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一園木蓮

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7. Double Blizzard

Double Blizzard 11話

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 龍の心からの言葉を聞いて、波濤は更に泣き濡れた。ボロボロと止め処ない涙が枕を濡らし、堪え切れなくなった嗚咽が両の肩を揺らす。
「ごめ……龍、俺……俺はお前に愛してもらえる資格なんかねえって……思ってる。いろんな客に身体売って……汚ねえこともいっぱいしてきた……。でも、でも……お前のこと諦め切れない……どうしようもねえ我が侭野郎なんだ」
 ヒック、ヒックと荒い息継ぎを殺すように絞り出される言葉に、龍は腕の中の華奢な身体を思い切り抱き締めた。
「謝るのは俺の方だぜ、波濤。お前の苦しみを知ろうともせず……ただ好きだの愛してるだのと、お前を自分のものにすることしか考えてなかった大馬鹿野郎だ。お前を苦しめてた菊造のことだって……」

――――!

 龍のそのひと言に、波濤は驚いたように瞳を見開いた。
「知って……たのか?」
 驚愕に揺れる大きな双眸から、再びボロリと大粒の涙があふれ出す。
「ああ、帝斗に聞くまで全く気付いてやれなかった。どうしょうもねえクズ野郎だがな……。これからは何も心配することはねえ。お前の苦しみは俺の苦しみだ。菊造のことも全て俺が引き受ける。俺たちは互いのことを知らなさ過ぎたな?」

 そうだ。好きだとか惹かれるという気持ちが先立って、肝心なことを見ようともしなかった。良く言えば、見る余裕がなかったというのが正しいにせよ、波濤を孤独の渦中に置き去りにしていたことに違いはない。
「お前に惚れ過ぎて、とにかく自分のものにしてえって、それしか頭になかった。こんなバカな俺だが、お前を愛してるって言葉に嘘偽りはねえよ。これからは辛えことも嬉しいことも二人で分かち合う。約束する」
 温かく大きな大きな掌で両の頬を包み込みながらそう言って瞳を細める龍を見上げながら、波濤はまたボロリと涙した。
「龍――好きだ。お前だけ……お前だけ――。もう他の誰とも寝たり……したくねえ。お前にしか触られたくねえ……」
「当たり前だ。お前を誰にもやったりするもんかよ――! お前は俺だけのものだ。俺もお前だけのものだ」

 力強い瞳が射るように見下ろしてくる。熱くて溶けてしまいそうな熱視線に見守られながら、波濤は目の前の逞しい胸板にすがり付いた。

「俺、俺……さ、お前と寝た初めての……あの日から……誰ともしてねえよ」
「波……濤?」
「……誰ともしたくなくて……アフターも全部断った……。金の工面が間に合わなくなるの分かってたけど、嫌だったんだ。お前以外の誰かと身体を重ねることが……すっげ辛かったから」
 そう、そのせいで菊造へ手渡す金が滞ったのだ。枕営業を止めた分、通常の店内営業だけで頑張ろうとしたが、もともと人の好い波濤のことだ。客の女性たちに無理をさせることもできなかったのだ。
 そんな波濤の心の内を聞いて、龍はますます愛しい想いに心臓を鷲掴みされるようだった。
「波濤――抱くぞ」
 重ね合った身体の中心、龍の雄もこの上なく膨張して、淫猥な薬を盛られた波濤以上にというくらい大きく硬く張り詰めていた。
「ん、うん……。俺も欲し……お前の」
「欲しいか――? 俺のが――」

 もしかしたら、また理性を失うくらい興奮して――お前に苦しい思いをさせるくらい激しい抱き方をしちまうかも知れねえが――

「勘弁な、波濤――」
「ん……」

 分かってる。大事に扱ってもらうよりも、そんな余裕がないからこその乱暴とも思える抱かれ方が心地いいんだ――

 二人は互いのすべてをもぎ取るように熱く激しく絡み合い、抱き合った。
 カーテン越しに窓の外が白々とするまで、休む間もなく求め合ったのだった。



◇    ◇    ◇



 波濤が目覚めたのは、すっかりと陽も暮れ掛かった夕刻のことだった。
 もう宵闇が降りてきそうな二月末の夕暮れ、春待ち顔の街の雑踏を遙か下に見下ろす大パノラマの窓辺に佇み、波濤はぼうっと夢心地でいた。
 目覚めた時、龍の姿はなく、昨夜とはまた別であろう真新しく糊のきいたシーツが設えてあるベッドにいた。昨夜、ここへ運び込まれた時には気付かなかったが、相当な高層階の――見たところ高級ホテルのような豪華な部屋だ。
 枕元にあった龍の直筆らしきメモを見つめながら、自然と頬が緩む。


*
 風呂を沸かしてあるから、入れるようならゆっくり浸かってこい。俺は所用で出掛けるが、すぐに戻る。電話しろな? そうしたらすっ飛んでお前の元に帰るぜ(`´)b

*


 見慣れない顔文字が使ってある。しかも手書きだ。
 どんな顔をしてこれを書いていったのだろう。あの龍が顔文字まで使ってこれを書いている姿を想像すれば、波濤は口元がほころんでしまうのを抑えられなかった。

 風呂を出て、用意されていた服をまとい、再びパノラマの窓辺に立てば、眼下はすっかりと夜の闇に包まれていた。所々にイルミネーションが輝き、行き交う車のライトが見事なほどに煌めく帯を作っていく。
 いつもの龍のマンションから見る夜景も大層なものだったが、ここはまた更に趣きがある部屋である。
「ひょっとして……この家もあいつの持ち物なのか……?」
 ポツリと独り言が漏れて、龍という男の素性を不思議に思う。そういえば彼は自らを育ててくれた黄老人のことも知っていると言っていた。昨夜はあんな状態だったのですっかり忘れていたが、考えれば考えるほど謎が増えるような気がして、波濤は一人首を傾げた。
 と、遠くに部屋の扉が開かれる音がして、『ご苦労だった』と、誰かに話し掛ける龍の声が聞こえてきた。
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