極道恋事情 another one

一園木蓮

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マフィアの花嫁

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ひょう君、ちょっと行きてえ店があるんだ。付き合ってー」
「ええ、もちろんです! お目当ては何ですか?」
「うん。便箋と封筒! もうすぐお歳暮の時期だべ? 有り難えことにうちの組にも贈ってくださる方々がいらっしゃるんでな。そのお礼状用の便箋を調達しとこうと思って」
「あ、なるほど! じゃあ四丁目の交差点のところにあるお店ですね。そういえば俺も少し補充しておかなきゃ」
「あ、やっぱひょう君が書くんか?」
「ええ。社でいただく分はリーさんとリゥさんがしてくださるんですが、周の個人的なお付き合いでいただくものは僭越ながら俺が」
 二人が話しているのはお歳暮のお礼の書状のことだ。便箋と封筒の他にも封緘シール、それに年始用にお年玉袋も必要だ。古くからのクライアントに小さい子供がいる場合、松の内に顔を合わせる打ち合わせが予定されていれば心ばかりの挨拶として渡すからだ。秋も深くなった今の時期ならそういった年始用の品物も豊富に揃っているはずである。
「そうだ、紫月しづきさん。ついでに切手も必要じゃありませんか?」
「おー、そだな! じゃあちょっくら足伸ばして散歩がてら中央郵便局まで行ってみっか。あそこなら日曜でも開いてるべ! どうせ採寸にも時間掛かるだろうし」
「そうですね! たまには歩かないと」
 便箋はまとめ買いする予定だから案外重いし荷物になるだろう。だったら先に郵便局へ向かいたいと言う。どうせ買ったものを持つのは周と鐘崎かねさきだ。重かろうが紫月しづきひょうに差し障りはないのだが、亭主に少しでも負担を掛けまいとするその気持ちが更に愛しさを募らせる。
「それにしても便箋に切手とは……」
「もっと自分たちで使える服とか靴とかで欲しい物は無えのか?」
 周らにしてみれば拍子抜けといったところである。だが、紫月しづきひょうには時期的に一番必要な物なのだそうだ。
「だって、ほら! 銀座でゆっくり買い物なんて、いつでも来れるようでいて案外そうでもねえべ? この機会にゆっくり選ぶのもいいと思ってさ」
「ですよね!」
 まあ、周の邸からは目と鼻の先だし、打ち合わせなどでもしょちゅう出掛けて来られる距離ではあるが、鐘崎かねさき組からは車でも電車でも三十分ほどはかかる。それこそ仕事の用事でも無いと立ち寄るわけでもないし、特に紫月しづきとしては殆どが組で留守番だからこういった機会にと思うのは納得だ。
「今年から切手の料金も変わったことだしな。新しい種類も出てるべ」
「そうですよね」
 お礼状に貼る切手も季節に合わせた趣きのある記念切手で送る。些細なことかも知れないが、手紙をもらった相手からしてみれば便箋ひとつ、切手ひとつにも心遣いを感じてくれるのだという。お中元お歳暮の時期は周家にも鐘崎組にもそれこそすごい数が来るわけで、お礼状の枚数も相当なものになるのだ。ひとつひとつ直筆で綴るから、時期になると丸一日お礼状を書いて終わることも多い。これも極道マフィアの嫁としての大事な務めのひとつなのだ。
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