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一園木蓮

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8. Flame

Flame 6話

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「本名って――、君はそれでいいのか?」
「はい。俺の本名、わりと色気あるっていうか、源氏名にしても通りそうな名前なんで」
「何ていうんだ?」
 そういえばまだ履歴書を見ていなかったことを思い出して、そう訊いた。茶髪の彼はまたひとたびすっくと立ち上がると、
一之宮紫月いちのみや しづきといいます。むらさきつきと書いて紫月。これでどうでしょうか?」

――紫月。これが本名ならば確かに色気のある名前だ。

「ああ、いいね。じゃあ紫月、よろしく頼むよ。それから、そちらのボーイ希望のキミも本名でいいかい?」
「はい、鐘崎遼二かねさき りょうじといいます。よろしくお願いします」
 黒髪の男も立ち上がり、そう言って今一度、共に頭を下げた。と、その瞬間だった。
 それまで特には口を挟まずにいた龍が、突如テーブルの上に散らばっていたトランプのカードの一枚を取り上げて、若い二人に向かって投げ付けるようにビッと放ってみせたのだ。

「――――ッ!?」

 勢いのある速さでカードが目の前を横切る――
 波濤は龍に向かって『いきなり何をするんだ』と問い質そうとした瞬間、黒髪の彼の指先が放られたカードをしっかりと挟んでいることに驚かされた。
 人差し指と中指――しかも左手の方の二本の指の間に、まるで真剣白刃取りのようにキャッチされたカードを見て、場が静まり返る。
「ふん、やはりいい勘してやがる。左利きか」
 ニヤリと口角を上げて笑った龍を、誰もが驚いたように凝視した。
「遼二といったか――お前、何か体術を心得ているだろう?」
 相も変わらずソファにどっかりと腰を落ち着け、脚を組んだデカい態度のままで、龍がそう訊く。遼二と呼ばれた黒髪の男は、僅かに怪訝そうにしながらも素直にこう答えた。
「空手と拳法を少しだけ――かじってます」
「謙遜するな」
「いえ――そんな」
 紫月という茶髪の男も、ポカンと口を開けた状態で、龍と自らの相棒である遼二を交互に見つめている。辰也と純也などは半ば硬直、唖然状態だ。龍が何をしたいのか、何を言いたいのか、全く読めないこの状況に呆然とするのみである。
 楽しそうなのは龍一人だけ――ニヒルに笑みを浮かべながら、とんでもないことを口にした。
「なあ遼二。ボーイもいいが、俺の側で働く気はねえか?」
「え――?」
「ボーイとして勤めるより給料は弾むぜ?」
「あの……それってどういう……」
 突如、親しげに名前を呼び捨てられた上に、突飛なことを言われて視線をキョロキョロと泳がせる。
「俺の用心棒兼秘書として働く気はないかと訊いている」
「はぁ……」
 はっきりとそう言われても、遼二は困惑顔だ。龍の突然の提案に、波濤も呆れたように肩をすくめてみせた。
 まあ条件もいいことだし、案外すぐにこの提案に食らい付いてくるだろうかと思いきや、遼二という彼は、きっぱりと断りの意思を口にした。
「有り難いお話ですが、俺はこの店で働かせていただきたいです」
 隣に座る紫月という相棒をちらりと見やりながらそう答える。そんな遼二の態度に、龍は片眉を吊り上げながらも面白そうに笑ってみせた。
「ほお? 要は二人、一時いっときたりと離れていたくはねえってことか。案外心配性なヤツだな」
 ニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべながらも、この状況を楽しんでもいるようだ。よほどこの若い二人が気に入ったのか、龍は珍しくも饒舌で、少々突っ込んだやり取りを止めようとはしない。
「心配には及ばねえさ。お前の”嫁”はこの冰に任せておけば安心だ。危ねえこともさせねえし、心配は無用だぜ」
「嫁……!?」
「お前の方が旦那だろうが。それとも逆なのか?」
 一歩間違えば破廉恥セクハラと取られかねない際どい突っ込みを恥ずかしげもなく口にする。と同時に、もうひと言、皆が『え?』と首を傾げるようなことを言ってのけた。
「それから紫月――。お前がさっき言おうとしたこと、ウチの店では不要だから安心していいぞ」

「――は?」

 波濤をはじめ辰也と純也は無論のこと、言われた当人の紫月は酷く驚いたように龍を見上げた。
「枕営業はしたくない――、だろ?」
 その言葉に全員が一斉に龍を見やる。
 なるほど、そういうことか――と、波濤も滅法驚いたように瞳をパチクリとさせてしまった。要は恋人である遼二に対して操を立てたいということなのだろう、可愛らしいことこの上ない。波濤は微笑ましさが極まって、思わず笑みを誘われてしまうほどだった。
 それにしても横から会話を聞いていただけでそんな細かな心情を読み取るとは、さすがと言わざるを得ない。この龍にはどこまでも予想できない魅力を見せつけられるようで、波濤自身、改めて頬が染まる思いがしていた。
 そんな気持ちをも読まれたというわけか、龍は嬉しそうにニヤッと笑むと、
「何だ、冰。惚れ直したか?」
 満足げにそう言いながらすっくと立ち上がり、迷わず愛しい男の隣に座り直して、堂々と彼の肩を抱き寄せてみせた。
「え、ちょっ……! おい、龍……!」
 焦る波濤にもおかまいなしだ。
 若い二人の方も、真っ正面で不意打ちの熱々ぶりを見せつけられて唖然である。しばしどう反応していいのかと、しどろもどろだ。互いを見合いながら、
「あの……その……えーと」と、口をパクパクさせている。
「こいつは俺の”嫁”だ。お前の嫁もこいつに預けておけば心配ねえって言ってるんだ」
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