二人っきりになると、本当の二人になる

宮原翔太

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第1話 告白

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 高校一年のバレンタイン。
 俺はいつも通り、放課後の誰もいない教室で本を読んでいる。
 本を読むのになぜ図書館じゃなくて、教室で本を読んでいるのかと言うと、放課後の図書館は人がいてあんまり足が進まない。対して放課後の教室は、部活やすでに下校した人で教室の中は空っぽ。だから、集中して本を読むには丁度いい。校庭で部活をしている声や音がいい感じのBGMになっているし。
 放課後の教室で本を読むこと1時間半。時間は5時40分になっていた。そろそろ帰らないと、帰りが遅くなってしまう。
 リュックに本を入れて、リュックを背負って生徒玄関に向かって歩く。
 そういえば、今日ってバレンタインだっけ。いつもと同じ生活をしていたから、てっきり今日がバレンタインだってことは上の空だった。結局、今年も貰えなかったな。まぁ、あんまり期待はいてなかったけど。
 生徒玄関に着くと、玄関の外で一人の髪の長い女性が柱に寄っかかっている。あれはC組の槇田まきた美咲みさきさんだっけ? きっと誰か待っているのだろう。
 俺には関係ないから、スニーカーに履き替えて槇田さんの横を通過すると・・・・。

「登之内君」

 後ろから俺の苗字を呼ぶ声がした。

「俺ですか?」

「ここにいる登之内は君しかいないと思うけど」

 まぁ、確かにその通りだけど。まさか今までなんの関わりも無かった、女性に声をかけられるとは思わなかったから。

「そ、そうですね。で、何か用ですか?」

「えっと・・・・、はい!」

 槇田さんが持っていた紙袋を俺に渡してきた。

「これは?」

「チョ、チョコ」

 紙袋を渡してきた時と違って、蚊が囁くような声でそう言ってきた。
 ⁉ チョコ⁉ 俺に? どう意図で俺に渡されるのか分からないけど、今年も貰わずにいつも通りの生活だと思っていたから驚いている。

「えっと、俺に?」

「う、うん」

 顔を赤くして少しうなずきながらそう言った。

「えっと、あ、ありがとう」

 こういう時ってどうしたらいいんだ? なにせ女性に何かを貰った事が無いから、どうしたらいいのかわからない。とりあえず、振り返って帰った方がいいのか、それとも何か
言って帰った方がいいのか。

「じゃ、じゃあ」

 そう言って振り返って家に帰ることにした。すると。

「ま、待って」

 俺の制服を槇田さんの小さな手で掴んで、呼び止めてきた。

「・・・・、中を開けてください」

 中? 紙袋に入っている箱の事か?
 槇田さんから貰った紙袋の中から、おそらくチョコが入っているであろう箱を取り出して、箱を開ける。すると、中には手作りのチョコレートが入っていて、その中の一つに「私と付き合ってください」と書かれたチョコレートが入っている。
 え⁉ これって! 告白⁉
 今まで誰からも告白を受けたことが無くって、今、頭が混乱している。

「わ、私と付き合ってください」

「俺でいいんですか?」

「私、本を読むのが好きで図書館で本を読んでいたのですが、忘れ物をして教室に忘れ物を取りに戻っていたら、A組で一人で本を読んでいる登之内君が居て『この学年に、私以外に本が好きな人がいるんだ』って少し嬉しくなって、それから毎日A組で本を読んでいる登之内君を見に行くようになって、気付いたら好きになっていました」

 槇田さんも本が好きなんだ。なんだか少し嬉しい。本が好きな人から声を掛けられて、なおかつ告白されるとは思わなかった。

「そうだったんですね。でも、俺なんかでいいんですか?」

「はい」

「こんな俺なんかでよければ、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 そう言いながら、目に涙を浮かべてお辞儀した。
 なんだか自分が予測していなかった展開になった。今年もいつの通りの生活になると思っていたのに、チョコを貰って尚且つ告白までされるとは思わなかった。

「あの、一個お願いがあります。登之内君、いや、幸谷君。私たちが付き合っている事は内緒にしていて欲しいです」

「俺もそうしようと思っていたので賛成です」

「ありがとうございます。それと、敬語やめませんか? 私たち付き合っているのに敬語は、付き合っている感覚が無くならないように」

「分かりました。あ! わ、分かった」

 なんか恥ずかしいな。今日初めて会ったのに、生きなりタメ口で話さないとだから。

「ふふ。一緒に帰ろ! 幸谷!」

「いいよ。槇田さん」

「あ! 名前は下の名前で呼んで」

「美咲さん?」

「さんを付けちゃ駄目」

「み、美咲?」

「うん。よくできました」

 なんだか恥ずかしいな。初めて会った人を名前で、しかも呼び捨てでなんて。でも、嬉しいな。好きなものが同じ彼女が出来て。

「幸谷はこれから帰る?」

「そろそろ帰らないと、遅くなっちゃうし」

「そっか。じゃぁ、私も帰ろうかな。一緒に帰ろ⁉」

「いいよ」

 俺と美咲は一緒に帰ることにした。
 そういえば、美咲の家ってどこにあるんだ?
 俺の家は、学校からバスを乗ってちょっとした団地にある。
 家から学校まで歩くと約1時間かかる。でも、バスを使うと30分程度で登下校が可能だ。だから基本バスを使って帰っている。バスの方が楽だし、帰りに本を読んで帰れるから。

「幸谷はどうやって登下校しているの?」

「えっと、俺はバスで登下校してる」

「そうなんだ。私もバスで帰っているから、一緒だね」

「一緒か、そうだね。バスはどれに乗っているの?」

「私は北に行くバスだよ。光一は?」

「あ! 俺も北に行くバス」

「ホント! じゃぁ、明日から一緒に帰っていい?」

「え、俺はいいけど」

「ありがとう。嬉しいな」

 美咲は本当に俺の事が好きなんだな。美咲には申し訳ないけど、今は同じ趣味を持った女友達が出来た感覚でいる。こんなこと言ったら美咲に怒られるだろうな。


 学校から歩いて、最寄りのバス停に着くとちょうど北方面に行くバスが来た。ナイスタイミング!
 バス停で止まったバスに美咲から乗った。このバスは整理券とICカードで乗るタイプで、俺と美咲はICカードだから、乗車口にある整理券発行機に設置してあるICカード専用のパネルにICカードをタップして乗る。こうすれば、降りるときに降車口にあるパネルに同じICカードをタップすれば、自動的にお金が引かれて降りることが出来る。

「あそこに座ろ」

 美咲がバスに後ろの方にある二人席を指さした

「いいよ」

 美咲が指した席に美咲から座ると思いきや、美咲が先に座ってと言ってきたから、俺は窓際に座った。そして、美咲が俺の隣に座った。
 俺は、教室で読み途中だった本を出して本を読もうとすると、

「幸谷、LINEと電話番号交換しない?」

「え、いいよ」

「ありがとう」

 美咲とLINEと交換して電話番号を交換して、俺の数少ないLINEのリストに「misaki」と書かれた名前が登録された。交換した直後に「よろしく♡」とメッセージが届いた。メッセージに既読を付けて「よろしく」と返信した。
 俺とLINEと電話番号を交換して満足した美咲は、俺と一緒にバスに揺られながら本を読む。


 バスに揺られること20分で俺の家の最寄りのバス停に着く前に本を閉じて降りる支度をする。

「幸谷もここなの?」

 幸谷? てことは、美咲もこのバス停なのか?

「美咲も?」

「うん」

 そうだったか。以外と家が近かったもか。驚きだ。

「よく、今まで会わなかったね」

「そうだね。時間がバラバラだったからかも」

 俺は学校に登校するときはギリギリに行って、この時間に帰るから会わなかったのかも。

「そっか。じゃぁ、登校はバラバラで下校は一緒に帰るようにしようね」

「分かった」

 バスがバス停で止まって、俺たちはバスから降りた。
 バス停から二人が今まで読んだ本の中で面白かった本の話をしながら歩いていると、俺の家に着いた。

「俺ここだから」

「そっか。じゃぁ、またね。さっきの続きはLINEか電話で話そうね」

「分かった」

「またね」

 そう言い残して心優は自分の家の方に歩いて行く。すると、

「そうだ。幸谷はまだ、私の事は全然好きじゃないかもしれないけど、そのうちに好きにしてあげるから。幸谷は、私の彼氏だから。あと、あげたチョコの味の感想を聞かせてね」

 それだけ言って、美咲は歩いて行った。そのうちに好きにしてあげるから」か、俺の今の感情が変わるのかな。
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