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歪んだ恋情が誘う罠
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(クソ……ッ! この僕にだってあの人の恋人になれる資格はあったじゃないか……!)
想いは募り、次第に常軌を逸していったとて不思議ではなかったかも知れない。
鐘崎のような男前を虜にする人間とはいったいどんなやつなのだ――と、来る日も来る日もそれだけで頭がいっぱいだった。
顔立ちは?
体型は?
性質は?
様々想像しては気持ちが掻き乱される日が続いた。次第に仕事の方も疎かになり、上司から苦言を食らうことも増えていく――。もはや興味は鐘崎遼二という唯一人のこと以外考えられなくなり、悶々とする日々を繰り返す。
男の名は戸江田由宇、鐘崎遼二と年齢的にはほんのわずかに下だが同世代といえる。容姿とて鐘崎ほど飛び抜けてはいないものの、印象としては整っている方だろう。学生時代には女性たちからもそこそこモテたのは事実だ。ゆえに自身とてあの鐘崎と並んでも不似合いとは言えないという自信がある。戸江田の興味は鐘崎の伴侶にまっしぐらとなっていったのだった。
そんな戸江田にとって鐘崎の伴侶を目にする機会が巡ってきたのは、鐘崎がプライベートで指輪を求めに社を訪れた時のことだった。
あいにくその時のデザインを担当したのは宝飾店社長の右腕と言われたベテラン職人だったから、戸江田は商談の場に同席することは叶わなかったものの、鐘崎が伴侶と連れ立って挨拶に来たところを垣間見ることはできたのだった。その際の衝撃といったら、ひと言では言い表せないほどだった。その伴侶という男は想像を遥かに超える美形だった――というのもあったが、彼の側で照れたように幸せそうな表情でいる鐘崎の様子の方が衝撃だったのだ。
社長も右腕と呼ばれたベテラン職人も、皆古くから鐘崎組との付き合いがあり、男性同士で結婚したということにすら奇異の目で見るどころか世間一般の夫婦として心から祝福し、二人の仲を認めているというのがありありと分かるものだった。戸江田にとってもこの美しい伴侶が相手では到底敵わないというのは本能で感じてはいたものの、嫉妬が憎しみに変わるくらいに複雑な感情を叩きつけられたものだ。
おそらく鐘崎という男はその伴侶を裏切ることはない。例えばどんなに巧妙なハニートラップを仕掛けたとて、出来心での浮気など決してしないだろうとも思えたのだ。
完敗だった。
ハニートラップにせよ真心で攻めたにせよ、どうあっても鐘崎を手に入れることはできない。唯一つ可能性があるとすれば、鐘崎の意識を奪った状況でしかこの狂おしいほどの想いを遂げることは叶わない――そういう結論に達したのだ。
正直に言えば本当は鐘崎に抱いてもらいたい。
だがそれはどう足掻いても無理な相談だろう。意識のない彼が自分を抱くことなど不可能だからだ。ならばせめて、彼を見つめながら自慰によって抱かれた気分を味わえるだけでも構わない。添い寝をし、温もりに浸れればそれだけで満足だ。
それからというもの、戸江田は鐘崎と二人きりになれる機会をただひたすらに待つ日が続いた。どうにかして怪しまれずに、打ち合わせと称して会うことはできないかと、そればかりを考えるようになっていった。
そして今、ようやくとその機会が巡ってきたというわけだった。戸江田にとってこれを逃せば後は無い――まさに千載一遇のチャンスであった。
想いは募り、次第に常軌を逸していったとて不思議ではなかったかも知れない。
鐘崎のような男前を虜にする人間とはいったいどんなやつなのだ――と、来る日も来る日もそれだけで頭がいっぱいだった。
顔立ちは?
体型は?
性質は?
様々想像しては気持ちが掻き乱される日が続いた。次第に仕事の方も疎かになり、上司から苦言を食らうことも増えていく――。もはや興味は鐘崎遼二という唯一人のこと以外考えられなくなり、悶々とする日々を繰り返す。
男の名は戸江田由宇、鐘崎遼二と年齢的にはほんのわずかに下だが同世代といえる。容姿とて鐘崎ほど飛び抜けてはいないものの、印象としては整っている方だろう。学生時代には女性たちからもそこそこモテたのは事実だ。ゆえに自身とてあの鐘崎と並んでも不似合いとは言えないという自信がある。戸江田の興味は鐘崎の伴侶にまっしぐらとなっていったのだった。
そんな戸江田にとって鐘崎の伴侶を目にする機会が巡ってきたのは、鐘崎がプライベートで指輪を求めに社を訪れた時のことだった。
あいにくその時のデザインを担当したのは宝飾店社長の右腕と言われたベテラン職人だったから、戸江田は商談の場に同席することは叶わなかったものの、鐘崎が伴侶と連れ立って挨拶に来たところを垣間見ることはできたのだった。その際の衝撃といったら、ひと言では言い表せないほどだった。その伴侶という男は想像を遥かに超える美形だった――というのもあったが、彼の側で照れたように幸せそうな表情でいる鐘崎の様子の方が衝撃だったのだ。
社長も右腕と呼ばれたベテラン職人も、皆古くから鐘崎組との付き合いがあり、男性同士で結婚したということにすら奇異の目で見るどころか世間一般の夫婦として心から祝福し、二人の仲を認めているというのがありありと分かるものだった。戸江田にとってもこの美しい伴侶が相手では到底敵わないというのは本能で感じてはいたものの、嫉妬が憎しみに変わるくらいに複雑な感情を叩きつけられたものだ。
おそらく鐘崎という男はその伴侶を裏切ることはない。例えばどんなに巧妙なハニートラップを仕掛けたとて、出来心での浮気など決してしないだろうとも思えたのだ。
完敗だった。
ハニートラップにせよ真心で攻めたにせよ、どうあっても鐘崎を手に入れることはできない。唯一つ可能性があるとすれば、鐘崎の意識を奪った状況でしかこの狂おしいほどの想いを遂げることは叶わない――そういう結論に達したのだ。
正直に言えば本当は鐘崎に抱いてもらいたい。
だがそれはどう足掻いても無理な相談だろう。意識のない彼が自分を抱くことなど不可能だからだ。ならばせめて、彼を見つめながら自慰によって抱かれた気分を味わえるだけでも構わない。添い寝をし、温もりに浸れればそれだけで満足だ。
それからというもの、戸江田は鐘崎と二人きりになれる機会をただひたすらに待つ日が続いた。どうにかして怪しまれずに、打ち合わせと称して会うことはできないかと、そればかりを考えるようになっていった。
そして今、ようやくとその機会が巡ってきたというわけだった。戸江田にとってこれを逃せば後は無い――まさに千載一遇のチャンスであった。
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