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赤い霧伝説
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ここまでの話に食い入るように聞いていた一同。夢物語のような、空想のような、現実感のない話であった。突如として現れ、地球を戦火の渦に巻き込み突如として消えていった。
皆の頭の中にはヴァンパイアに対する疑問がますます浮かんでくる。
「その後、侵攻開始から三年もたつと地上でヴァンパイアを見ることはなくなりました。残されたのは膨大な量の残骸。戦火の中で多くのものが失われ、依然と比べ人口も大幅に減ってしまいました。…しかし、人類にとって幸いなことが一つだけありました。それは…」
大画面に新たな画像が映し出される。それはヴァンパイア軍が使用していたとみられる戦車の残骸だった。
「ヴァンパイアは当時の人類には到底作り出せなかったような高度な機械を大量に残していったのです。発動機、電動機、電子計算機、その他さまざまな科学における知識と技術が置き去りにされていました。ヴァンパイアの攻撃によって地球のごく一部に押し込められていた人類が、再び地上の支配に乗り出した時に発見されたそれら。当時の人類には理解不能のものばかりではありましたが、復興が進むにつれて徐々に我々の科学技術がヴァンパイアに追いついていったのです。そしてかつては神々の技とされて畏敬の対象ともされた技術を我々のものにしていきました」
宮内がそこまでいうと、画面が切り替わる。するとそこに映されたのは誰もが見たことのある、歴史的瞬間だった。
「ヴァンパイアの地球侵攻から約三百五十年、人類はついに宇宙に人工物を送り出すことが出来るようになりました。この映像は人類初の人工衛星、『スラージ』が打ち上げられる様子です」
地上にそびえたつ噴射推進器。その下部から煙があふれ出たかと思うと、ゆっくりと空へ向かって動き出す。橙色に燃え盛る炎を上げて、液体燃料を燃やしながら空高く上る噴射推進器。かつては眺めることしかできなかった夜空に人類の手が届いた瞬間であった。
「その後も人類は宇宙への挑戦を続け、有人宇宙飛行、月面着陸、月や火星への入植を行っていきました。これらはもちろん、当時の人々の多大なる努力によって成し遂げられましたが、その根底にあったのはヴァンパイアの高度な技術力だったのです」
人類の科学文明の根底にあったヴァンパイアの文明。
地球を未曽有の混沌に陥れた元凶が巡り巡って人類の発展を促したという話。
そのすべてが信じがたいものであったが、このように将校を一堂に集めたうえで参謀がくだらない冗談をしゃべっているようには誰も思えなかった。するとまたしても将校の一人が挙手をする。
「地球連邦成立は、未曽有の災害や人類どうしの大戦によって生まれたというのはうそなんですか?」
「…そうです、表向きにはそういうことになっていますが、実際にはヴァンパイアとの戦いをふまえたものです。まあ実際に当時はかなり災害が頻発していたという記録もありますが、それは直接的な原因ではありません」
「ならなんで事実を伝えずにわざわざ『赤い霧伝説』とやらにぼかす必要があったんですか?」
神崎が続けて質問する。
「単刀直入に言うと、当時の世間を混乱させないようにするためです。ヴァンパイアが宇宙人であることはかなり早い段階から気づいていました。しかし明確にそれを裏付けるための技術が人類側に不足していたことと、この地球の外に人類よりもはるかに進んだ科学文明があるということは民衆の混乱を招くと考えられ、公の場での発表は控えられたのです。幸いというのもおかしな話ですが、当時ヴァンパイアと戦うために前線で戦い、ヴァンパイアの近代兵器を間近で見た人間の多くは戦死したため、ヴァンパイアの直接的な目撃者はかなり限られたのです。そのため、生き残った人類にはこの災禍が、地球規模の未曽有の災害と直後の人類どうしの戦争であるという認識を植え付けたのです。これが正しい判断だったのか、いまだに私は分かりません」
ようやく自分たちの知る『赤い霧伝説』との差異を埋め合わせることが出来た一同。納得しつつもいまだに頭が混乱する。
「一般的に語られる『赤い霧伝説』ではもちろん、ヴァンパイアが戦車や戦闘機を使う場面なんてありませんよね。突如現れたヴァンパイアが人間を襲うけど、最後は人間の英雄が弱点を見つけて成敗する、よくある昔話の一話に収まっています。その後も『赤い霧伝説』はほんとだったという都市伝説がささやかれていましたが、単なる作り話に過ぎないといわれてきました」
「…では、ヴァンパイアというのは今どこにいるのですか?人類がヴァンパイアと接触するというのであれば、今もどこかにヴァンパイアがいるということですよね?」
これまで静かに宮内の話を聞いてきた一人が、皆が気になっていた質問をした。確かに今ヴァンパイアの話をしているのも、『地球連邦政府がヴァンパイアと接触する』という話があったからに他ならない。ヴァンパイアが存在しなければそもそも議題に上がることすらない。ではヴァンパイアはどこにいるのか。
「ヴァンパイアがどこにいるのか、それは皆さんもよくご存じの場所です」
そういうと、宮内は機械を操作し画面に新たな画像を表示する。それは誰しもが一度は見たことのある映像だった。一面が白く覆われた氷の世界。何十米もの氷塊の絶壁が聳え立つ世界。
「…南、極?」
誰かがそうつぶやいた。その一言に皆の認識が一つとなる。
「そう、ヴァンパイアは現在南極の地下に拠点をおいて活動しているとされています。判明している限りの情報ですと、ヴァンパイアの侵攻開始から一年がたつ頃にはその多くが地球由来の病気で死亡してしまったようです。そして生き残った少数のヴァンパイアは当時まだ人類が到達していなかった南極の、それも厚い氷に覆われた大地の地下深くに逃げ延びたとされています」
皆の頭の中にはヴァンパイアに対する疑問がますます浮かんでくる。
「その後、侵攻開始から三年もたつと地上でヴァンパイアを見ることはなくなりました。残されたのは膨大な量の残骸。戦火の中で多くのものが失われ、依然と比べ人口も大幅に減ってしまいました。…しかし、人類にとって幸いなことが一つだけありました。それは…」
大画面に新たな画像が映し出される。それはヴァンパイア軍が使用していたとみられる戦車の残骸だった。
「ヴァンパイアは当時の人類には到底作り出せなかったような高度な機械を大量に残していったのです。発動機、電動機、電子計算機、その他さまざまな科学における知識と技術が置き去りにされていました。ヴァンパイアの攻撃によって地球のごく一部に押し込められていた人類が、再び地上の支配に乗り出した時に発見されたそれら。当時の人類には理解不能のものばかりではありましたが、復興が進むにつれて徐々に我々の科学技術がヴァンパイアに追いついていったのです。そしてかつては神々の技とされて畏敬の対象ともされた技術を我々のものにしていきました」
宮内がそこまでいうと、画面が切り替わる。するとそこに映されたのは誰もが見たことのある、歴史的瞬間だった。
「ヴァンパイアの地球侵攻から約三百五十年、人類はついに宇宙に人工物を送り出すことが出来るようになりました。この映像は人類初の人工衛星、『スラージ』が打ち上げられる様子です」
地上にそびえたつ噴射推進器。その下部から煙があふれ出たかと思うと、ゆっくりと空へ向かって動き出す。橙色に燃え盛る炎を上げて、液体燃料を燃やしながら空高く上る噴射推進器。かつては眺めることしかできなかった夜空に人類の手が届いた瞬間であった。
「その後も人類は宇宙への挑戦を続け、有人宇宙飛行、月面着陸、月や火星への入植を行っていきました。これらはもちろん、当時の人々の多大なる努力によって成し遂げられましたが、その根底にあったのはヴァンパイアの高度な技術力だったのです」
人類の科学文明の根底にあったヴァンパイアの文明。
地球を未曽有の混沌に陥れた元凶が巡り巡って人類の発展を促したという話。
そのすべてが信じがたいものであったが、このように将校を一堂に集めたうえで参謀がくだらない冗談をしゃべっているようには誰も思えなかった。するとまたしても将校の一人が挙手をする。
「地球連邦成立は、未曽有の災害や人類どうしの大戦によって生まれたというのはうそなんですか?」
「…そうです、表向きにはそういうことになっていますが、実際にはヴァンパイアとの戦いをふまえたものです。まあ実際に当時はかなり災害が頻発していたという記録もありますが、それは直接的な原因ではありません」
「ならなんで事実を伝えずにわざわざ『赤い霧伝説』とやらにぼかす必要があったんですか?」
神崎が続けて質問する。
「単刀直入に言うと、当時の世間を混乱させないようにするためです。ヴァンパイアが宇宙人であることはかなり早い段階から気づいていました。しかし明確にそれを裏付けるための技術が人類側に不足していたことと、この地球の外に人類よりもはるかに進んだ科学文明があるということは民衆の混乱を招くと考えられ、公の場での発表は控えられたのです。幸いというのもおかしな話ですが、当時ヴァンパイアと戦うために前線で戦い、ヴァンパイアの近代兵器を間近で見た人間の多くは戦死したため、ヴァンパイアの直接的な目撃者はかなり限られたのです。そのため、生き残った人類にはこの災禍が、地球規模の未曽有の災害と直後の人類どうしの戦争であるという認識を植え付けたのです。これが正しい判断だったのか、いまだに私は分かりません」
ようやく自分たちの知る『赤い霧伝説』との差異を埋め合わせることが出来た一同。納得しつつもいまだに頭が混乱する。
「一般的に語られる『赤い霧伝説』ではもちろん、ヴァンパイアが戦車や戦闘機を使う場面なんてありませんよね。突如現れたヴァンパイアが人間を襲うけど、最後は人間の英雄が弱点を見つけて成敗する、よくある昔話の一話に収まっています。その後も『赤い霧伝説』はほんとだったという都市伝説がささやかれていましたが、単なる作り話に過ぎないといわれてきました」
「…では、ヴァンパイアというのは今どこにいるのですか?人類がヴァンパイアと接触するというのであれば、今もどこかにヴァンパイアがいるということですよね?」
これまで静かに宮内の話を聞いてきた一人が、皆が気になっていた質問をした。確かに今ヴァンパイアの話をしているのも、『地球連邦政府がヴァンパイアと接触する』という話があったからに他ならない。ヴァンパイアが存在しなければそもそも議題に上がることすらない。ではヴァンパイアはどこにいるのか。
「ヴァンパイアがどこにいるのか、それは皆さんもよくご存じの場所です」
そういうと、宮内は機械を操作し画面に新たな画像を表示する。それは誰しもが一度は見たことのある映像だった。一面が白く覆われた氷の世界。何十米もの氷塊の絶壁が聳え立つ世界。
「…南、極?」
誰かがそうつぶやいた。その一言に皆の認識が一つとなる。
「そう、ヴァンパイアは現在南極の地下に拠点をおいて活動しているとされています。判明している限りの情報ですと、ヴァンパイアの侵攻開始から一年がたつ頃にはその多くが地球由来の病気で死亡してしまったようです。そして生き残った少数のヴァンパイアは当時まだ人類が到達していなかった南極の、それも厚い氷に覆われた大地の地下深くに逃げ延びたとされています」
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