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2章 粛清と祭
第32話 命懸けの狂想曲
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『なるほど、そこでキミは、逆エビ固めをキメたわけだな』
「キメてないですよ、なんで僕がプロレス技を習得している前提で話してるんですか」
ケルビンはいつでも同じ調子なので呆れるどころか逆に感心してしまう。
ちゆちゃんと僕は、寮に戻り、クレープを冷蔵庫にしまうと、夕食の準備を進めていた。
手伝おうとしていたら、邪魔だからとちゆに追い払われてしまった。
狭いキッチンとはいえ、配置はちゆちゃん仕様になっていて、動かすと怒られる。
仕方ないので、とりあえずケルビンに今日の成果というか戦果を報告しとこうと、デーモンハンター業務用の携帯を手に取った。
『だが、馬乗りなら、腕を狙うより顎を持ち上げた方が有効だろう。その場合は、えーっと、ウサギじゃない、ロバ、でもないな、らく、らく、……』
「キャメルクラッチですか?」
『それだ!ラクダ固め』
「だから、僕は別に技を掛けたいと思って馬乗りになったわけではないです」
『そうか、たしかに、咄嗟に技を繰り出せるほどの余裕は今のキミにはないか』
「今後はできるようになるとでも言いたげですね。それはないです、あんないたいけな女の子相手に、怪我したらどうするんですか」
『いたいけ?キミの同級生だろう、月富ラナくんは』
「でも小柄で力も弱い少女であることには変わりないですから」
それに、手の平もむにっとして柔らかいし。……スベスベで温かいし。
『だがサキュバスだ』
「……それは……そうですが」
『きみはすでに、成体サキュバスの異常な腕力を体験している。強烈な印象が残っているはずだ、まさか忘れてはいないだろう?』
アカリのことを言っているのだろうが、ラナは羽化していない。なら、今はまだただの少女だ。
今後は彼女が脅威になるのかも知れないが、少なくともキャメルクラッチをキメていい相手ではない。
てか、やり方知らないし。
「今のラナは無害だと思います」
『今はというのは正解だ。なら、これから彼女に対して何が有効になるか、それは分かるね?』
「……まさか、そんなこと」
『そうだ、彼女のサキュバス化を止める事ができるのも、キミだけだ』
「むりむりむりです!むりですよ、ラナとその、あの、アレですよね」
『できないと思う根拠は?』
「ラナが好きな相手はきらり、それはもう動かぬ事実なんです。だって、ラナは寝る前に電話でその、こう、……自分で慰めてるんですよ」
『むしろチャンスではないか?彼女は人一倍性欲が強く、感度も高い。つまり、絶頂に達するまでも時間が掛からないというわけだ』
「今の対象はきらりじゃ無かったんですか」
『もちろんそうだとも』
「なら、1人に集中するべきでは?」
『何を言っているんだ。キミは同時に2人以上の子を好きになったことはないのか?』
「何言ってるんですか、僕はちゆもゆかも同じくらい好きです」
『突然そんな告白をされても困る、本人に言ってあげなさい』
「……そういうことじゃなくてですね」
『月富ラナに悪魔測定器は使っていないね?』
「はい、そんなこと思いつきませんでした」
『彼女は3指標がオールイエローだ』
「……てことは、放置で大丈夫ってことですね」
『いや、今がチャンスだ』
「なんで!?」
『グリーンが無いということは、サキュバス化が進んでいるという事と同時に、それだけ性への探究心が旺盛になっている状態とも言える。なら、今のうちに仕留めておいて損はない』
「きらりが最優先なのでは?」
『何を言っている。2指標がレッドの西園寺きらりは、本来なら対象外なのだぞ?最優先なのではなく、対処したいなら対処しても良い程度だ』
「なんでそんな混乱するようなこと言うんです」
『私の言っていることは至ってシンプルだろう?』
「どういうことですか」
『2人同時に落とせと言っているんだ』
「無茶なことを!?」
『手段はある。キミはそれを実行すれば良いだけだ』
「どんな手段なんですか?」
『遠隔3Pを行う』
「……なんですか、それ」
『クックック、この作戦はなかなかトリッキーだぞ、詳細は後ほどまとめて送ろう。楽しみにしておきたまえ』
ケルビンが楽しそうだ。なんだかロクでもない作戦な気がしてきたが、ケルビンが言うんだから多分過去に成功した例があるんだろうとは思う。
「一応、引き続き、きらりが対象ってのは変わらないんですよね」
『そうだとも。なんだい?対象が変わる可能性を危惧しているのかい?キミは西園寺きらりがよっぽど好きなんだなぁ』
「ちょ……、なんてこと言うんですか、そんなことひと言も言ってないですよ」
『しかし、キミの言い方から、彼女のことを追いたいように感じたぞ。それは対象に好意が無ければ決して出ない反応だ』
「今、どっちかというと、確認の意味で言ったつもりだったんですが」
『そうか?私の感想で言わせて貰うと、キミの論理は、キミの都合に合わせて調整されているように思う。通常の思考なら、月富ラナと西園寺きらりの関係に押し入って、サキュバス化を止めようとするのは、面倒に思うはずだ。本来、人というのは、義務に関しては楽な方に流したいと思うものだからね』
「面倒って……、ラナと約束もしましたし、好きというより、執着とかだと思うんですけど」
『ふむ、言いたい事は分かる。実に理にかなっている。しかし、西園寺きらりに好意がなくては、その理屈でキミが動く事はないだろうね』
「随分と決めつけますね」
『ご不満かな?』
「……少し」
『おそらくキミは、罪悪感で受け入れられないのだろうが、人を好きになる事は悪いことではないし、それが複数人に至ることも自然なことだ。キミは誰かに誠意を見せたいと思っているのだろう。誰にかどうかは分からないが、その答えはキミ自身が持っているはずだ。そして、何をすべきで、何をしたいかも。どうだい?私は間違ったことを言っているかい?』
「……いえ、間違っていません」
『なら、キミがその罪悪感を払拭するには、自分に正直になる他ないだろう。キミ自身が、西園寺きらりを好きであることが認められないのであれば、西園寺きらりにとっても不幸なことだ。助けを求めていない相手を善意で無理矢理助けても、喜ばれることは少ないからね。子ども扱いされて嬉しい人はそう多くはない。それは分かるだろう』
「はい。分かります。僕が間違っていました。……僕は、きらりの事が好きです」
『よし、ならば、キミに彼女のことは任せよう。頑張ってサキュバス化を止めてあげたまえ』
「分かりました」
やはり、ケルビンは僕の気持ちを全て見抜いている。
結局は、僕がためらうのは、きらりを好きでいる事への罪悪感だ。
だが、ちゆやゆかに対して気持ちが変わったわけではない。
僕のすべき事、それは……。
『……で、また別件だが』
「はい!何でしょうか」
『今日、キミは夢の中で隅影 真凛と対面する予定になっているが、注意事項の確認だ』
そうだ。僕は昨日、上級夢魔のちゆに生気を吸い取られた。
今晩は、その対策も必要だ。
正直なところ、夢の中なので実感が持てない面もあり、気持ちの上でもふわふわしている。
夢魔の異常な力に対応できる自信はないし、現実以上に何ともできないんじゃないかと思ってしまうのが正直なところだ。
「その、まりんって子は、本当に味方なんですか?サキュバスを憎んでいるとはいえ、本人もサキュバスなんですよね」
『そうだ。当然、夢に入れるのだからサキュバス化してるし、実際に何人かの犠牲者も出している』
「そう、なんですか」
犠牲者が出ている相手、ある意味で、前科持ちとも言える。
「犠牲者ってことは、生気を吸い尽くして」
『安心して大丈夫だ。彼女の犠牲者は、未遂で助けられている』
ホッと胸を撫で下ろす。
でも、油断はできない。未遂で終わったのは偶然に過ぎない。
「生気を吸わないサキュバスって、サキュバスとして生きていけるんでしょうか」
『難しい質問だね。生きていけるといえば生きていけるが、ハッキリしていることは、サキュバスの寿命は、生気を吸わないと急激に下がるということだ。搾精は延命行為でもある。彼女たちが行為を喜ぶのも当然だ。それだけ美味であり快楽を得られるのだから』
「どのくらい下がるんですか?まさか、半分以下とかまで下がるとか?」
『個体差はあるが、ほぼ数年か、数ヶ月にまで下がるケースもある』
「ちょ、……それは、寿命の話ですか?」
『そうだ。1週間で消滅したケースもある』
「いや、だって、……そんな、あかりの母親、今も生きてるって言ってるし、父親と10年一緒にいたって」
『真偽は確かめたのかい?』
「いえ」
『その母親とやらに会ったことは?』
「ないですよ」
『ふむ。なら、ふつうに考えると、父親以外でも搾精を行っていたと判断するのが妥当だろうね。ただ、個体差もある。あるいは、特異体質で無事だったのかもしれない』
「あかりは、……あかりは大丈夫なんでしょうか?」
『アカリくんは、どこかで搾精しているのではないかい?私の管理下ではないから、分からないな。本人に確認してみると良い。仕事を抜きにしても、友達なのだろう?』
「そう、ですね、……なんか聞きづらいですけど」
『しかし、キミが絶倫なように、生気を多少吸収されてもピンピンしている人間もいる。そう考えると、サキュバスを生かす方法もあるだろうさ。……だが、今のところ成体にさせないように抑制するのが最も有効な手段だろう』
「あの、ちなみに、低級悪魔のサキュバスだと、搾精しても生気を吸収できないって聞いてるんですが、寿命はどうなんでしょうか」
これは当然、ちゆのことだ。
ちゆは低級悪魔だ。
サキュバスで低級悪魔というのは特殊。
生気を吸収できないというのは、人間にとっては嬉しい……が、それはサキュバスにとってはどうなんだ?
僕の心臓の鼓動が速くなる。
正直不安だ。
冷や汗が流れる。
『……低級悪魔というのは、もともと寿命が短い。しかもサキュバスとなると、生気を吸収できなければ長くは生きられないだろうね』
思っていた悪い予感が的中した。
ちゆは寿命が短い。
……ちょっと待ってくれ、そんなことは聞いてない。
何とかならないのか。
「あの、低級悪魔の寿命は、ふつう何年くらいなんですか?」
『うーん、10年もないだろうね』
「生気を吸えないサキュバスなら?」
『本来なら1年と持たないと思うんだが、その子は成体になってどれくらい経つんだい?」
「まだ1週間も経ってません」
『そうか、今のところ、体調に変化はないかい?』
「羽根が生える前と何も変わってません。元気な様子です。少なくとも側から見る分にはですが……」
『なるほど、しかし、楽観的に考えるのは危険だな。人間にとっては人畜無害な存在だから、そのまま放置で良さそうだが、キミにとってはそうでもなさそうだね』
「はい……」
『今更言ってももう手遅れだが、サキュバス化を止めるべきだったね、その子の未来のためには』
「なんとかなりませんか?」
『なんとか?それは、そのサキュバスの子を延命させたいということかい?』
「はい、言い忘れてましたが、その子が、例の双子の夢魔の子です」
『……なるほどねぇ、つまり、キミが夢で生気を吸収された子の片割れがそうなんだな』
「そうです。教えてください!僕は、ずっと彼女と暮らしていくって、決めているんです!」
『そんな急にプロポーズの報告をされてもなぁ』
僕はちゆの純粋な笑顔を想像して悲しくなった。
なんで、ちゆがそんな目に遭わないといけないんだ。
生気を吸収できないことで、犠牲者を作らずに済むことは良いことだ。だが、それによって本人が短命になってしまうのは理不尽過ぎる。
ちゆが何をしたっていうんだ。
彼女はただ、一生懸命、日々を生きているだけだ。
可愛いし、性格も良いし、料理も美味しい。
なんでそんな良い子が低級悪魔なんだ。
酷過ぎるだろう!
……いや、それも違うかもしれない。
ちゆがちゆだからこそ、こういう結果になっているとも考えられる。
生きることに貪欲なことは、美しさとは真逆なのだ。
本来なら、アカリの母親のように、自分の欲望の赴くままに生きているのが普通なのだろう。
だが、もし、ちゆだから短命なのだとしたら、まだ突破口はある。
双子の夢魔
その正体を突き止める。
おそらく、コレが鍵だ。
本来のちゆに何らかのペナルティーが発生しているとすれば、その鎖を断ち切ることで運命を変えられるかもしれない。
『本来なら、方法は無いに等しいが、もし、双子の夢魔が、本当に双子の夢魔であったなら、生存できる可能性はある』
「それは、例の」
『融合だ』
「でも、別個体の可能性もあるんですよね」
『そうだ。ドッペルゲンガーと言っていたが、それだね』
「もし別個体がいたら、本当に他人の空似ということでしか無いんですよね」
『たしかにそうだが、気になる事がある』
「何でしょうか」
『単なる空似だったとしたら、そこまで性格をコピーできるだろうかと思ってね』
「途中で気付きましたけどね。普段とは違うって」
『だが、それでも初めは気付かないくらい似せる事には成功していたということだろう?』
「まぁ、そう言われればそうですね」
でも記憶ごと消えていたからなぁ……。
『何か、本人との繋がりを感じる言葉を発していなかったかい?』
「そんなの……あっ!」
『あるようだね』
「一応、印象的な言葉でしたらありました」
『それは?』
「なんだ、来ちゃったのか、私、低級悪魔のくせに、よくここに入ってこれたわね、って感じのことを言っていたと思います」
『ほほぉ……、なかなか良いヒントだ。そうなると、仮に別個体だったとしても、融合できる可能性は残っている』
「それは、どんな方法なんですか?」
『一応、ドッペルゲンガーについて少し参考資料を漁ったのだが、夢魔とドッペルゲンガーに関しての直接の関連性は出てこなかった。だが、一つ面白い事が分かってね』
「なんですか?」
『夢魔としての個体と、現実の個体は必ずしもイコールではないということだ』
「じゃあ、夢魔のちゆは、現実のちゆとは別の生命体ってことですか?」
『極端に言えばそういう事だ。キミだって、夢の中でどんな大怪我をしようが、目が覚めれば全て消え去っているだろう?』
「そりゃ、夢なんですから、そういうもんですよ。だから夢魔が、生気を吸収するというのもなんだか腑に落ちないんです。現実にいるサキュバスが生気を吸うのは納得できるんですが」
『だろうね。しかし、夢魔は実在するし、実際に夢魔による被害は存在する』
「それで、どうして別の生命体だったら融合できると思うんですか?」
『つまり、その子の生命体が、実体2人、夢魔2人、計4体だとすれば、夢魔の2人が融合したとしても、実体2人に対して、生命体としての影響はないからだ。影響がないなら融合しても問題はない。そういう論理だ』
「そうなると、実体が2人で、夢魔は1人という事になりますが、その場合、夢魔の生気吸収に関してはどうなるんですか?」
『普通に推測すると、実体との繋がりがあるなら、2人に生気が分配されると考えたいところだ。……だが、コレは極めて楽観的な結論だ。場合によっては、片方だけか、最悪実体2人に生気は送られず、夢魔単体で完結する可能性もあるだろう』
「そうなったら、夢魔から生気を受け取ることはできないってことですよね」
『そうなるね』
「じゃあ、その場合は、実体2人は、それぞれが現実で生気を調達しなくては延命できないってことになるということでいいですか?」
『おそらくは』
「そう、……ですか。」
『しかし、今のところ融合できるかどうかに関わらず、生気を手に入れる事ができない状況なのだろう?なら、試す価値はある』
「はい、もうそこに賭けるしか無いように思います」
『キミが望むのであれば、頑張ってみたまえ。ただし、成功したとしても、キミにとって辛い結末が待っているかもしれない。それは分かっているね』
「……承知の上です」
『いいだろう。キミを信じて、私も協力しよう。では、とあるアイテムを、夢に送り込む』
「なんですか?とあるアイテムって」
『まぁコレは、見てからのお楽しみということにしておこう』
「もったいぶる意味が分かりません」
『アハハハ、とにかく、キミが隅影くんと仲良くなれることを祈っているよ』
「僕もそれを望んでいますよ」
『では、私はこれにて失礼するよ。不安があれば、深夜であっても連絡をくれて構わない』
「いえ、たぶん大丈夫です。コレが僕のわがままであることも、重々分かっているつもりですから」
そうだ。ちゆを助けることは、サキュバスを助けるということに他ならない。
それは決して、ケルビン達、天使側にとっては称賛すべきことではないだろう。
なら、僕に協力してくれるケルビンは自らの立場に背いた行動をしていることになる。
そして、それは僕という個人のためにやっていることに過ぎない。
『キミの理想を実現するために、微力ながら手助けをしようとは思っている。是非とも頼りにしてくれたまえ』
「ありがとうございます。もしもの時は、僕を見捨ててもらって構いません」
『随分と覚悟を決めているようじゃないか。1人の天使として、賛辞を送ろう。そして今宵をキミが無事に乗り切る事を願おう。その選択と決意が、より多くの幸福と繁栄をもたらさんことを』
ブッ……っと、電話が切れる。
ケルビンの去り際は良くも悪くも何か演技がかっている。
何かマニュアルでもあるのだろうか?
そんなことを思っていると、後ろから声がした。
「お兄ちゃーん、ごはんできたよー」
ちゆだ。
さっきの会話のせいで、声を聞くだけでなんだか切ない気持ちになった。
ダメだ、急に泣いたりしたらちゆに変な気を遣わせてしまうかもしれない。
耐えなくては。明るく振る舞うんだ。
「今日は何を作ったの?」
「んふふー、豚の生姜焼きでーす!」
白いお皿の上に、キャベツのみじん切りと、豚と玉ねぎの生姜焼きがこんもり乗っている。
盛り付けも綺麗で、豚肉が均等にバランスよく扇形に置かれている。
生姜のいい匂いだ。
食欲が増す。
「美味しそうだね。ちゆちゃん生姜焼きも作れるんだ。凄いね」
「ぇえー、ふつうだよー、味付けは自信あるんだよ」
「どんなとこが?」
「……んとねぇ、絶対にごま油で炒めるとこと、お醤油とみりんの量を入れ過ぎないように調整するとこかな。玉ねぎがあるから、そんな濃くなくても美味しいんだぁ。一応マヨネーズも出しとくねー、欲しかったら使って」
「ありがとう」
なんだかんだで、こだわってるんだなと思った。
それにしてもちゆは本当に家庭的だな。これでサキュバスなんだから、色々規格外過ぎる。
「お味噌汁も飲んでね」
「うん、にしても、ゆかが戻ってこないな」
「そうだね、何してんのかな。ちょっと電話してみるね」
ちゆがゆかに電話する。
「……もしもーし、ゆかさん?」
ちゆが僕に無言で、出た、と指でスマホを指すジェスチャーをした。
「うん、……うん、そっかぁ、もうご飯作ってあるよー、……豚の生姜焼きぃー……、へー、……、そんなことしないよぉ。…………クレープある。……はーい、じゃーね」
電話を切るちゆ。
「どう?」
「秋風さんの話がなんかヘビーなんだって。今秋風さんの部屋にいるみたいで、まだ数時間掛かるって言ってる」
「よもぎが相談してるのか、何の話してるんだろう」
「分かんない。帰ってから食べるから先食べててって言ってた。私の分食べないでねーって。食べるわけないじゃんね」
「そっか。なら、先にいただこう、いただきます!」
僕はちゆちゃんを見ながら両手を合わせる。
ご飯を食べるいただきますもそうだが、今日の行為には、ちゆに対しての感謝の気持ちも大きい。
さっそく豚肉を口にする。
ちょうどいい甘辛さが舌を刺激して美味しい。
すぐに白飯を食べる。
「ちゆちゃん、めっちゃ美味しいよ」
ちゆの顔が嬉しそうにへにょへにょしている。
「ほんとにぃー!うれしー!」
僕は勢いよく平らげる。味噌汁も濃過ぎず薄過ぎず、生姜焼きによく合う。
泣かないつもりだったのに、なんだか涙が出てきた。
すぐ指摘するちゆ。
「あー!お兄ちゃんまた泣いてるー」
「いや、ちゆちゃんの作る生姜焼きが美味しくて、お味噌汁も……おいし、うぅ」
僕は鼻を啜る。
すると、ちゆが自分の生姜焼きのお皿を隣に移動させる。
ん?どうしたのかなと思うと、対面から、僕の左隣に移動してきた。
「お兄ちゃん、隣に行っていい?」
「もう来てんじゃん」
「うん……来ちゃった」
「どうしたの?」
「それはこっちのセリフだよ」
「あぁ、美味しくて涙がこぼれちゃって、大丈夫だよ」
「……うそつき」
ちゆが身を寄せて来て、僕の左肩に頭を乗せる。
左腕を軽く抱き締めるちゆ。
「嘘じゃないよ、生姜焼き、美味しいよ。ちゆちゃんも味見した?こんな美味しい生姜焼き食べたの、人生で初めてだよ」
ちゆの、腕を抱く力が強くなった。
「ちがうよ、生姜焼きのことじゃなくて……うぅ、……ばかぁ」
「……ちゆちゃん?」
彼女の身体が熱くなる。耳も真っ赤だ。
「ばかっ、ばか、ばかー……」
ちゆが強く腕を抱き締める。
僕はほぼ食べ切っている茶碗を机に置くと、ちゆに向き合って軽く抱き締めた。
彼女のおでこが僕の胸にコツンと当たる。
お互いの背中に両腕を回して抱き合う。
何か察したのか、自分の運命を知っているのか、さっきのケルビンとのやり取りが聞こえていたのか、それは分からない。
だが、ちゆが今、僕のことで涙を流していることは確かだった。
泣いているちゆの背中をさする。
彼女の身体が熱くなっているので、何だか暖かくて心地良くなる。
しばらく背中をさすっていると、落ち着いたようだった。
「ちゆちゃん、もう大丈夫?」
「うん、だいじょーぶ」
顔を見ると、涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。
机の上に置いてあるティッシュを取ってあげた。
「はい、顔拭いて」
「ありがど」
鼻をかむちゆ。
ちゆがまた僕を見る。
頬が赤く、涙で濡れていた。
ちゆの可愛い唇が近づいて来た。
ちゅっ、と、優しいキスをする。
数秒、唇を合わせると、ゆっくり離れた。
「へへ、お兄ちゃん、生姜焼きの味するよ」
「……今食べてたからね」
「ちゆも食べるね」
「うん、食べよう食べよう、冷めちゃうよ!」
ちゆがもたれ掛かる。
この体勢で食べるのかと思ったら、何だかもぞもぞしている。
「……お膝座りたいけど、羽根が邪魔だね」
「そっか、……でも、羽根大きいけど、伸ばしたら薄いから座れるよ、やってみて」
ちゆの黒い羽根がバサっと開かれる。
普段畳まれているからそんなに目立たないが、いざ広がるとなかなかの迫力だ。
部屋の中央に仕切りができたかのようだ。
膝に座るちゆ。
意外と重さが無いなと思ったら、両羽根の先が床に当たって固定されている。
たしかに、こうしていれば膝の上に乗っていてもそんなに影響はない。
ちゆに膝に乗られて、サラサラの髪の毛が鼻のすぐ下に来る。
いい匂いがする。
お尻の感触が柔らかくて、温かい。
僕は手をどこに置いて良いか分からず、空中をさまよっていたら、ちゆの可愛い両手に握られた。
ぷにっとして気持ちいいちゆの指で、僕の両手は彼女のお腹の方へ誘導されていく。
「ちゆのこと抱きしめてて良いよ」
僕はそのまま軽くお腹を抱く。
細いが、別に痩せてるという感じではなく肉付きが良い。
性的な感じより、心地いいといった表現が合う。
とは言っても、やはり身体は反応してしまうのだが。
「お兄ちゃん、ちゆの髪の毛の匂い嗅いで大きくなったの?」
「いや、そういうわけでは、無いことはないこともない、ってことも無いんですが」
「あるじゃん!」
「……はい」
「ちゆ、今ご飯中なんだからね、そういうのはあとでだよ」
ちゆがお尻をぐりぐり動かしてくる。
胸がドキドキ高鳴る。
ダメだ。そういうことではない。
とにかく、冷静にならなくては。このままでいいわけはない。
「お兄ちゃん、さっき、ちゆの寿命のこと聞いてたよね」
ドキッとする。
さっきの胸の高鳴りとは全く違う、焦り。
どこから聞いていたんだろう。
「えっと、なんだっけ?そんな話してた?」
「してた。とぼけてもダメ。あんな近くで話してるのに聞こえない方が変でしょ。それに声大きいし、わざとかと思っちゃった」
必死過ぎて声のボリュームが出過ぎていた。失敗だ。
「そんなわけないよ。無意識だった。ごめん、不安にさせちゃったよね」
「ううん、いいの。ちゆもちょい気にしてたから。低級悪魔って、何だろうって……、でも、やっと分かった。そういうことだったんだ」
「ちゆちゃん、心配ないよ。僕が何とかするから」
「ありがとう。でも、ちゆのためにお兄ちゃんが犠牲になることはないよ」
「……なんてこと言うんだ」
「ちゆね、本当言うと、お兄ちゃんとゆかさん、お似合いだと思ってるの」
「何を今更そんなこと」
「あのね、ちゆがいない方が、お兄ちゃん、ゆかさんと幸せになれるって思ってて」
「なんでそんなこと言うんだ!……やめてくれよ」
「ゆかさんが天使だって分かった時に、思ったの、お兄ちゃん、もうサキュバスなんかと関わらなくて良いじゃんって」
「……それ以上、言わないでくれ」
僕は涙が溢れてくる。
止まらない。
どうやって涙を止めればいいのか全くわからなかった。
ただただ悲しかった。
「……んとね、ちゆは、お兄ちゃんに転校して欲しいと思ってるの。ゆかさんと一緒に……、そうすれば、ゆかさんは天使だから、人間のお兄ちゃんと、楽しく暮らせると思うんだ。天使と一緒だったら、たぶん、サキュバスに捕まっても、何とかして貰えると思うし、ゆかさんのことだけを愛していれば、危険な目には遭わないでしょ?」
「ちゆちゃん……」
「ちゆね、このまま生気とか吸えなくていいから、誰も傷付けずにいなくなりたい……、そうすれば、ちゆは、ちゆのことを嫌いにならずに済むから」
「もうやめろっ!!!!」
僕はちゆに怒鳴った。
ちゆを座らせて立ち上がる。
唖然として僕の顔を見つめるちゆ。こんな表情を見るのは初めてだ。
僕はちゆを見下ろして叫んだ。
「僕が何とかするって言ってんだっ!!」
「……おにい、ちゃん?」
「お前は黙って生きていろっ!!!!」
ビクッと身体を震わせ、持っていたお箸を落とすちゆ。
ちゆがコクコク頷いている。
めちゃくちゃ怯えている。
「うん、うん、うん、ごめんなさい、ちゆ、生きてる……」
「本当か!?僕に黙って勝手にいなくなるなよ」
「分かった。ここにいる。ちゆしなない」
「よし!」
座り直すと、再びちゆを膝に座らせた。
すると、ちゆの身体がビクビクしている。
怒鳴り過ぎたのかもしれない。
「ちゆちゃん、お箸、新しいやつ使おう、ハイ」
「あ、あ、あ、ありがと」
ちゆはお箸を受け取るが、まだビクビクして落としてしまう。
「ごご、ごめんなさい、ちゆ、不器用で」
「いや、別に不器用とか、そういう事じゃないでしょ、僕が悪いよ、ごめん」
「お兄ちゃん、怒ると怖いよ」
「僕もそんなつもりじゃなかったんだけどね」
「うん、ちゆ、生きてるからね」
「当然だよ」
僕はちゆの頭を撫でた。
ビクッと、ちゆが反応する。
「ちゆちゃんどうしたの?」
「殴られるかと思った」
「そんなことするわけ無いでしょ、何で?」
「……分かんない」
ガチャっ、と、ドアが開く音がした。
「たーだいまー!!」
ゆかだ。
元気な声。
よもぎの相談は上手くいったんだろうか?
ゆかは手に大きな紙袋を3つほど持って現れた。
服でも買ったんだろうか。アカリもそうだが、今日は何かセールでもやってたのかな。
「わー、いい匂いー、ちゆちゃん特製の生姜焼きの匂いだね!はぁー、お腹すいた!早く食べたーい」
ゆかがベッドの脇に紙袋を置く。
すると、僕らの様子を見て、不思議に思ったようだ。
「あれ?ちゆちゃん、大丈夫?顔真っ青だよ、セイシくん、ちゆちゃん体の調子悪いの?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど、ちょっとね。それより、生姜焼き食べよう。凄い美味しいから」
「そう?ま、それならいいや、あとさ、クレープも買ってるんでしょ?苺キャラスペ、新作だから楽しみだったんだー、お風呂入ってから食べよー」
ゆかはいつもと変わらない調子で、ご飯とお味噌汁を準備して、ふつうに食べ始めた。
「ふーん、おいしー、生姜焼き最っ高ぉ!定食屋で食べるレベル超えてるわ、ちゆちゃん今度作り方教えてねー」
「……うん、ゆかさん、……ちゆのレシピ、ぜんぶ教えてあげるね」
ちゆがボソボソ喋る。こんなちゆは珍しい。
「ええー!そんなそんな、悪いですよちゆ大先生!私なんて生姜焼きさえ作れれば大満足なんだからっ、あーん、お味噌汁も沁みるわー、お婆ちゃんの味って感じ。ちゆちゃん小さいけどねっハハ」
なんだか、いつもと構図が反対になっているような気もするが、今はとにかくちゆを何とかすることで頭がいっぱいになっていた。
⭐︎
さて、ここは……どこだ?
どこかの倉庫にいるようだ。
ゆかとちゆがお風呂に向かったあと、ベッドに寝転がったら一瞬でこの倉庫で目が覚めた。
熟睡。
たぶん、きらりのことや、月富ラナとのいざこざ、それに、ちゆのことで精神的に極限状態で寝転がったから、即眠りに落ちたのだろう。
幸いなことに、記憶が混濁している様子もない。
明晰夢というヤツだろうか。
寝る前の状況が分かる分、今日の夢はそれほど恐怖心はない。
問題は、この倉庫が何なのかという事だ。
僕の記憶には無い場所だから、おそらく別の人間、ではなく、夢魔の影響を受けていると思っていいはずだ。
楽観的に考えれば、おそらく隅影 真凛の夢の中。
そうでなければ、ちゆちゃんか。
だが、ちゆの夢空間でこんな場所が生成されるというのは何だか腑に落ちない。
もう1人の上級悪魔のちゆかもしれない。
だが、今回はむしろ上級悪魔のちゆに会いたい。
もし、融合が可能なら、1日でも早く融合してもらいたいのだ。
できるなら、昨晩の僕の生気を実体へ送ったのかどうかも知りたい。
実体がいなければそれで良いし、いたとしても、生気の共有ができていれば望みはある。
それにしても、まりんとはどうやって合流すれば良いのだろうか。
とりあえず、倉庫の中を散策してみよう。
見た感じ、かなり広い倉庫で、ほとんど何も置いてないところを見ると、ほぼ全てが作業スペースということだろう。
夢空間でこの広さは、何だか嫌な予感がする。
巨大な怪物が突然現れても逃げ場がない。
走って追いつかれたらおしまいだ。
単なる夢なら、追いかけられる夢など見飽きているくらいだが、凶悪な夢魔にでも捕まったら、一生目覚める事ができないかもしれない。
とにかく、調査あるのみだ。
一応、道具入れのような鉄製のボックスがいくつも散見できる。
中にはペンチやドライバー、レンチ、ナットなどがガチャガチャと入っていた。
コレは、……誰の夢だ?
金属の音が天井に響く。外は昼過ぎくらいだろうか。
このまま何も起こらずに現実で朝になってくれても構わないが、不気味な静けさに背筋が凍る思いだ。
ひと通り一周して、倉庫の中央辺りであぐらをかいて座った。
そういえば、ケルビンが何かを夢に送り込むと言っていたが何だろう?
そもそも、夢に何かを送り込めるなら、連絡を取れても良いんじゃないかと思うが、無理なのだろうか。
それとも、これから来る道具がそれなのか?
わからない。
ケルビンも何を考えているのか本心は読めないところがあるため、若干の不安はある。
さすがにここまできていきなり裏切るようなことはしないだろう。
まぁ、実際問題、僕の方が裏切り行為に近いことを考えているわけだが……。
すると、背後でガシャガシャと、シャッターが開く音が聞こえた。
ん?
まりんか?
「お兄ちゃん!?」
バタバタと全力で走ってくる見慣れた姿のちゆ。
背中に悪魔の羽根が思いきり見えているから、多分いつものちゆだ。
羽根を広げ過ぎたのか、一度ちゆの身体が舞い上がった。
「だあー!!飛んじゃうよぉー!わぁああああー」
ふわーっ、と、高い倉庫の天井で宙を舞う黒い翼の美少女。
飛んじゃうって言ってほんとに空を飛ぶ女の子を初めて見た。
そもそも、全力で走って間違えて飛ぶというシチュエーションがなかなかレアだ。
客観的には笑ってしまいそうになるが、本人は必死だ。
僕は見上げて、飛んだちゆの動きを目視で確認しつつ、手招きした。
「オーライ、オーライ、ちゆちゃんっ、僕の腕の中へおいで!」
ちゆが僕と目を合わせ、少し恥ずかしそうに頷く。
「お兄ちゃあーんっ、大好きー!!」
ふわーっと、羽根を大きくバタつかせながら、僕の胸にダイブするちゆ。
勢いよく抱きかかえ、軽く尻餅をつく僕。
ちゆが僕の腕の中でモゾモゾ動いている。
「……大好きって、急にどうしたんだよ」
彼女の顔を見ると、頬が赤くなって、かなり照れている。
それを見て僕も恥ずかしくなった。
「ちゆね、お兄ちゃんのこと好きだなぁって、ゆかさんに言ったの」
「そうなんだ、それで?」
「そしたら、知ってる、って言われちゃった」
「あはは、そうだね、ゆかならそう言うよね」
「でね、ゆかさんに許可貰ったの」
「なんの?」
「お兄ちゃんのこと好きでも良いよって」
「どういうこと?」
「ちゆね、悪魔だから……」
「もうその話は良いよ、僕だってちゆのこと大好きなんだから」
「へへ、ほんとぉ?」
「なんで疑うんだよ、あんなに怒ったのに」
「ちゆに、命を大事にしなさいって怒ったんだと思った」
「……まぁ、間違いではないけど、とにかく、僕とちゆちゃんは、運命共同体なんだ」
「うんめいきょうどうたい?」
「そそ、一心同体って言ってもいい」
「そーなの?」
「そう、だから、一緒に生きてく道を探そう」
「うん、だね、実はね、嬉しかったんだぁ」
「なにが?」
「お兄ちゃんが、ちゆとずっと暮らしていくって決めてるって言ってくれて」
なるほど、そこ、聞いていたんだ。
「聞かれてたか」
「うん、そこまでは、そんなに聞いてなかったんだけど、ちゆと暮らしていくってとこから、凄い聞いてた」
「……そうなんだ」
「ふふふー、お兄ちゃん、ちゆと暮らしたいんだぁ」
僕のお腹に頭をグリグリ押し付けるちゆ。
勢いで話してたけど、こんなに喜んでくれていたとは思いもしなかった。
「あぁ、2人でがんばろうな」
「うん」
……と、その瞬間だった。
バリーン!
っと上の方でガラスが割れる音が聞こえると、何か空中でくるくる回っている。
「お兄ちゃん!何アレ!?赤い球がグルグル回ってるよ!」
「確かに!?回ってる!逃げるよ」
僕は立ち上がり、ちゆの手を引くと、さっきちゆが入ってきていたシャッターのある入り口へ走ろうとした。
すると、赤い球がブォンっと、風を切って僕らの前方へ弧を描いて移動し、目の前へ降りてきた。
「わぁ!おにーちゃん!上からなんか来たっ!!!」
「ちゆちゃん、伏せて」
僕はちゆの前方に立つ。
ちゆは自分の頭を両手で抱えて座り込む。
すると、赤い球が、突風を引き起こしながら、目の前に落ちてきた。
ズドンッ!!!
床に落ちた勢いが凄くて、音が鳴り響き、遠くでまた反響するのが聞こえた。
なんだ?
人?
女の子?
狼狽える女性の声が耳に入った。
「……うそ、あなた、……アドニス?」
間違いない。
隅影 真凛
この子が、ケルビンが寄越したサキュバスの助っ人だ。
ちゆが怯えてヒィーヒィー言っている。
「隅影、真凛さん、……ですね?」
「……ええ、そうだけど、悪魔の羽根が見えたから追ってきたのに、まさかアドニスの仲間だったなんて」
どうやら、僕は無事にまりんと合流することに成功したようだ。
「キメてないですよ、なんで僕がプロレス技を習得している前提で話してるんですか」
ケルビンはいつでも同じ調子なので呆れるどころか逆に感心してしまう。
ちゆちゃんと僕は、寮に戻り、クレープを冷蔵庫にしまうと、夕食の準備を進めていた。
手伝おうとしていたら、邪魔だからとちゆに追い払われてしまった。
狭いキッチンとはいえ、配置はちゆちゃん仕様になっていて、動かすと怒られる。
仕方ないので、とりあえずケルビンに今日の成果というか戦果を報告しとこうと、デーモンハンター業務用の携帯を手に取った。
『だが、馬乗りなら、腕を狙うより顎を持ち上げた方が有効だろう。その場合は、えーっと、ウサギじゃない、ロバ、でもないな、らく、らく、……』
「キャメルクラッチですか?」
『それだ!ラクダ固め』
「だから、僕は別に技を掛けたいと思って馬乗りになったわけではないです」
『そうか、たしかに、咄嗟に技を繰り出せるほどの余裕は今のキミにはないか』
「今後はできるようになるとでも言いたげですね。それはないです、あんないたいけな女の子相手に、怪我したらどうするんですか」
『いたいけ?キミの同級生だろう、月富ラナくんは』
「でも小柄で力も弱い少女であることには変わりないですから」
それに、手の平もむにっとして柔らかいし。……スベスベで温かいし。
『だがサキュバスだ』
「……それは……そうですが」
『きみはすでに、成体サキュバスの異常な腕力を体験している。強烈な印象が残っているはずだ、まさか忘れてはいないだろう?』
アカリのことを言っているのだろうが、ラナは羽化していない。なら、今はまだただの少女だ。
今後は彼女が脅威になるのかも知れないが、少なくともキャメルクラッチをキメていい相手ではない。
てか、やり方知らないし。
「今のラナは無害だと思います」
『今はというのは正解だ。なら、これから彼女に対して何が有効になるか、それは分かるね?』
「……まさか、そんなこと」
『そうだ、彼女のサキュバス化を止める事ができるのも、キミだけだ』
「むりむりむりです!むりですよ、ラナとその、あの、アレですよね」
『できないと思う根拠は?』
「ラナが好きな相手はきらり、それはもう動かぬ事実なんです。だって、ラナは寝る前に電話でその、こう、……自分で慰めてるんですよ」
『むしろチャンスではないか?彼女は人一倍性欲が強く、感度も高い。つまり、絶頂に達するまでも時間が掛からないというわけだ』
「今の対象はきらりじゃ無かったんですか」
『もちろんそうだとも』
「なら、1人に集中するべきでは?」
『何を言っているんだ。キミは同時に2人以上の子を好きになったことはないのか?』
「何言ってるんですか、僕はちゆもゆかも同じくらい好きです」
『突然そんな告白をされても困る、本人に言ってあげなさい』
「……そういうことじゃなくてですね」
『月富ラナに悪魔測定器は使っていないね?』
「はい、そんなこと思いつきませんでした」
『彼女は3指標がオールイエローだ』
「……てことは、放置で大丈夫ってことですね」
『いや、今がチャンスだ』
「なんで!?」
『グリーンが無いということは、サキュバス化が進んでいるという事と同時に、それだけ性への探究心が旺盛になっている状態とも言える。なら、今のうちに仕留めておいて損はない』
「きらりが最優先なのでは?」
『何を言っている。2指標がレッドの西園寺きらりは、本来なら対象外なのだぞ?最優先なのではなく、対処したいなら対処しても良い程度だ』
「なんでそんな混乱するようなこと言うんです」
『私の言っていることは至ってシンプルだろう?』
「どういうことですか」
『2人同時に落とせと言っているんだ』
「無茶なことを!?」
『手段はある。キミはそれを実行すれば良いだけだ』
「どんな手段なんですか?」
『遠隔3Pを行う』
「……なんですか、それ」
『クックック、この作戦はなかなかトリッキーだぞ、詳細は後ほどまとめて送ろう。楽しみにしておきたまえ』
ケルビンが楽しそうだ。なんだかロクでもない作戦な気がしてきたが、ケルビンが言うんだから多分過去に成功した例があるんだろうとは思う。
「一応、引き続き、きらりが対象ってのは変わらないんですよね」
『そうだとも。なんだい?対象が変わる可能性を危惧しているのかい?キミは西園寺きらりがよっぽど好きなんだなぁ』
「ちょ……、なんてこと言うんですか、そんなことひと言も言ってないですよ」
『しかし、キミの言い方から、彼女のことを追いたいように感じたぞ。それは対象に好意が無ければ決して出ない反応だ』
「今、どっちかというと、確認の意味で言ったつもりだったんですが」
『そうか?私の感想で言わせて貰うと、キミの論理は、キミの都合に合わせて調整されているように思う。通常の思考なら、月富ラナと西園寺きらりの関係に押し入って、サキュバス化を止めようとするのは、面倒に思うはずだ。本来、人というのは、義務に関しては楽な方に流したいと思うものだからね』
「面倒って……、ラナと約束もしましたし、好きというより、執着とかだと思うんですけど」
『ふむ、言いたい事は分かる。実に理にかなっている。しかし、西園寺きらりに好意がなくては、その理屈でキミが動く事はないだろうね』
「随分と決めつけますね」
『ご不満かな?』
「……少し」
『おそらくキミは、罪悪感で受け入れられないのだろうが、人を好きになる事は悪いことではないし、それが複数人に至ることも自然なことだ。キミは誰かに誠意を見せたいと思っているのだろう。誰にかどうかは分からないが、その答えはキミ自身が持っているはずだ。そして、何をすべきで、何をしたいかも。どうだい?私は間違ったことを言っているかい?』
「……いえ、間違っていません」
『なら、キミがその罪悪感を払拭するには、自分に正直になる他ないだろう。キミ自身が、西園寺きらりを好きであることが認められないのであれば、西園寺きらりにとっても不幸なことだ。助けを求めていない相手を善意で無理矢理助けても、喜ばれることは少ないからね。子ども扱いされて嬉しい人はそう多くはない。それは分かるだろう』
「はい。分かります。僕が間違っていました。……僕は、きらりの事が好きです」
『よし、ならば、キミに彼女のことは任せよう。頑張ってサキュバス化を止めてあげたまえ』
「分かりました」
やはり、ケルビンは僕の気持ちを全て見抜いている。
結局は、僕がためらうのは、きらりを好きでいる事への罪悪感だ。
だが、ちゆやゆかに対して気持ちが変わったわけではない。
僕のすべき事、それは……。
『……で、また別件だが』
「はい!何でしょうか」
『今日、キミは夢の中で隅影 真凛と対面する予定になっているが、注意事項の確認だ』
そうだ。僕は昨日、上級夢魔のちゆに生気を吸い取られた。
今晩は、その対策も必要だ。
正直なところ、夢の中なので実感が持てない面もあり、気持ちの上でもふわふわしている。
夢魔の異常な力に対応できる自信はないし、現実以上に何ともできないんじゃないかと思ってしまうのが正直なところだ。
「その、まりんって子は、本当に味方なんですか?サキュバスを憎んでいるとはいえ、本人もサキュバスなんですよね」
『そうだ。当然、夢に入れるのだからサキュバス化してるし、実際に何人かの犠牲者も出している』
「そう、なんですか」
犠牲者が出ている相手、ある意味で、前科持ちとも言える。
「犠牲者ってことは、生気を吸い尽くして」
『安心して大丈夫だ。彼女の犠牲者は、未遂で助けられている』
ホッと胸を撫で下ろす。
でも、油断はできない。未遂で終わったのは偶然に過ぎない。
「生気を吸わないサキュバスって、サキュバスとして生きていけるんでしょうか」
『難しい質問だね。生きていけるといえば生きていけるが、ハッキリしていることは、サキュバスの寿命は、生気を吸わないと急激に下がるということだ。搾精は延命行為でもある。彼女たちが行為を喜ぶのも当然だ。それだけ美味であり快楽を得られるのだから』
「どのくらい下がるんですか?まさか、半分以下とかまで下がるとか?」
『個体差はあるが、ほぼ数年か、数ヶ月にまで下がるケースもある』
「ちょ、……それは、寿命の話ですか?」
『そうだ。1週間で消滅したケースもある』
「いや、だって、……そんな、あかりの母親、今も生きてるって言ってるし、父親と10年一緒にいたって」
『真偽は確かめたのかい?』
「いえ」
『その母親とやらに会ったことは?』
「ないですよ」
『ふむ。なら、ふつうに考えると、父親以外でも搾精を行っていたと判断するのが妥当だろうね。ただ、個体差もある。あるいは、特異体質で無事だったのかもしれない』
「あかりは、……あかりは大丈夫なんでしょうか?」
『アカリくんは、どこかで搾精しているのではないかい?私の管理下ではないから、分からないな。本人に確認してみると良い。仕事を抜きにしても、友達なのだろう?』
「そう、ですね、……なんか聞きづらいですけど」
『しかし、キミが絶倫なように、生気を多少吸収されてもピンピンしている人間もいる。そう考えると、サキュバスを生かす方法もあるだろうさ。……だが、今のところ成体にさせないように抑制するのが最も有効な手段だろう』
「あの、ちなみに、低級悪魔のサキュバスだと、搾精しても生気を吸収できないって聞いてるんですが、寿命はどうなんでしょうか」
これは当然、ちゆのことだ。
ちゆは低級悪魔だ。
サキュバスで低級悪魔というのは特殊。
生気を吸収できないというのは、人間にとっては嬉しい……が、それはサキュバスにとってはどうなんだ?
僕の心臓の鼓動が速くなる。
正直不安だ。
冷や汗が流れる。
『……低級悪魔というのは、もともと寿命が短い。しかもサキュバスとなると、生気を吸収できなければ長くは生きられないだろうね』
思っていた悪い予感が的中した。
ちゆは寿命が短い。
……ちょっと待ってくれ、そんなことは聞いてない。
何とかならないのか。
「あの、低級悪魔の寿命は、ふつう何年くらいなんですか?」
『うーん、10年もないだろうね』
「生気を吸えないサキュバスなら?」
『本来なら1年と持たないと思うんだが、その子は成体になってどれくらい経つんだい?」
「まだ1週間も経ってません」
『そうか、今のところ、体調に変化はないかい?』
「羽根が生える前と何も変わってません。元気な様子です。少なくとも側から見る分にはですが……」
『なるほど、しかし、楽観的に考えるのは危険だな。人間にとっては人畜無害な存在だから、そのまま放置で良さそうだが、キミにとってはそうでもなさそうだね』
「はい……」
『今更言ってももう手遅れだが、サキュバス化を止めるべきだったね、その子の未来のためには』
「なんとかなりませんか?」
『なんとか?それは、そのサキュバスの子を延命させたいということかい?』
「はい、言い忘れてましたが、その子が、例の双子の夢魔の子です」
『……なるほどねぇ、つまり、キミが夢で生気を吸収された子の片割れがそうなんだな』
「そうです。教えてください!僕は、ずっと彼女と暮らしていくって、決めているんです!」
『そんな急にプロポーズの報告をされてもなぁ』
僕はちゆの純粋な笑顔を想像して悲しくなった。
なんで、ちゆがそんな目に遭わないといけないんだ。
生気を吸収できないことで、犠牲者を作らずに済むことは良いことだ。だが、それによって本人が短命になってしまうのは理不尽過ぎる。
ちゆが何をしたっていうんだ。
彼女はただ、一生懸命、日々を生きているだけだ。
可愛いし、性格も良いし、料理も美味しい。
なんでそんな良い子が低級悪魔なんだ。
酷過ぎるだろう!
……いや、それも違うかもしれない。
ちゆがちゆだからこそ、こういう結果になっているとも考えられる。
生きることに貪欲なことは、美しさとは真逆なのだ。
本来なら、アカリの母親のように、自分の欲望の赴くままに生きているのが普通なのだろう。
だが、もし、ちゆだから短命なのだとしたら、まだ突破口はある。
双子の夢魔
その正体を突き止める。
おそらく、コレが鍵だ。
本来のちゆに何らかのペナルティーが発生しているとすれば、その鎖を断ち切ることで運命を変えられるかもしれない。
『本来なら、方法は無いに等しいが、もし、双子の夢魔が、本当に双子の夢魔であったなら、生存できる可能性はある』
「それは、例の」
『融合だ』
「でも、別個体の可能性もあるんですよね」
『そうだ。ドッペルゲンガーと言っていたが、それだね』
「もし別個体がいたら、本当に他人の空似ということでしか無いんですよね」
『たしかにそうだが、気になる事がある』
「何でしょうか」
『単なる空似だったとしたら、そこまで性格をコピーできるだろうかと思ってね』
「途中で気付きましたけどね。普段とは違うって」
『だが、それでも初めは気付かないくらい似せる事には成功していたということだろう?』
「まぁ、そう言われればそうですね」
でも記憶ごと消えていたからなぁ……。
『何か、本人との繋がりを感じる言葉を発していなかったかい?』
「そんなの……あっ!」
『あるようだね』
「一応、印象的な言葉でしたらありました」
『それは?』
「なんだ、来ちゃったのか、私、低級悪魔のくせに、よくここに入ってこれたわね、って感じのことを言っていたと思います」
『ほほぉ……、なかなか良いヒントだ。そうなると、仮に別個体だったとしても、融合できる可能性は残っている』
「それは、どんな方法なんですか?」
『一応、ドッペルゲンガーについて少し参考資料を漁ったのだが、夢魔とドッペルゲンガーに関しての直接の関連性は出てこなかった。だが、一つ面白い事が分かってね』
「なんですか?」
『夢魔としての個体と、現実の個体は必ずしもイコールではないということだ』
「じゃあ、夢魔のちゆは、現実のちゆとは別の生命体ってことですか?」
『極端に言えばそういう事だ。キミだって、夢の中でどんな大怪我をしようが、目が覚めれば全て消え去っているだろう?』
「そりゃ、夢なんですから、そういうもんですよ。だから夢魔が、生気を吸収するというのもなんだか腑に落ちないんです。現実にいるサキュバスが生気を吸うのは納得できるんですが」
『だろうね。しかし、夢魔は実在するし、実際に夢魔による被害は存在する』
「それで、どうして別の生命体だったら融合できると思うんですか?」
『つまり、その子の生命体が、実体2人、夢魔2人、計4体だとすれば、夢魔の2人が融合したとしても、実体2人に対して、生命体としての影響はないからだ。影響がないなら融合しても問題はない。そういう論理だ』
「そうなると、実体が2人で、夢魔は1人という事になりますが、その場合、夢魔の生気吸収に関してはどうなるんですか?」
『普通に推測すると、実体との繋がりがあるなら、2人に生気が分配されると考えたいところだ。……だが、コレは極めて楽観的な結論だ。場合によっては、片方だけか、最悪実体2人に生気は送られず、夢魔単体で完結する可能性もあるだろう』
「そうなったら、夢魔から生気を受け取ることはできないってことですよね」
『そうなるね』
「じゃあ、その場合は、実体2人は、それぞれが現実で生気を調達しなくては延命できないってことになるということでいいですか?」
『おそらくは』
「そう、……ですか。」
『しかし、今のところ融合できるかどうかに関わらず、生気を手に入れる事ができない状況なのだろう?なら、試す価値はある』
「はい、もうそこに賭けるしか無いように思います」
『キミが望むのであれば、頑張ってみたまえ。ただし、成功したとしても、キミにとって辛い結末が待っているかもしれない。それは分かっているね』
「……承知の上です」
『いいだろう。キミを信じて、私も協力しよう。では、とあるアイテムを、夢に送り込む』
「なんですか?とあるアイテムって」
『まぁコレは、見てからのお楽しみということにしておこう』
「もったいぶる意味が分かりません」
『アハハハ、とにかく、キミが隅影くんと仲良くなれることを祈っているよ』
「僕もそれを望んでいますよ」
『では、私はこれにて失礼するよ。不安があれば、深夜であっても連絡をくれて構わない』
「いえ、たぶん大丈夫です。コレが僕のわがままであることも、重々分かっているつもりですから」
そうだ。ちゆを助けることは、サキュバスを助けるということに他ならない。
それは決して、ケルビン達、天使側にとっては称賛すべきことではないだろう。
なら、僕に協力してくれるケルビンは自らの立場に背いた行動をしていることになる。
そして、それは僕という個人のためにやっていることに過ぎない。
『キミの理想を実現するために、微力ながら手助けをしようとは思っている。是非とも頼りにしてくれたまえ』
「ありがとうございます。もしもの時は、僕を見捨ててもらって構いません」
『随分と覚悟を決めているようじゃないか。1人の天使として、賛辞を送ろう。そして今宵をキミが無事に乗り切る事を願おう。その選択と決意が、より多くの幸福と繁栄をもたらさんことを』
ブッ……っと、電話が切れる。
ケルビンの去り際は良くも悪くも何か演技がかっている。
何かマニュアルでもあるのだろうか?
そんなことを思っていると、後ろから声がした。
「お兄ちゃーん、ごはんできたよー」
ちゆだ。
さっきの会話のせいで、声を聞くだけでなんだか切ない気持ちになった。
ダメだ、急に泣いたりしたらちゆに変な気を遣わせてしまうかもしれない。
耐えなくては。明るく振る舞うんだ。
「今日は何を作ったの?」
「んふふー、豚の生姜焼きでーす!」
白いお皿の上に、キャベツのみじん切りと、豚と玉ねぎの生姜焼きがこんもり乗っている。
盛り付けも綺麗で、豚肉が均等にバランスよく扇形に置かれている。
生姜のいい匂いだ。
食欲が増す。
「美味しそうだね。ちゆちゃん生姜焼きも作れるんだ。凄いね」
「ぇえー、ふつうだよー、味付けは自信あるんだよ」
「どんなとこが?」
「……んとねぇ、絶対にごま油で炒めるとこと、お醤油とみりんの量を入れ過ぎないように調整するとこかな。玉ねぎがあるから、そんな濃くなくても美味しいんだぁ。一応マヨネーズも出しとくねー、欲しかったら使って」
「ありがとう」
なんだかんだで、こだわってるんだなと思った。
それにしてもちゆは本当に家庭的だな。これでサキュバスなんだから、色々規格外過ぎる。
「お味噌汁も飲んでね」
「うん、にしても、ゆかが戻ってこないな」
「そうだね、何してんのかな。ちょっと電話してみるね」
ちゆがゆかに電話する。
「……もしもーし、ゆかさん?」
ちゆが僕に無言で、出た、と指でスマホを指すジェスチャーをした。
「うん、……うん、そっかぁ、もうご飯作ってあるよー、……豚の生姜焼きぃー……、へー、……、そんなことしないよぉ。…………クレープある。……はーい、じゃーね」
電話を切るちゆ。
「どう?」
「秋風さんの話がなんかヘビーなんだって。今秋風さんの部屋にいるみたいで、まだ数時間掛かるって言ってる」
「よもぎが相談してるのか、何の話してるんだろう」
「分かんない。帰ってから食べるから先食べててって言ってた。私の分食べないでねーって。食べるわけないじゃんね」
「そっか。なら、先にいただこう、いただきます!」
僕はちゆちゃんを見ながら両手を合わせる。
ご飯を食べるいただきますもそうだが、今日の行為には、ちゆに対しての感謝の気持ちも大きい。
さっそく豚肉を口にする。
ちょうどいい甘辛さが舌を刺激して美味しい。
すぐに白飯を食べる。
「ちゆちゃん、めっちゃ美味しいよ」
ちゆの顔が嬉しそうにへにょへにょしている。
「ほんとにぃー!うれしー!」
僕は勢いよく平らげる。味噌汁も濃過ぎず薄過ぎず、生姜焼きによく合う。
泣かないつもりだったのに、なんだか涙が出てきた。
すぐ指摘するちゆ。
「あー!お兄ちゃんまた泣いてるー」
「いや、ちゆちゃんの作る生姜焼きが美味しくて、お味噌汁も……おいし、うぅ」
僕は鼻を啜る。
すると、ちゆが自分の生姜焼きのお皿を隣に移動させる。
ん?どうしたのかなと思うと、対面から、僕の左隣に移動してきた。
「お兄ちゃん、隣に行っていい?」
「もう来てんじゃん」
「うん……来ちゃった」
「どうしたの?」
「それはこっちのセリフだよ」
「あぁ、美味しくて涙がこぼれちゃって、大丈夫だよ」
「……うそつき」
ちゆが身を寄せて来て、僕の左肩に頭を乗せる。
左腕を軽く抱き締めるちゆ。
「嘘じゃないよ、生姜焼き、美味しいよ。ちゆちゃんも味見した?こんな美味しい生姜焼き食べたの、人生で初めてだよ」
ちゆの、腕を抱く力が強くなった。
「ちがうよ、生姜焼きのことじゃなくて……うぅ、……ばかぁ」
「……ちゆちゃん?」
彼女の身体が熱くなる。耳も真っ赤だ。
「ばかっ、ばか、ばかー……」
ちゆが強く腕を抱き締める。
僕はほぼ食べ切っている茶碗を机に置くと、ちゆに向き合って軽く抱き締めた。
彼女のおでこが僕の胸にコツンと当たる。
お互いの背中に両腕を回して抱き合う。
何か察したのか、自分の運命を知っているのか、さっきのケルビンとのやり取りが聞こえていたのか、それは分からない。
だが、ちゆが今、僕のことで涙を流していることは確かだった。
泣いているちゆの背中をさする。
彼女の身体が熱くなっているので、何だか暖かくて心地良くなる。
しばらく背中をさすっていると、落ち着いたようだった。
「ちゆちゃん、もう大丈夫?」
「うん、だいじょーぶ」
顔を見ると、涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。
机の上に置いてあるティッシュを取ってあげた。
「はい、顔拭いて」
「ありがど」
鼻をかむちゆ。
ちゆがまた僕を見る。
頬が赤く、涙で濡れていた。
ちゆの可愛い唇が近づいて来た。
ちゅっ、と、優しいキスをする。
数秒、唇を合わせると、ゆっくり離れた。
「へへ、お兄ちゃん、生姜焼きの味するよ」
「……今食べてたからね」
「ちゆも食べるね」
「うん、食べよう食べよう、冷めちゃうよ!」
ちゆがもたれ掛かる。
この体勢で食べるのかと思ったら、何だかもぞもぞしている。
「……お膝座りたいけど、羽根が邪魔だね」
「そっか、……でも、羽根大きいけど、伸ばしたら薄いから座れるよ、やってみて」
ちゆの黒い羽根がバサっと開かれる。
普段畳まれているからそんなに目立たないが、いざ広がるとなかなかの迫力だ。
部屋の中央に仕切りができたかのようだ。
膝に座るちゆ。
意外と重さが無いなと思ったら、両羽根の先が床に当たって固定されている。
たしかに、こうしていれば膝の上に乗っていてもそんなに影響はない。
ちゆに膝に乗られて、サラサラの髪の毛が鼻のすぐ下に来る。
いい匂いがする。
お尻の感触が柔らかくて、温かい。
僕は手をどこに置いて良いか分からず、空中をさまよっていたら、ちゆの可愛い両手に握られた。
ぷにっとして気持ちいいちゆの指で、僕の両手は彼女のお腹の方へ誘導されていく。
「ちゆのこと抱きしめてて良いよ」
僕はそのまま軽くお腹を抱く。
細いが、別に痩せてるという感じではなく肉付きが良い。
性的な感じより、心地いいといった表現が合う。
とは言っても、やはり身体は反応してしまうのだが。
「お兄ちゃん、ちゆの髪の毛の匂い嗅いで大きくなったの?」
「いや、そういうわけでは、無いことはないこともない、ってことも無いんですが」
「あるじゃん!」
「……はい」
「ちゆ、今ご飯中なんだからね、そういうのはあとでだよ」
ちゆがお尻をぐりぐり動かしてくる。
胸がドキドキ高鳴る。
ダメだ。そういうことではない。
とにかく、冷静にならなくては。このままでいいわけはない。
「お兄ちゃん、さっき、ちゆの寿命のこと聞いてたよね」
ドキッとする。
さっきの胸の高鳴りとは全く違う、焦り。
どこから聞いていたんだろう。
「えっと、なんだっけ?そんな話してた?」
「してた。とぼけてもダメ。あんな近くで話してるのに聞こえない方が変でしょ。それに声大きいし、わざとかと思っちゃった」
必死過ぎて声のボリュームが出過ぎていた。失敗だ。
「そんなわけないよ。無意識だった。ごめん、不安にさせちゃったよね」
「ううん、いいの。ちゆもちょい気にしてたから。低級悪魔って、何だろうって……、でも、やっと分かった。そういうことだったんだ」
「ちゆちゃん、心配ないよ。僕が何とかするから」
「ありがとう。でも、ちゆのためにお兄ちゃんが犠牲になることはないよ」
「……なんてこと言うんだ」
「ちゆね、本当言うと、お兄ちゃんとゆかさん、お似合いだと思ってるの」
「何を今更そんなこと」
「あのね、ちゆがいない方が、お兄ちゃん、ゆかさんと幸せになれるって思ってて」
「なんでそんなこと言うんだ!……やめてくれよ」
「ゆかさんが天使だって分かった時に、思ったの、お兄ちゃん、もうサキュバスなんかと関わらなくて良いじゃんって」
「……それ以上、言わないでくれ」
僕は涙が溢れてくる。
止まらない。
どうやって涙を止めればいいのか全くわからなかった。
ただただ悲しかった。
「……んとね、ちゆは、お兄ちゃんに転校して欲しいと思ってるの。ゆかさんと一緒に……、そうすれば、ゆかさんは天使だから、人間のお兄ちゃんと、楽しく暮らせると思うんだ。天使と一緒だったら、たぶん、サキュバスに捕まっても、何とかして貰えると思うし、ゆかさんのことだけを愛していれば、危険な目には遭わないでしょ?」
「ちゆちゃん……」
「ちゆね、このまま生気とか吸えなくていいから、誰も傷付けずにいなくなりたい……、そうすれば、ちゆは、ちゆのことを嫌いにならずに済むから」
「もうやめろっ!!!!」
僕はちゆに怒鳴った。
ちゆを座らせて立ち上がる。
唖然として僕の顔を見つめるちゆ。こんな表情を見るのは初めてだ。
僕はちゆを見下ろして叫んだ。
「僕が何とかするって言ってんだっ!!」
「……おにい、ちゃん?」
「お前は黙って生きていろっ!!!!」
ビクッと身体を震わせ、持っていたお箸を落とすちゆ。
ちゆがコクコク頷いている。
めちゃくちゃ怯えている。
「うん、うん、うん、ごめんなさい、ちゆ、生きてる……」
「本当か!?僕に黙って勝手にいなくなるなよ」
「分かった。ここにいる。ちゆしなない」
「よし!」
座り直すと、再びちゆを膝に座らせた。
すると、ちゆの身体がビクビクしている。
怒鳴り過ぎたのかもしれない。
「ちゆちゃん、お箸、新しいやつ使おう、ハイ」
「あ、あ、あ、ありがと」
ちゆはお箸を受け取るが、まだビクビクして落としてしまう。
「ごご、ごめんなさい、ちゆ、不器用で」
「いや、別に不器用とか、そういう事じゃないでしょ、僕が悪いよ、ごめん」
「お兄ちゃん、怒ると怖いよ」
「僕もそんなつもりじゃなかったんだけどね」
「うん、ちゆ、生きてるからね」
「当然だよ」
僕はちゆの頭を撫でた。
ビクッと、ちゆが反応する。
「ちゆちゃんどうしたの?」
「殴られるかと思った」
「そんなことするわけ無いでしょ、何で?」
「……分かんない」
ガチャっ、と、ドアが開く音がした。
「たーだいまー!!」
ゆかだ。
元気な声。
よもぎの相談は上手くいったんだろうか?
ゆかは手に大きな紙袋を3つほど持って現れた。
服でも買ったんだろうか。アカリもそうだが、今日は何かセールでもやってたのかな。
「わー、いい匂いー、ちゆちゃん特製の生姜焼きの匂いだね!はぁー、お腹すいた!早く食べたーい」
ゆかがベッドの脇に紙袋を置く。
すると、僕らの様子を見て、不思議に思ったようだ。
「あれ?ちゆちゃん、大丈夫?顔真っ青だよ、セイシくん、ちゆちゃん体の調子悪いの?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど、ちょっとね。それより、生姜焼き食べよう。凄い美味しいから」
「そう?ま、それならいいや、あとさ、クレープも買ってるんでしょ?苺キャラスペ、新作だから楽しみだったんだー、お風呂入ってから食べよー」
ゆかはいつもと変わらない調子で、ご飯とお味噌汁を準備して、ふつうに食べ始めた。
「ふーん、おいしー、生姜焼き最っ高ぉ!定食屋で食べるレベル超えてるわ、ちゆちゃん今度作り方教えてねー」
「……うん、ゆかさん、……ちゆのレシピ、ぜんぶ教えてあげるね」
ちゆがボソボソ喋る。こんなちゆは珍しい。
「ええー!そんなそんな、悪いですよちゆ大先生!私なんて生姜焼きさえ作れれば大満足なんだからっ、あーん、お味噌汁も沁みるわー、お婆ちゃんの味って感じ。ちゆちゃん小さいけどねっハハ」
なんだか、いつもと構図が反対になっているような気もするが、今はとにかくちゆを何とかすることで頭がいっぱいになっていた。
⭐︎
さて、ここは……どこだ?
どこかの倉庫にいるようだ。
ゆかとちゆがお風呂に向かったあと、ベッドに寝転がったら一瞬でこの倉庫で目が覚めた。
熟睡。
たぶん、きらりのことや、月富ラナとのいざこざ、それに、ちゆのことで精神的に極限状態で寝転がったから、即眠りに落ちたのだろう。
幸いなことに、記憶が混濁している様子もない。
明晰夢というヤツだろうか。
寝る前の状況が分かる分、今日の夢はそれほど恐怖心はない。
問題は、この倉庫が何なのかという事だ。
僕の記憶には無い場所だから、おそらく別の人間、ではなく、夢魔の影響を受けていると思っていいはずだ。
楽観的に考えれば、おそらく隅影 真凛の夢の中。
そうでなければ、ちゆちゃんか。
だが、ちゆの夢空間でこんな場所が生成されるというのは何だか腑に落ちない。
もう1人の上級悪魔のちゆかもしれない。
だが、今回はむしろ上級悪魔のちゆに会いたい。
もし、融合が可能なら、1日でも早く融合してもらいたいのだ。
できるなら、昨晩の僕の生気を実体へ送ったのかどうかも知りたい。
実体がいなければそれで良いし、いたとしても、生気の共有ができていれば望みはある。
それにしても、まりんとはどうやって合流すれば良いのだろうか。
とりあえず、倉庫の中を散策してみよう。
見た感じ、かなり広い倉庫で、ほとんど何も置いてないところを見ると、ほぼ全てが作業スペースということだろう。
夢空間でこの広さは、何だか嫌な予感がする。
巨大な怪物が突然現れても逃げ場がない。
走って追いつかれたらおしまいだ。
単なる夢なら、追いかけられる夢など見飽きているくらいだが、凶悪な夢魔にでも捕まったら、一生目覚める事ができないかもしれない。
とにかく、調査あるのみだ。
一応、道具入れのような鉄製のボックスがいくつも散見できる。
中にはペンチやドライバー、レンチ、ナットなどがガチャガチャと入っていた。
コレは、……誰の夢だ?
金属の音が天井に響く。外は昼過ぎくらいだろうか。
このまま何も起こらずに現実で朝になってくれても構わないが、不気味な静けさに背筋が凍る思いだ。
ひと通り一周して、倉庫の中央辺りであぐらをかいて座った。
そういえば、ケルビンが何かを夢に送り込むと言っていたが何だろう?
そもそも、夢に何かを送り込めるなら、連絡を取れても良いんじゃないかと思うが、無理なのだろうか。
それとも、これから来る道具がそれなのか?
わからない。
ケルビンも何を考えているのか本心は読めないところがあるため、若干の不安はある。
さすがにここまできていきなり裏切るようなことはしないだろう。
まぁ、実際問題、僕の方が裏切り行為に近いことを考えているわけだが……。
すると、背後でガシャガシャと、シャッターが開く音が聞こえた。
ん?
まりんか?
「お兄ちゃん!?」
バタバタと全力で走ってくる見慣れた姿のちゆ。
背中に悪魔の羽根が思いきり見えているから、多分いつものちゆだ。
羽根を広げ過ぎたのか、一度ちゆの身体が舞い上がった。
「だあー!!飛んじゃうよぉー!わぁああああー」
ふわーっ、と、高い倉庫の天井で宙を舞う黒い翼の美少女。
飛んじゃうって言ってほんとに空を飛ぶ女の子を初めて見た。
そもそも、全力で走って間違えて飛ぶというシチュエーションがなかなかレアだ。
客観的には笑ってしまいそうになるが、本人は必死だ。
僕は見上げて、飛んだちゆの動きを目視で確認しつつ、手招きした。
「オーライ、オーライ、ちゆちゃんっ、僕の腕の中へおいで!」
ちゆが僕と目を合わせ、少し恥ずかしそうに頷く。
「お兄ちゃあーんっ、大好きー!!」
ふわーっと、羽根を大きくバタつかせながら、僕の胸にダイブするちゆ。
勢いよく抱きかかえ、軽く尻餅をつく僕。
ちゆが僕の腕の中でモゾモゾ動いている。
「……大好きって、急にどうしたんだよ」
彼女の顔を見ると、頬が赤くなって、かなり照れている。
それを見て僕も恥ずかしくなった。
「ちゆね、お兄ちゃんのこと好きだなぁって、ゆかさんに言ったの」
「そうなんだ、それで?」
「そしたら、知ってる、って言われちゃった」
「あはは、そうだね、ゆかならそう言うよね」
「でね、ゆかさんに許可貰ったの」
「なんの?」
「お兄ちゃんのこと好きでも良いよって」
「どういうこと?」
「ちゆね、悪魔だから……」
「もうその話は良いよ、僕だってちゆのこと大好きなんだから」
「へへ、ほんとぉ?」
「なんで疑うんだよ、あんなに怒ったのに」
「ちゆに、命を大事にしなさいって怒ったんだと思った」
「……まぁ、間違いではないけど、とにかく、僕とちゆちゃんは、運命共同体なんだ」
「うんめいきょうどうたい?」
「そそ、一心同体って言ってもいい」
「そーなの?」
「そう、だから、一緒に生きてく道を探そう」
「うん、だね、実はね、嬉しかったんだぁ」
「なにが?」
「お兄ちゃんが、ちゆとずっと暮らしていくって決めてるって言ってくれて」
なるほど、そこ、聞いていたんだ。
「聞かれてたか」
「うん、そこまでは、そんなに聞いてなかったんだけど、ちゆと暮らしていくってとこから、凄い聞いてた」
「……そうなんだ」
「ふふふー、お兄ちゃん、ちゆと暮らしたいんだぁ」
僕のお腹に頭をグリグリ押し付けるちゆ。
勢いで話してたけど、こんなに喜んでくれていたとは思いもしなかった。
「あぁ、2人でがんばろうな」
「うん」
……と、その瞬間だった。
バリーン!
っと上の方でガラスが割れる音が聞こえると、何か空中でくるくる回っている。
「お兄ちゃん!何アレ!?赤い球がグルグル回ってるよ!」
「確かに!?回ってる!逃げるよ」
僕は立ち上がり、ちゆの手を引くと、さっきちゆが入ってきていたシャッターのある入り口へ走ろうとした。
すると、赤い球がブォンっと、風を切って僕らの前方へ弧を描いて移動し、目の前へ降りてきた。
「わぁ!おにーちゃん!上からなんか来たっ!!!」
「ちゆちゃん、伏せて」
僕はちゆの前方に立つ。
ちゆは自分の頭を両手で抱えて座り込む。
すると、赤い球が、突風を引き起こしながら、目の前に落ちてきた。
ズドンッ!!!
床に落ちた勢いが凄くて、音が鳴り響き、遠くでまた反響するのが聞こえた。
なんだ?
人?
女の子?
狼狽える女性の声が耳に入った。
「……うそ、あなた、……アドニス?」
間違いない。
隅影 真凛
この子が、ケルビンが寄越したサキュバスの助っ人だ。
ちゆが怯えてヒィーヒィー言っている。
「隅影、真凛さん、……ですね?」
「……ええ、そうだけど、悪魔の羽根が見えたから追ってきたのに、まさかアドニスの仲間だったなんて」
どうやら、僕は無事にまりんと合流することに成功したようだ。
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