主の嫡男が菊造というわけだ。波濤にとってはあまり耳にしたくはない名だった。
菊造とは年齢も二歳ほどしか違わない。母親の冴絵が病死したのは、波濤が物心つく以前の幼子の時分だったが、いわば妾の立場である冴絵が、当時どれだけ肩身の狭い思いをしていたかということすら、波濤は見聞きしていないまま他界してしまったのだ。
その後、父である剛造の元で暮らすことは許されず、両親が出会った香港の地での共通の知人であった黄氏に引き取られて育ったわけだ。その黄氏が老衰で亡くなる直前に聞かされた、実の父である平井剛造に一目会いたいと日本へやって来たのだが、それを阻んだのが他ならぬこの菊造であった。
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