異世界で推しごと中!

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異世界で推しごと中!

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 『目玉の魔女』の使い魔は6匹のイビルアイだと同盟軍の誰もが思っていた。彼女の魔法の師であるミレディでさえ、キャロットの使い魔は6匹だけだと思いこんでいた。が、それは大きな間違いである。
 キャロットの使い魔はすでに100匹を超えている。それも全て、イビルアイだ。

 普段、キャロットが連れているイビルアイは普通個体であり、彼女が今、訓練を施している途中のものたちだ。それとは違い、彼女のそばにいないイビルアイたちは、姿特異個体ばかりだ。そのため、契約者であるキャロット以外には、その姿が見えない。

 特別な訓練を積むことで、雑魚魔物と思われていたイビルアイは透明化する能力を得る。キャロットがイビルアイのその特異な性質を見つけたのは、彼女の執拗な想いからであった。

(推しに気付かれることなく、推しのプライベートを見たい!!!)

 キャロットの邪な野望が、それを実現した。
 そもそもの発端である彼女と推しの出会いから回想しよう。

 キャロットと推しの出会いは、囂々と炎が燃える戦場だった。若干5歳だったキャロットは、生まれた村を襲う魔族の中に彼を見つけた。その時はまだ、一介の雑兵でしかなかった、銀色の髪と青い瞳を持つ魔族の少年。
 彼の姿を一目見て、キャロットの体に衝撃が走った。

(嘘でしょ……まゆしーにそっくり……!!!)

 実はこのキャロット、この世界に生まれる前は、『まゆしー』という男性アイドルを推していた生粋のアイドルオタクだった。
 まゆしーのコンサートに初参戦! そんな幸福の絶頂とも言える時期に、不運の事故死。キャロットは生きる屍となって、この剣と魔法の世界に生まれ落ちた。初めて推しを生で拝めるチャンスを奪われ、その上、異世界に転生したことで、一生、まゆしーに会えなくなったキャロットは、生まれたと同時に生きる意味を失った。

(もう、キラキラの舞台で、華麗に踊るまゆしーの姿を見ることはできないんだ。
 バラードもラップもなんでも上手に歌えちゃう、魅惑のまゆしーボイスも聴けないんだ。
 まゆしーの旅企画も観ることができないんだ……まだ、観てる途中だったのに……)

 異世界の寂れた田舎の農村で、夢も希望も推しもなく、朽ちる人生だと思っていた。

 そんな時に、煌めく炎を背負って、まゆしーそっくりな魔族が現れたのだ。
 それも、同じ空間に、肉眼で確認できるほどの近さで。なんなら、キャロットと、キャロットを庇う母を斬り伏せようと、剣を振りかぶるくらい近くに、彼はいた。

 特徴的な釣り上がった細い目に、ふっくらとしたほっぺを持つ男の子。それがまゆしーだった。人によっては「え? この人かっこいいの?」と言われてしまう、まゆしーだったが、前世キャロットにとっては、まさにどストライク。

(あなたの剣のサビになりたい……!)

 推し似の魔族に殺されるのなら本望。
 次は元の世界に生まれ変わらせて下さいと願いを込めて、両手を胸の前で握るキャロット。が、キャロットの願いも虚しく、1人の男が立ち塞がった。
 男は魔族の少年の剣を振り払う。

(何してんだ、テメー!!!)

 思わず心の中で悪態をつくキャロットには気づかず、シルバーの鎧に身を包んだ男は言う。

「ここはオレに任せろ! 今のうちに逃げるんだ!!」

 母親は、震える足を自身の手で殴りなんとか立たせ、キャロットの手を引いて走り出す。

(あ、せっかく見つけた推しが!!!)

 キャロットは母親の手を逃れようとしたが、子を守ろうとする母親の力は強かった。
 母親に手を引かれながら、キャロットは振り返る。

(生きて、推し……! そして、おっさん!! 推しを殺したら、お前だけは絶対に許さんからな!!!)

 眼光鋭く男を睨みつけ、キャロットは両親と共に、命辛々、村から逃げ出すことに成功した。
 のちに避難した村で、キャロットと母親を助けてくれたのが勇者で、村を襲った魔物のを多くを討ち損じ、村が魔族に奪われことを知った。

(推しは、きっと生きている!!)

 絶望に打ちひしがれていた異世界に、希望を見つけたキャロットは、根拠もなくそう思った。いつ死ぬかわからない戦場に身を置く、しかも敵対する魔族に推しを見つけた。
 彼が生きていることに賭け、キャロットは、自分も戦場に行くことを決意したのだった。
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