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7. Double Blizzard
Double Blizzard 12話
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まだ休んでいると思ったのだろうか、なるべく音を立てないような仕草で部屋の扉が開けられたのを感じて、波濤は出迎えるように駆け寄った。
「龍――!」
「波濤! 起きていたのか。身体の具合はどうだ?」
「ん、お陰様ですっかりいいよ。さっきすっげえ豪華な風呂も使わしてもらったし」
「そうか」
龍はフッと瞳を緩めると、穏やかな笑みを浮かべながら手にしていたスーツの上着を脱いで、ソファへと置いた。
「メモ、見たよ。どっか出掛けてたのか?」
「ああ、ちょっとな。お前はぐっすり眠ってたから起こさねえでおこうと思ってな。黙って行っちまって済まない」
「ンなこと……俺ン方こそ至れり尽くせりで申し訳ねえなって……」
そう言い掛けて、波濤はハタと言葉をとめた。先程から上着を脱いだり時計やら小物類を置いたりするごくごく何気ない龍の仕草を見ているだけで、訳もなく落ち着かないのだ。
いつも見慣れているはずの彼のスーツ姿が、今日は何だかときめいてしまうくらい魅惑的にに思えるのはどうしてだろう。その上、何とも渋くて大人っぽくも感じられる。ずっと我慢してきた『好きだ』という気持ちを、素直に告げることができた後だからだろうか――波濤は何だかむず痒いような幸せな気持ちを噛み締めていた。
「腹は減ってないか? すぐメシにしよう」
「あ、うん。けど店は? 今日は同伴とか入ってねえの?」
「さっき帝斗から連絡があって、俺たちに休暇をくれるそうだ。今日はゆっくり養生してくれとさ」
「そう……。申し訳ねえな」
「お前、普段めちゃくちゃがんばっているんだ。今日くらいはいいだろうが」
「……ん、そんじゃ有り難く甘えさしてもらうかな」
「ああ、そうしろ」
龍に誘われて、リビングへと移動する。
この家は本当に広いようだ。寝室も立派だったが、どこもかしこもまるで高級ホテルのスイートルームのような造りに、子供さながらキョロキョロとしてしまう。
広いリビングの一画が壁で囲われたようなスペースに入ると、そこには大きなダイニングテーブルが設えてあり、既に食事の為の食器やらカトラリー類が並べられているのを目にすれば、先程から不思議に思っていたことが口をついて出てしまった。
「なあ、龍……」
「何だ?」
「あのさ、ここもお前の家……なのか?」
いつものマンションとは別の場所だというのは、窓から見下ろす景色からしても明らかだ。目の前に並んでいる食器類からしても、一体誰が用意したというのだろう。まさか龍がこんなにマメなことをするとも思えない。
そんな心の内が表情に出ていたのだろうか、龍は可笑しそうに噴き出すと、そのままコホコホと咳き込んでしまった。
「大丈夫か? 俺、何か変なこと言った?」
波濤の方はますます不思議そうに首を傾げながらも、咳き込む様子を気に掛ける。相変わらずにやさしい男だと、龍は自然と頬がゆるむ思いでいた。
「ここは俺の経営しているホテルだ。もっともこの階は俺のプライベートスペースになってるから、――まあ”家”には違いねえな」
その言葉に波濤は驚いたように瞳を見開いた。
「ホテル……!? 経営って、お前が……か?」
「ああ。もともと俺はこっちが本業なんでな。ホストの仕事は帝斗に半ば強要されたようなもんだ」
「本業って……」
如何にプライベートスペースとはいえ、この部屋の造りを見ただけでも、ただならぬ高級感にあふれているのが分かる。しかもこの高層階だ、一体どんなホテルを経営しているというのだ。波濤は狐につままれたようにポカンと口を開けたままの驚き顔で、しばし龍を凝視してしまった。
そんな様子も龍にとっては愛しくてたまらない。
心底驚いたふうな表情も、いっさい作り物でない彼の素直さを物語っているようで、ますます惚れてしまいそうになる。
「まあ、とにかく座れ。メシを食いながら説明するさ」
クスクスと笑う龍に席を勧められて椅子を引く。と、そこへタイミングを計ったかのように食事が運ばれてきた。
並べられているカトラリーは銀製だろうか、見るからに重みを感じさせるような高級品だ。食事を運んできた男は黒のタキシード姿で、後方にはバリッと糊の効いた真っ白な白衣をまとったシェフをも伴っている。ピカピカと輝く銀色のワゴンに乗せられた料理にも、冷めないようにとの心配りか、これまた銀製の見事なフタが施され――。
確かに高級ホテルなどでルームサービスを頼むとこんなふうに運ばれてくるのだろうが、それにしても幾分現実離れした豪華っぷりに驚くばかりである。
そこへ輪を掛けるようにしてまた一人、今度はダークで上品なスーツ姿の男がシェフに続くようにして現れたのに、波濤は挙動不審というくらいに視線を泳がせてしまった。
「はじめまして、雪吹様」
ダークスーツの男は龍の席から斜めに二歩ほど下がった辺りに立ち、丁寧な仕草でお辞儀をしてよこした。しかも源氏名の”波濤”ではなく、いきなり本名である”雪吹”と呼ばれたことに一瞬焦ってしまう。
「あ、はい……あの、はじめまして」
しどろもどろな返答の様子が可笑しかったのか、龍がまたしてもクスッと笑いながら言った。
「波濤。こいつは俺の秘書の李だ。昨夜、ここへ来る際にも一緒の車に乗ってきたんだぜ」
「――! そう……ですか……。昨夜はお世話をお掛けしてすみませんでした。俺……いえ、自分は波濤……」
思わず源氏名がついて出そうになり、
「あ、冰です。雪吹……冰といいます」
慌てて本名で名乗り直した。
「龍――!」
「波濤! 起きていたのか。身体の具合はどうだ?」
「ん、お陰様ですっかりいいよ。さっきすっげえ豪華な風呂も使わしてもらったし」
「そうか」
龍はフッと瞳を緩めると、穏やかな笑みを浮かべながら手にしていたスーツの上着を脱いで、ソファへと置いた。
「メモ、見たよ。どっか出掛けてたのか?」
「ああ、ちょっとな。お前はぐっすり眠ってたから起こさねえでおこうと思ってな。黙って行っちまって済まない」
「ンなこと……俺ン方こそ至れり尽くせりで申し訳ねえなって……」
そう言い掛けて、波濤はハタと言葉をとめた。先程から上着を脱いだり時計やら小物類を置いたりするごくごく何気ない龍の仕草を見ているだけで、訳もなく落ち着かないのだ。
いつも見慣れているはずの彼のスーツ姿が、今日は何だかときめいてしまうくらい魅惑的にに思えるのはどうしてだろう。その上、何とも渋くて大人っぽくも感じられる。ずっと我慢してきた『好きだ』という気持ちを、素直に告げることができた後だからだろうか――波濤は何だかむず痒いような幸せな気持ちを噛み締めていた。
「腹は減ってないか? すぐメシにしよう」
「あ、うん。けど店は? 今日は同伴とか入ってねえの?」
「さっき帝斗から連絡があって、俺たちに休暇をくれるそうだ。今日はゆっくり養生してくれとさ」
「そう……。申し訳ねえな」
「お前、普段めちゃくちゃがんばっているんだ。今日くらいはいいだろうが」
「……ん、そんじゃ有り難く甘えさしてもらうかな」
「ああ、そうしろ」
龍に誘われて、リビングへと移動する。
この家は本当に広いようだ。寝室も立派だったが、どこもかしこもまるで高級ホテルのスイートルームのような造りに、子供さながらキョロキョロとしてしまう。
広いリビングの一画が壁で囲われたようなスペースに入ると、そこには大きなダイニングテーブルが設えてあり、既に食事の為の食器やらカトラリー類が並べられているのを目にすれば、先程から不思議に思っていたことが口をついて出てしまった。
「なあ、龍……」
「何だ?」
「あのさ、ここもお前の家……なのか?」
いつものマンションとは別の場所だというのは、窓から見下ろす景色からしても明らかだ。目の前に並んでいる食器類からしても、一体誰が用意したというのだろう。まさか龍がこんなにマメなことをするとも思えない。
そんな心の内が表情に出ていたのだろうか、龍は可笑しそうに噴き出すと、そのままコホコホと咳き込んでしまった。
「大丈夫か? 俺、何か変なこと言った?」
波濤の方はますます不思議そうに首を傾げながらも、咳き込む様子を気に掛ける。相変わらずにやさしい男だと、龍は自然と頬がゆるむ思いでいた。
「ここは俺の経営しているホテルだ。もっともこの階は俺のプライベートスペースになってるから、――まあ”家”には違いねえな」
その言葉に波濤は驚いたように瞳を見開いた。
「ホテル……!? 経営って、お前が……か?」
「ああ。もともと俺はこっちが本業なんでな。ホストの仕事は帝斗に半ば強要されたようなもんだ」
「本業って……」
如何にプライベートスペースとはいえ、この部屋の造りを見ただけでも、ただならぬ高級感にあふれているのが分かる。しかもこの高層階だ、一体どんなホテルを経営しているというのだ。波濤は狐につままれたようにポカンと口を開けたままの驚き顔で、しばし龍を凝視してしまった。
そんな様子も龍にとっては愛しくてたまらない。
心底驚いたふうな表情も、いっさい作り物でない彼の素直さを物語っているようで、ますます惚れてしまいそうになる。
「まあ、とにかく座れ。メシを食いながら説明するさ」
クスクスと笑う龍に席を勧められて椅子を引く。と、そこへタイミングを計ったかのように食事が運ばれてきた。
並べられているカトラリーは銀製だろうか、見るからに重みを感じさせるような高級品だ。食事を運んできた男は黒のタキシード姿で、後方にはバリッと糊の効いた真っ白な白衣をまとったシェフをも伴っている。ピカピカと輝く銀色のワゴンに乗せられた料理にも、冷めないようにとの心配りか、これまた銀製の見事なフタが施され――。
確かに高級ホテルなどでルームサービスを頼むとこんなふうに運ばれてくるのだろうが、それにしても幾分現実離れした豪華っぷりに驚くばかりである。
そこへ輪を掛けるようにしてまた一人、今度はダークで上品なスーツ姿の男がシェフに続くようにして現れたのに、波濤は挙動不審というくらいに視線を泳がせてしまった。
「はじめまして、雪吹様」
ダークスーツの男は龍の席から斜めに二歩ほど下がった辺りに立ち、丁寧な仕草でお辞儀をしてよこした。しかも源氏名の”波濤”ではなく、いきなり本名である”雪吹”と呼ばれたことに一瞬焦ってしまう。
「あ、はい……あの、はじめまして」
しどろもどろな返答の様子が可笑しかったのか、龍がまたしてもクスッと笑いながら言った。
「波濤。こいつは俺の秘書の李だ。昨夜、ここへ来る際にも一緒の車に乗ってきたんだぜ」
「――! そう……ですか……。昨夜はお世話をお掛けしてすみませんでした。俺……いえ、自分は波濤……」
思わず源氏名がついて出そうになり、
「あ、冰です。雪吹……冰といいます」
慌てて本名で名乗り直した。
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