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鉱山での生活が始まった!
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※エピソード「身勝手な愛」鉱山に送られた郭芳のその後の話です。鉱山では先輩に当たるロンとの読み切り。
「おい――具合はどうだ。起きられそうか?」
頭上からそんな声が降ってきて、郭芳は朦朧とした意識の中でわずかに瞳を見開いた。
香港からここ鉱山へやって来て一週間余りが経った頃だ。慣れない環境と厳しい採掘の仕事に気を張り詰めてか、遂には高熱を出してダウンしてしまったのだ。
「粥を炊いてきた。食えそうか?」
ぼんやりと視界に映り込んだのは陽に焼けた逞しい腕――。声の主は採掘現場で班長をしているロナルド・コックスことロンだった。
「……ロン……さん、す……みませ……ご迷惑をお掛けして」
コホコホと出る咳を抑えながら慌てて起き上がろうとすると、
「ああ、無理すんな。今一緒に起こしてやっから!」
そのまま楽にしていろと言ってくれた。
香港を去る日、周焔と冰から頼りになると聞かされたロンというこの男。初めて見た時は厳つい体格に険しい視線、強面の印象が少々とっつきにくく、冷たく怖い雰囲気の男だと思って気持ちが萎えたほどだった。
焔老板も姐さんも大嘘つきだ――そんなふうにも思ったくらいだ。
ところがいざ現場に出てみると、仕事に対しては非常に真面目で真摯に向き合う姿勢に第一印象とはまるで違ったことに驚かされた。見た目は怖いが、男として尊敬に値するような働きぶりだと感心させられたものだ。
『おめえ、野郎にしてはヒョロっこい腕してんなぁ。そんなんじゃ荷車ひとつ動かせやしねえな』
半ば呆れ気味にそう言っては華奢な自分にも無理なくできる、掘り出した鉱石を仕分けるという――いわば体力的に楽な仕事に回してくれたのだ。有り難い思いと同時に情けなくも思い、とにかくは与えられた仕事だけでもせめてミスすることなくやり遂げようと必死になったものだ。
ところが一週間も経つ頃には気力体力がついていかずに熱を出して寝込む始末――。郭芳はほとほと情けなくも、実際身体は限界で、気を失うようにして寝込んでしまったのだった。
◇ ◇ ◇
「ほら、少しでも食わねえってーと身がもたねえぞ。起き上がれるか?」
クイと逞しい腕を背中の後ろに入れて、支えるように起こしてくれる。まるでリクライニングの効く電動ベッドのように力強く安定感のあるその感覚がひどく心地好く、とても頼りになる気がして、不思議な安堵感に包まれる気がしていた。
「ロン……さん、すみません……。私は本当に……何をやってもダメな人間で……情けない思いです」
新入りにも関わらず、楽な仕事に回してもらったというのにこのザマだ。申し訳ない思いと高熱の怠さとで胸が潰れそうだった。
「まあそう落ち込むことはねえさな。初めてのヤツにしちゃあ、おめえさんはよく頑張ってる方だ」
ロンは苦笑しつつも気に病むなと言って粥をスプーンですくってくれた。
「ほら、食え。今はとにかくな、余計なこたぁ考えねえで体を治すことだけに専念すりゃいい。それには食わねえとな」
粥の入った器を手渡され、今度は茶を淹れてくれる。
「これ……ロンさんが作ってくださったんですか?」
「そうさ。味は――まあ白米《メシ》に水を多めにして炊いただけだ。格別美味いってわけでもねえだろうが、食える程度には出来てると思うが」
そんな台詞とは裏腹に、粥はふっくらとやわらかく、熱々の湯気が米のいい香りを運んできて、熱で弱った身体でも美味しそうで喉が鳴る。
「いえ、とても美味しいです」
「そうか?」
だったら良かったと言って笑う。その笑顔が普段の強面を裏切って、思わず寄り掛かりたくなってしまうほどに頼もしく心強い。
「お忙しいのに――すみません。お手を煩わせて……」
「いいってことよ! これも班長の務めの内だ」
遠慮せずに、かといって無理はせずに食えるだけ食えと言ってくれる。
その気持ちが有り難くて、郭芳は滲みそうになる涙を堪えながらも温かい粥を平らげた。
「よし! よく完食できたじゃねえか。あとはこの薬を飲んでぐっすり眠りゃすぐに良くなるさ」
そう言って食器を下げ、寝かしつけて布団を掛けてくれる。
「どら、熱の方は――っと。まだ下がんねえか」
大きな掌を額には当てて熱を測ってくれながら瞳を細めてよこした。ゴツゴツとした――決して心地の好い感触とはいえない無骨な手だが、今の郭芳にとってはどんなにやわらかく滑らかな肌触りよりも温かく思えた。
「二、三日もすりゃあ熱も下がるって。てめえが情けねえなんてつまんねえこたぁ考えねえでいいから、今はゆっくり休めよ」
まるで子供をあやすように笑い掛けてくれる瞳がそこはかとなく優しげで、再び涙が滲みそうになる。
「じゃあな。また晩飯時になったら様子を見に来っから!」
何かあれば遠慮なく声を掛けろと言ってロンは部屋を後にして行った。
「ロンさん、申し訳ない……。早く治して――このご恩に報いられるようがんばります」
うとうと、再び襲ってきた睡魔に引き込まれながらそっと瞳を閉じる。
老板、姐さん、おっしゃる通りでした。本当に頼りになる方ですね、ロンさん――。私もがんばらなきゃ……。
『達者でな』と言ってくれた周の笑顔、『くれぐれも身体を大事にしてくださいね』と微笑んだ冰のあたたかい気持ち。そしてたった今、手厚い看病をしてくれたロンの頼もしい腕――それらひとつひとつを脳裏に思い浮かべながら、いつしか深い眠りに落ちていった郭芳だった。
鉱山での生活が始まった! - FIN -
「おい――具合はどうだ。起きられそうか?」
頭上からそんな声が降ってきて、郭芳は朦朧とした意識の中でわずかに瞳を見開いた。
香港からここ鉱山へやって来て一週間余りが経った頃だ。慣れない環境と厳しい採掘の仕事に気を張り詰めてか、遂には高熱を出してダウンしてしまったのだ。
「粥を炊いてきた。食えそうか?」
ぼんやりと視界に映り込んだのは陽に焼けた逞しい腕――。声の主は採掘現場で班長をしているロナルド・コックスことロンだった。
「……ロン……さん、す……みませ……ご迷惑をお掛けして」
コホコホと出る咳を抑えながら慌てて起き上がろうとすると、
「ああ、無理すんな。今一緒に起こしてやっから!」
そのまま楽にしていろと言ってくれた。
香港を去る日、周焔と冰から頼りになると聞かされたロンというこの男。初めて見た時は厳つい体格に険しい視線、強面の印象が少々とっつきにくく、冷たく怖い雰囲気の男だと思って気持ちが萎えたほどだった。
焔老板も姐さんも大嘘つきだ――そんなふうにも思ったくらいだ。
ところがいざ現場に出てみると、仕事に対しては非常に真面目で真摯に向き合う姿勢に第一印象とはまるで違ったことに驚かされた。見た目は怖いが、男として尊敬に値するような働きぶりだと感心させられたものだ。
『おめえ、野郎にしてはヒョロっこい腕してんなぁ。そんなんじゃ荷車ひとつ動かせやしねえな』
半ば呆れ気味にそう言っては華奢な自分にも無理なくできる、掘り出した鉱石を仕分けるという――いわば体力的に楽な仕事に回してくれたのだ。有り難い思いと同時に情けなくも思い、とにかくは与えられた仕事だけでもせめてミスすることなくやり遂げようと必死になったものだ。
ところが一週間も経つ頃には気力体力がついていかずに熱を出して寝込む始末――。郭芳はほとほと情けなくも、実際身体は限界で、気を失うようにして寝込んでしまったのだった。
◇ ◇ ◇
「ほら、少しでも食わねえってーと身がもたねえぞ。起き上がれるか?」
クイと逞しい腕を背中の後ろに入れて、支えるように起こしてくれる。まるでリクライニングの効く電動ベッドのように力強く安定感のあるその感覚がひどく心地好く、とても頼りになる気がして、不思議な安堵感に包まれる気がしていた。
「ロン……さん、すみません……。私は本当に……何をやってもダメな人間で……情けない思いです」
新入りにも関わらず、楽な仕事に回してもらったというのにこのザマだ。申し訳ない思いと高熱の怠さとで胸が潰れそうだった。
「まあそう落ち込むことはねえさな。初めてのヤツにしちゃあ、おめえさんはよく頑張ってる方だ」
ロンは苦笑しつつも気に病むなと言って粥をスプーンですくってくれた。
「ほら、食え。今はとにかくな、余計なこたぁ考えねえで体を治すことだけに専念すりゃいい。それには食わねえとな」
粥の入った器を手渡され、今度は茶を淹れてくれる。
「これ……ロンさんが作ってくださったんですか?」
「そうさ。味は――まあ白米《メシ》に水を多めにして炊いただけだ。格別美味いってわけでもねえだろうが、食える程度には出来てると思うが」
そんな台詞とは裏腹に、粥はふっくらとやわらかく、熱々の湯気が米のいい香りを運んできて、熱で弱った身体でも美味しそうで喉が鳴る。
「いえ、とても美味しいです」
「そうか?」
だったら良かったと言って笑う。その笑顔が普段の強面を裏切って、思わず寄り掛かりたくなってしまうほどに頼もしく心強い。
「お忙しいのに――すみません。お手を煩わせて……」
「いいってことよ! これも班長の務めの内だ」
遠慮せずに、かといって無理はせずに食えるだけ食えと言ってくれる。
その気持ちが有り難くて、郭芳は滲みそうになる涙を堪えながらも温かい粥を平らげた。
「よし! よく完食できたじゃねえか。あとはこの薬を飲んでぐっすり眠りゃすぐに良くなるさ」
そう言って食器を下げ、寝かしつけて布団を掛けてくれる。
「どら、熱の方は――っと。まだ下がんねえか」
大きな掌を額には当てて熱を測ってくれながら瞳を細めてよこした。ゴツゴツとした――決して心地の好い感触とはいえない無骨な手だが、今の郭芳にとってはどんなにやわらかく滑らかな肌触りよりも温かく思えた。
「二、三日もすりゃあ熱も下がるって。てめえが情けねえなんてつまんねえこたぁ考えねえでいいから、今はゆっくり休めよ」
まるで子供をあやすように笑い掛けてくれる瞳がそこはかとなく優しげで、再び涙が滲みそうになる。
「じゃあな。また晩飯時になったら様子を見に来っから!」
何かあれば遠慮なく声を掛けろと言ってロンは部屋を後にして行った。
「ロンさん、申し訳ない……。早く治して――このご恩に報いられるようがんばります」
うとうと、再び襲ってきた睡魔に引き込まれながらそっと瞳を閉じる。
老板、姐さん、おっしゃる通りでした。本当に頼りになる方ですね、ロンさん――。私もがんばらなきゃ……。
『達者でな』と言ってくれた周の笑顔、『くれぐれも身体を大事にしてくださいね』と微笑んだ冰のあたたかい気持ち。そしてたった今、手厚い看病をしてくれたロンの頼もしい腕――それらひとつひとつを脳裏に思い浮かべながら、いつしか深い眠りに落ちていった郭芳だった。
鉱山での生活が始まった! - FIN -
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