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8. Flame
Flame 5話
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そんな二人がそれぞれの親に気持ちを打ち明けたところ、両親たちは絶句、最初は反対もしたが、今ではどうにもならないことだと認めてくれる雰囲気になってきているらしい。だが、さすがに同棲して人生を共にすることに同意するのは最後の一歩が踏み切れないらしく、二人の決意の形として二千万円を貯めることができた時には、晴れて公に認めてやると言われたそうだ。
事の次第は理解できた。とにかくは借金などの困った方向性の話ではないことに安堵したものの、初対面の人間を相手に堂々と『自分たちはゲイで愛し合っている』と言ってのけることに驚かされる。だがまあ、波濤とて同性の龍と恋仲になり、生涯を共にしようと誓った立場である。若い二人の逸る気持ちも十分に理解できるものだし、応援してやりたいと思えるのも実のところだった。あとは多少不安に思える事柄があるとすれば、ひとつだけ――だ。
「話は分かった。だが、ここはホストクラブだぞ? お客様は殆どが女性だ。中には疑似恋愛的な雰囲気を楽しみたくて来店してくれるお客も多い。やっていける自信はあるのか?」
ホストとボーイ、立場は違うとはいえ、同じ店内で互いの接客場面を見て嫉妬することもないとはいえない。それは波濤自身が身をもって痛感していることでもある。それ以前に女性客を相手に、ホストという仕事がこなせるのかということも懸念されるので、最後に念を押すべくそう訊いたのだ。すると、茶髪の男は意思のある瞳で「大丈夫です」と言ってよこした。
「ただ……」
「ただ――? 何だ?」
「はい……あの、俺……勤めは一生懸命やります。ホストをやっていく上で、難しい問題も出てくるだろうって……覚悟もしてます。でも自分らの夢は諦めたくない。仕事と私情はきちんとわきまえて精一杯勤めますんで……!」
時折、言葉を選ぶように慎重にしながらも、彼の真摯な思いだけは十分に伝わってくるのが分かる。
「ただ、その……」
何かを言いたいのだろうが、どうにもその先の言葉が出てこない様子の彼に、波濤をはじめ、辰也らも首を傾げてしまった。
「あ、いえ……何でもありません。俺、ゲイですけど、それは恋人として女性と付き合ったりするのが無理だってだけで、普通に女の子と話す分には楽しいんで……一生懸命勤めますんで、よろしくお願いします」
何とも歯切れが悪い感が残るものの、必死さは伝わってくる。初めてのホストという仕事に対して不安もあるのだろうと思えた波濤は、穏やかに微笑んでみせた。
「もしも不安なことや分からないことがあれば遠慮なく言ってくれればいい。俺にでもいいし、ここにいる辰也や純也に訊いてくれてもいい。ウチは皆、後輩の面倒見のいい奴らばかりだから、安心して何でもぶつけてくれな」
ただし、自分はゲイでフロアーボーイと相思相愛の仲だ――などという、お客に対して言わなくてもいいようなことは伏せておくようにと釘を刺すのも忘れない。
「では先ずは見習いから初めてもらうから、そうそうすぐには思ったように稼げないだろうが、頑張れるか?」
波濤の問いに、二人は瞳を輝かせてうなずいた。
「勿論です! がんばります!」
「よろしくお願いします!」
立ち上がり、ビシッと腰を九十度に折って深々と礼をする。そんな姿が初々しくて清々しくて、波濤は心温まる思いがしていた。
「それじゃあ、ホスト希望のキミ、先ずは源氏名を決めようか。何か希望のものはあるか?」
そう訊いた波濤の言葉に、またもや驚くような答えが返ってきて、その場にいた皆は再び唖然とさせられてしまった。
「源氏名は隼斗がいいなと思ってるんですが……」
隼斗だと――!
すっとんきょうな声を上げたのは、それまで黙って成り行きを見ていた現ナンバーワンホストの辰也であった。
「えっと……何かマズいっすか?」
茶髪の彼が首を傾げる。
「いや、マズイっつか……”隼斗”ってのは前代表の源氏名なんだよ」
そうだ。隼斗というのは、前のオーナー兼代表だった粟津帝斗が現役ホストだった頃の源氏名なのだ。今は彼も引退しているし、取り立ててマズい訳では決してないが、それにしても当時を知る客もいることだし、多少の困惑は否めない。そんな雰囲気を察したのか、茶髪の彼はすんなりと引き下がって第二案を口にした。
「じゃあ、波濤ってのはどうですか? 俺、隼斗か波濤のどっちかがいいんじゃないかって思ってたんで、隼斗がダメなら、こっちでも……」
ええッ、波濤かよ――ッ!?
またもや絶叫した辰也と純也に、若い茶髪はさすがに怪訝そうにする。
「え……と、これもダメなんスか?」
「や、ダメじゃ……ねえけどよ。”波濤”は現代表の源氏名だったんだよなー」
次から次へとダメ出しするのも気の毒に思ったのか、辰也らは申し訳なさそうに苦笑い状態だ。黙ってやり取りを見ていた波濤本人は、可笑しそうにクククと、今にも噴き出しそうになっていた。
「別に”波濤”でも構わないさ。君がそれでいいなら、俺は全然――」
笑いを堪えながら了解しかけた波濤に、
「じゃ、あの……俺、本名でいきます」
茶髪の彼はポンと自分の胸を叩きながらそう言った。
事の次第は理解できた。とにかくは借金などの困った方向性の話ではないことに安堵したものの、初対面の人間を相手に堂々と『自分たちはゲイで愛し合っている』と言ってのけることに驚かされる。だがまあ、波濤とて同性の龍と恋仲になり、生涯を共にしようと誓った立場である。若い二人の逸る気持ちも十分に理解できるものだし、応援してやりたいと思えるのも実のところだった。あとは多少不安に思える事柄があるとすれば、ひとつだけ――だ。
「話は分かった。だが、ここはホストクラブだぞ? お客様は殆どが女性だ。中には疑似恋愛的な雰囲気を楽しみたくて来店してくれるお客も多い。やっていける自信はあるのか?」
ホストとボーイ、立場は違うとはいえ、同じ店内で互いの接客場面を見て嫉妬することもないとはいえない。それは波濤自身が身をもって痛感していることでもある。それ以前に女性客を相手に、ホストという仕事がこなせるのかということも懸念されるので、最後に念を押すべくそう訊いたのだ。すると、茶髪の男は意思のある瞳で「大丈夫です」と言ってよこした。
「ただ……」
「ただ――? 何だ?」
「はい……あの、俺……勤めは一生懸命やります。ホストをやっていく上で、難しい問題も出てくるだろうって……覚悟もしてます。でも自分らの夢は諦めたくない。仕事と私情はきちんとわきまえて精一杯勤めますんで……!」
時折、言葉を選ぶように慎重にしながらも、彼の真摯な思いだけは十分に伝わってくるのが分かる。
「ただ、その……」
何かを言いたいのだろうが、どうにもその先の言葉が出てこない様子の彼に、波濤をはじめ、辰也らも首を傾げてしまった。
「あ、いえ……何でもありません。俺、ゲイですけど、それは恋人として女性と付き合ったりするのが無理だってだけで、普通に女の子と話す分には楽しいんで……一生懸命勤めますんで、よろしくお願いします」
何とも歯切れが悪い感が残るものの、必死さは伝わってくる。初めてのホストという仕事に対して不安もあるのだろうと思えた波濤は、穏やかに微笑んでみせた。
「もしも不安なことや分からないことがあれば遠慮なく言ってくれればいい。俺にでもいいし、ここにいる辰也や純也に訊いてくれてもいい。ウチは皆、後輩の面倒見のいい奴らばかりだから、安心して何でもぶつけてくれな」
ただし、自分はゲイでフロアーボーイと相思相愛の仲だ――などという、お客に対して言わなくてもいいようなことは伏せておくようにと釘を刺すのも忘れない。
「では先ずは見習いから初めてもらうから、そうそうすぐには思ったように稼げないだろうが、頑張れるか?」
波濤の問いに、二人は瞳を輝かせてうなずいた。
「勿論です! がんばります!」
「よろしくお願いします!」
立ち上がり、ビシッと腰を九十度に折って深々と礼をする。そんな姿が初々しくて清々しくて、波濤は心温まる思いがしていた。
「それじゃあ、ホスト希望のキミ、先ずは源氏名を決めようか。何か希望のものはあるか?」
そう訊いた波濤の言葉に、またもや驚くような答えが返ってきて、その場にいた皆は再び唖然とさせられてしまった。
「源氏名は隼斗がいいなと思ってるんですが……」
隼斗だと――!
すっとんきょうな声を上げたのは、それまで黙って成り行きを見ていた現ナンバーワンホストの辰也であった。
「えっと……何かマズいっすか?」
茶髪の彼が首を傾げる。
「いや、マズイっつか……”隼斗”ってのは前代表の源氏名なんだよ」
そうだ。隼斗というのは、前のオーナー兼代表だった粟津帝斗が現役ホストだった頃の源氏名なのだ。今は彼も引退しているし、取り立ててマズい訳では決してないが、それにしても当時を知る客もいることだし、多少の困惑は否めない。そんな雰囲気を察したのか、茶髪の彼はすんなりと引き下がって第二案を口にした。
「じゃあ、波濤ってのはどうですか? 俺、隼斗か波濤のどっちかがいいんじゃないかって思ってたんで、隼斗がダメなら、こっちでも……」
ええッ、波濤かよ――ッ!?
またもや絶叫した辰也と純也に、若い茶髪はさすがに怪訝そうにする。
「え……と、これもダメなんスか?」
「や、ダメじゃ……ねえけどよ。”波濤”は現代表の源氏名だったんだよなー」
次から次へとダメ出しするのも気の毒に思ったのか、辰也らは申し訳なさそうに苦笑い状態だ。黙ってやり取りを見ていた波濤本人は、可笑しそうにクククと、今にも噴き出しそうになっていた。
「別に”波濤”でも構わないさ。君がそれでいいなら、俺は全然――」
笑いを堪えながら了解しかけた波濤に、
「じゃ、あの……俺、本名でいきます」
茶髪の彼はポンと自分の胸を叩きながらそう言った。
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