4 / 69
歪んだ恋情が誘う罠
3
しおりを挟む
(クソ……ッ! この僕にだってあの人の恋人になれる資格はあったじゃないか……!)
想いは募り、次第に常軌を逸していったとて不思議ではなかったかも知れない。
鐘崎のような男前を虜にする人間とはいったいどんなやつなのだ――と、来る日も来る日もそれだけで頭がいっぱいだった。
顔立ちは?
体型は?
性質は?
様々想像しては気持ちが掻き乱される日が続いた。次第に仕事の方も疎かになり、上司から苦言を食らうことも増えていく――。もはや興味は鐘崎遼二という唯一人のこと以外考えられなくなり、悶々とする日々を繰り返す。
男の名は戸江田由宇、鐘崎遼二と年齢的にはほんのわずかに下だが同世代といえる。容姿とて鐘崎ほど飛び抜けてはいないものの、印象としては整っている方だろう。学生時代には女性たちからもそこそこモテたのは事実だ。ゆえに自身とてあの鐘崎と並んでも不似合いとは言えないという自信がある。戸江田の興味は鐘崎の伴侶にまっしぐらとなっていったのだった。
そんな戸江田にとって鐘崎の伴侶を目にする機会が巡ってきたのは、鐘崎がプライベートで指輪を求めに社を訪れた時のことだった。
あいにくその時のデザインを担当したのは宝飾店社長の右腕と言われたベテラン職人だったから、戸江田は商談の場に同席することは叶わなかったものの、鐘崎が伴侶と連れ立って挨拶に来たところを垣間見ることはできたのだった。その際の衝撃といったら、ひと言では言い表せないほどだった。その伴侶という男は想像を遥かに超える美形だった――というのもあったが、彼の側で照れたように幸せそうな表情でいる鐘崎の様子の方が衝撃だったのだ。
社長も右腕と呼ばれたベテラン職人も、皆古くから鐘崎組との付き合いがあり、男性同士で結婚したということにすら奇異の目で見るどころか世間一般の夫婦として心から祝福し、二人の仲を認めているというのがありありと分かるものだった。戸江田にとってもこの美しい伴侶が相手では到底敵わないというのは本能で感じてはいたものの、嫉妬が憎しみに変わるくらいに複雑な感情を叩きつけられたものだ。
おそらく鐘崎という男はその伴侶を裏切ることはない。例えばどんなに巧妙なハニートラップを仕掛けたとて、出来心での浮気など決してしないだろうとも思えたのだ。
完敗だった。
ハニートラップにせよ真心で攻めたにせよ、どうあっても鐘崎を手に入れることはできない。唯一つ可能性があるとすれば、鐘崎の意識を奪った状況でしかこの狂おしいほどの想いを遂げることは叶わない――そういう結論に達したのだ。
正直に言えば本当は鐘崎に抱いてもらいたい。
だがそれはどう足掻いても無理な相談だろう。意識のない彼が自分を抱くことなど不可能だからだ。ならばせめて、彼を見つめながら自慰によって抱かれた気分を味わえるだけでも構わない。添い寝をし、温もりに浸れればそれだけで満足だ。
それからというもの、戸江田は鐘崎と二人きりになれる機会をただひたすらに待つ日が続いた。どうにかして怪しまれずに、打ち合わせと称して会うことはできないかと、そればかりを考えるようになっていった。
そして今、ようやくとその機会が巡ってきたというわけだった。戸江田にとってこれを逃せば後は無い――まさに千載一遇のチャンスであった。
想いは募り、次第に常軌を逸していったとて不思議ではなかったかも知れない。
鐘崎のような男前を虜にする人間とはいったいどんなやつなのだ――と、来る日も来る日もそれだけで頭がいっぱいだった。
顔立ちは?
体型は?
性質は?
様々想像しては気持ちが掻き乱される日が続いた。次第に仕事の方も疎かになり、上司から苦言を食らうことも増えていく――。もはや興味は鐘崎遼二という唯一人のこと以外考えられなくなり、悶々とする日々を繰り返す。
男の名は戸江田由宇、鐘崎遼二と年齢的にはほんのわずかに下だが同世代といえる。容姿とて鐘崎ほど飛び抜けてはいないものの、印象としては整っている方だろう。学生時代には女性たちからもそこそこモテたのは事実だ。ゆえに自身とてあの鐘崎と並んでも不似合いとは言えないという自信がある。戸江田の興味は鐘崎の伴侶にまっしぐらとなっていったのだった。
そんな戸江田にとって鐘崎の伴侶を目にする機会が巡ってきたのは、鐘崎がプライベートで指輪を求めに社を訪れた時のことだった。
あいにくその時のデザインを担当したのは宝飾店社長の右腕と言われたベテラン職人だったから、戸江田は商談の場に同席することは叶わなかったものの、鐘崎が伴侶と連れ立って挨拶に来たところを垣間見ることはできたのだった。その際の衝撃といったら、ひと言では言い表せないほどだった。その伴侶という男は想像を遥かに超える美形だった――というのもあったが、彼の側で照れたように幸せそうな表情でいる鐘崎の様子の方が衝撃だったのだ。
社長も右腕と呼ばれたベテラン職人も、皆古くから鐘崎組との付き合いがあり、男性同士で結婚したということにすら奇異の目で見るどころか世間一般の夫婦として心から祝福し、二人の仲を認めているというのがありありと分かるものだった。戸江田にとってもこの美しい伴侶が相手では到底敵わないというのは本能で感じてはいたものの、嫉妬が憎しみに変わるくらいに複雑な感情を叩きつけられたものだ。
おそらく鐘崎という男はその伴侶を裏切ることはない。例えばどんなに巧妙なハニートラップを仕掛けたとて、出来心での浮気など決してしないだろうとも思えたのだ。
完敗だった。
ハニートラップにせよ真心で攻めたにせよ、どうあっても鐘崎を手に入れることはできない。唯一つ可能性があるとすれば、鐘崎の意識を奪った状況でしかこの狂おしいほどの想いを遂げることは叶わない――そういう結論に達したのだ。
正直に言えば本当は鐘崎に抱いてもらいたい。
だがそれはどう足掻いても無理な相談だろう。意識のない彼が自分を抱くことなど不可能だからだ。ならばせめて、彼を見つめながら自慰によって抱かれた気分を味わえるだけでも構わない。添い寝をし、温もりに浸れればそれだけで満足だ。
それからというもの、戸江田は鐘崎と二人きりになれる機会をただひたすらに待つ日が続いた。どうにかして怪しまれずに、打ち合わせと称して会うことはできないかと、そればかりを考えるようになっていった。
そして今、ようやくとその機会が巡ってきたというわけだった。戸江田にとってこれを逃せば後は無い――まさに千載一遇のチャンスであった。
21
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
神父様に捧げるセレナーデ
石月煤子
BL
「ところで、そろそろ厳重に閉じられたその足を開いてくれるか」
「足を開くのですか?」
「股開かないと始められないだろうが」
「そ、そうですね、その通りです」
「魔物狩りの報酬はお前自身、そうだろう?」
「…………」
■俺様最強旅人×健気美人♂神父■
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる