極道恋事情 another one

マフィアの花嫁

26

「クソッ……！　おい、タイマーは何分にセットさせやがった!?」
「このままではまずい！　若わかに連絡を……」
　劉リゥと源次郎げんじろうがそう叫んだ時だった。鐘崎かねさきと紫月しづきが姿を現したのが見えて、誰もが画面に釘付けになる。庚兆ゲン ヅァオは驚きつつも、更に勝ち誇った形相で瞳を輝かせていた。
「ヒュー！　さすがは鐘崎遼二かねさき りょうじだな。ちゃーんとタイミングよく正義の騎士として現れやがったじゃねえか。ってことは――ウチの連中は既に鐘崎かねさきの手に堕ちたってことか」
　やるねえ――と、余裕の笑みを浮かべている。自分の仲間が制圧されたかも知れないというのに、この余裕の態度には眉をしかめさせられる。それどころか『やるねえ』と、鐘崎かねさきを讃えるとは到底信じられない思考回路だ。
「お前さん、自分のお仲間がどうなったか気にならんのですかな？」
　源次郎げんじろうが問えども庚兆ゲン ヅァオはそんなことはどうでもいいと言って笑った。
「問題はここからだ。いかに鐘崎かねさきでも救出は諦めるしかねえだろうよ」
「どういう意味だッ！」
　劉リゥが怒鳴り上げる。
「まあそうがならりたてたところで始まらねえ。とにかく見てなって！」
　まるでワクワクといった調子で画面を見つめながら庚兆ゲン ヅァオは狂気のような笑顔を見せた。
「タイマーはセットした時点で十分にしろと伝えてある。残り時間はー、もうあと五分ってところかな」

「何だとッ!?」

「鐘崎かねさきがどれほど優れた戦士だろうが、この状況で救い出すのはほぼ無理だろうよ！　ヤツだって自分の身は可愛いだろうからな。いかに親友の連れ合いと言えども、てめえの命を犠牲にするほどの能無しでもねえだろう。どこまで粘るか見ものだなぁ」
　あははははと気が違ったような高笑いが地下室に響き渡る。

（若わか……、姐あねさん……ッ）

　源次郎げんじろうにしても劉リゥにしてもただ見守るしかできないでいることがもどかしい。爆破までの数分がとてつもなく長く、同時に短くも感じられた。
　庚兆ゲン ヅァオは既に勝ったつもりでいるのだろう、これであの周焔ジォウ イェンも少しは俺の気持ちが分かるだろうなどとほざきながら、檻の中で気が触れたように転げ回っては高笑いを繰り返している。既に頭がおかしくなっているとしか思えなかった。



◆　　　　◆　　　　◆



　周が汐留の地下室に到着したのはそれから一時間になろうかという頃だった。大雨の中での救出劇で、戻って来た面々は周を含めて全員がびしょ濡れ状態だ。
「老板ラァオバン！　お疲れ様です！」
　劉リゥがひとまず安堵の表情で迎えたが、その場に待っていた源次郎げんじろうや橘たちばなら鐘崎かねさき組の組員たちはどういうわけか皆呆然とした様子で静まり返っていた。それというのも納得である。なんと、檻の中で庚兆ゲン ヅァオが自害していたからである。