やくも すべては霧につつまれて

マキナ

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前日

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薄暗い部屋の中。
壁や床にはたくさんの本やら機械やらが散乱していた。

かすかに聞こえる機械の駆動音とともにときおり電子計算機の鍵盤をたたく音がこだまする。

男は部屋の片隅に座り、ぼんやりと明るい画面を凝視していた。

そしてときおり何かを入力する。

そんな男の顔は不安とも期待ともとれぬ複雑な表情をしていた。
ふと気づくと部屋の外から誰かの足音が聞こえる。

男は振り返り木製の古びた扉のほうを見つめた。

すると扉はゆっくりと音を立てて開き、そこには少女が立っていた。

そでのふちに装飾があしらわれた少女の服は絹のように薄く、そしてその黒い色は彼女の雪のように白い肌を際立たせていた。

 「お父様」

 少女は部屋の奥にいた男に向かって眠そうな目をこすりながらつぶやいた。それを聞いて男は少女に歩み寄っていく。

 「どうした?眠れないのか?」
 「…うん」

 少女はゆっくりとうなずき、そうつぶやいた。そしてあくびをする。

 「楽しみで眠れないのはわかるけど、とりあえず布団に入って目を閉じたらどうかな?明日は朝早いからな」
 そういいながら男は少女の頭をなでた。すると少女は男の腰元にだきついてうとうとし始めた。

 「ほら、早く布団に戻るぞ」

 男は少女の手を引き、彼女を寝室まで連れて行く。

 廊下は白い石畳のような床が敷かれており、とところどころに扉が設けられている。

 そして各所に設置された常夜灯が二人をうっすらと照らす。

 男はそんな廊下を少女の歩幅に合わせながらゆっくりと進んでいく。

 そうしているとふと少女がつぶやいた。

 「明日は…どんなことができるのかな?」

 「…今まで見たことも聞いたこともないようなものに出会えるだろうね」

 男はしばらく少女の顔を見つめた後そう答えた。

 「ほら、とにかく今日はおやすみ。明日は楽しいことでいっぱいで眠れなくなるかもしれないから」
 「…うん」

 まもなく二人は少女の寝室の前までやってきた。
 少女の寝室には不釣り合いなほど大きな赤い扉を男は開き、部屋の中に入る彼女を見送った。

 「おやすみ」
 「…おやすみなさい、お父様」

 少女は振り返りそうつぶやいた後、ゆっくりと扉を閉めた。
誰もいない廊下には扉が閉まる音だけが鳴り響いた。
男はしばらく扉を見つめていたが、やがて先ほどまでいた部屋に戻ろうと歩き出す。男にはまだもう少しだけやるべきことが残っている。

しかし彼の脳裏には眠そうながらも喜びの見え隠れする少女の顔がいつまでも焼き付いていた。
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