club-xuanwu

一園木蓮

文字の大きさ
58 / 60
8. Flame

Flame 5話

しおりを挟む
 そんな二人がそれぞれの親に気持ちを打ち明けたところ、両親たちは絶句、最初は反対もしたが、今ではどうにもならないことだと認めてくれる雰囲気になってきているらしい。だが、さすがに同棲して人生を共にすることに同意するのは最後の一歩が踏み切れないらしく、二人の決意の形として二千万円を貯めることができた時には、晴れて公に認めてやると言われたそうだ。
 事の次第は理解できた。とにかくは借金などの困った方向性の話ではないことに安堵したものの、初対面の人間を相手に堂々と『自分たちはゲイで愛し合っている』と言ってのけることに驚かされる。だがまあ、波濤とて同性の龍と恋仲になり、生涯を共にしようと誓った立場である。若い二人の逸る気持ちも十分に理解できるものだし、応援してやりたいと思えるのも実のところだった。あとは多少不安に思える事柄があるとすれば、ひとつだけ――だ。
「話は分かった。だが、ここはホストクラブだぞ? お客様は殆どが女性だ。中には疑似恋愛的な雰囲気を楽しみたくて来店してくれるお客も多い。やっていける自信はあるのか?」
 ホストとボーイ、立場は違うとはいえ、同じ店内で互いの接客場面を見て嫉妬することもないとはいえない。それは波濤自身が身をもって痛感していることでもある。それ以前に女性客を相手に、ホストという仕事がこなせるのかということも懸念されるので、最後に念を押すべくそう訊いたのだ。すると、茶髪の男は意思のある瞳で「大丈夫です」と言ってよこした。
「ただ……」
「ただ――? 何だ?」
「はい……あの、俺……勤めは一生懸命やります。ホストをやっていく上で、難しい問題も出てくるだろうって……覚悟もしてます。でも自分らの夢は諦めたくない。仕事と私情はきちんとわきまえて精一杯勤めますんで……!」
 時折、言葉を選ぶように慎重にしながらも、彼の真摯な思いだけは十分に伝わってくるのが分かる。
「ただ、その……」
 何かを言いたいのだろうが、どうにもその先の言葉が出てこない様子の彼に、波濤をはじめ、辰也らも首を傾げてしまった。
「あ、いえ……何でもありません。俺、ゲイですけど、それは恋人として女性と付き合ったりするのが無理だってだけで、普通に女の子と話す分には楽しいんで……一生懸命勤めますんで、よろしくお願いします」
 何とも歯切れが悪い感が残るものの、必死さは伝わってくる。初めてのホストという仕事に対して不安もあるのだろうと思えた波濤は、穏やかに微笑んでみせた。
「もしも不安なことや分からないことがあれば遠慮なく言ってくれればいい。俺にでもいいし、ここにいる辰也や純也に訊いてくれてもいい。ウチは皆、後輩の面倒見のいい奴らばかりだから、安心して何でもぶつけてくれな」
 ただし、自分はゲイでフロアーボーイと相思相愛の仲だ――などという、お客に対して言わなくてもいいようなことは伏せておくようにと釘を刺すのも忘れない。
「では先ずは見習いから初めてもらうから、そうそうすぐには思ったように稼げないだろうが、頑張れるか?」
 波濤の問いに、二人は瞳を輝かせてうなずいた。
「勿論です! がんばります!」
「よろしくお願いします!」
 立ち上がり、ビシッと腰を九十度に折って深々と礼をする。そんな姿が初々しくて清々しくて、波濤は心温まる思いがしていた。
「それじゃあ、ホスト希望のキミ、先ずは源氏名を決めようか。何か希望のものはあるか?」
 そう訊いた波濤の言葉に、またもや驚くような答えが返ってきて、その場にいた皆は再び唖然とさせられてしまった。
「源氏名は隼斗ハヤトがいいなと思ってるんですが……」

 隼斗だと――!

 すっとんきょうな声を上げたのは、それまで黙って成り行きを見ていた現ナンバーワンホストの辰也であった。
「えっと……何かマズいっすか?」
 茶髪の彼が首を傾げる。
「いや、マズイっつか……”隼斗”ってのは前代表の源氏名なんだよ」
 そうだ。隼斗というのは、前のオーナー兼代表だった粟津帝斗が現役ホストだった頃の源氏名なのだ。今は彼も引退しているし、取り立ててマズい訳では決してないが、それにしても当時を知る客もいることだし、多少の困惑は否めない。そんな雰囲気を察したのか、茶髪の彼はすんなりと引き下がって第二案を口にした。
「じゃあ、波濤ハトウってのはどうですか? 俺、隼斗か波濤のどっちかがいいんじゃないかって思ってたんで、隼斗がダメなら、こっちでも……」

 ええッ、波濤かよ――ッ!?

 またもや絶叫した辰也と純也に、若い茶髪はさすがに怪訝そうにする。
「え……と、これもダメなんスか?」
「や、ダメじゃ……ねえけどよ。”波濤”は現代表の源氏名だったんだよなー」
 次から次へとダメ出しするのも気の毒に思ったのか、辰也らは申し訳なさそうに苦笑い状態だ。黙ってやり取りを見ていた波濤本人は、可笑しそうにクククと、今にも噴き出しそうになっていた。
「別に”波濤”でも構わないさ。君がそれでいいなら、俺は全然――」
 笑いを堪えながら了解しかけた波濤に、
「じゃ、あの……俺、本名でいきます」
 茶髪の彼はポンと自分の胸を叩きながらそう言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

交際0日婚の溺愛事情

江多之折(エタノール)
BL
死にたくはない。でも、生きたくもない。ふらふらと彷徨う根無し草は、世界の怖さを知っている。救いの手は、選ばれた者にだけ差し伸べられることも知っている。 だから緩やかに終わりを探して生きていた。 ──たった数回の鬼ごっこを経験するまでは。 誠実すぎて怖い人は、4回目の顔合わせで僕の夫となる。 そんな怖がりな男と誠実な男の、結婚生活の始まり。 ■現実だけど現実じゃない、そんな気持ちで読んでください。 ■家庭に関してトラウマを抱えている方は読まない方が良いと思います。

【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話

降魔 鬼灯
BL
 ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。  両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。  しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。  コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。  

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

【完結】言えない言葉

未希かずは(Miki)
BL
 双子の弟・水瀬碧依は、明るい兄・翼と比べられ、自信がない引っ込み思案な大学生。  同じゼミの気さくで眩しい如月大和に密かに恋するが、話しかける勇気はない。  ある日、碧依は兄になりすまし、本屋のバイトで大和に近づく大胆な計画を立てる。  兄の笑顔で大和と心を通わせる碧依だが、嘘の自分に葛藤し……。  すれ違いを経て本当の想いを伝える、切なく甘い青春BLストーリー。 第1回青春BLカップ参加作品です。 1章 「出会い」が長くなってしまったので、前後編に分けました。 2章、3章も長くなってしまって、分けました。碧依の恋心を丁寧に書き直しました。(2025/9/2 18:40)

処理中です...