4 / 17
ダイエットサプリ3
しおりを挟む
[ファット@語り部 20XX年6月15日 21:21]
こんばんは、今日も語らせていただきます。
扉が開いたKの部屋から、不快な臭いが漂ってきます。私は戸惑いながらも、細く開いた扉を押して開けました。油っぽい、なんとも言えない臭いに顔を顰めつつも、カーテンが閉め切られて暗い部屋に入っていきます。
背後で、Kの母親が去っていく足音が聞こえました。
Kの部屋は荒れていて、床にはペットボトルや、空になったお菓子の袋や箱、コンビニ弁当の空箱が折り重なるように堆積していました。
澱んだ空気の中心にKがいました。散らかり放題の床に座り込んでいるKは、しばらく風呂に入っていないのか、髪はギトギトと光り、フケが浮いて絡まっています。
「K、どうしたの?」
私の声に、Kの体がびくりと震えました。暗くてよくわかりませんが、リバウンドをした様子もなく、体は細いままでした。地元を離れて慣れない生活をして、心を壊してしまったのかもしれない。私は努めて明るく話しかけました。
私が痩せてから、Kに会うのは初めてでした。私はクルリと回って、Kに言いました。
「見て、K。私もKに教えてもらったサプリで、こんなに痩せちゃったの! 教えてくれてありがとう!」
私は改めて、Kに感謝を伝えました。それでもKは体を少し揺らしただけで、こちらを見ようともしません。私は悲しくなり、次に怒りが湧いてきました。
優しく明るいKが、こんなにもふさぎ込んでしまう原因に対しての怒りが湧いてきたのです。それが専門学校なのか、そこでできた友人なのかはわかりませんが、このまま、Kをそっとしておくことなんてできません。私はピシャリと自分の頬を叩き、座り込むKの横を通って、窓辺に近づきました。
「こんな暗い部屋にいたら、元気でないよ!」
そう言って、カーテンと窓を開けました。新鮮な空気が部屋に入ってきて、嫌な臭いが薄れます。
「あ、あ」
Kが声を出しました。反応があったことが嬉しくて私はKを振り返りました。
昼間の明るさの下、私の目に映ったKは真っ黒でした。顔も腕も足も、ペンキを塗ったように真っ黒です。その中で白目だけが、浮き上がるように白く見えました。
雲が切れ、太陽の光がKの体に当たると、カサカサと音が鳴って、Hの黒い体が波打つように震えました。そして、黒いものがKの体から一斉に飛び立ったのです。
それは虫の群れでした。
開けた窓に向かって黒い群れが飛んできます。窓には網戸がありますから、窓に向かって飛んできても、それは外に出られません。それに窓の前には私がいます。
私は間一髪で飛んできたものを避けました。網戸にぶつかった虫たちがバラバラと弾けるように床に落ちていきます。私は恐怖のあまり、部屋を出ようとしました。そこで気づいたのです。
Kがいない。
さっきまで、床に座り込んでいたはずのKの姿が、部屋のどこにもなかったのです。私はとにかく部屋を出て、虫の群れが出てこないよう、扉を勢いよく閉めました。廊下をKの姿を探しながら小走りに駆け、階段を降りて、リビングに向かいます。
リビングにはKの母親が、ポツンと座っていました。
「あの、Kは」と訊く私に、母親は首を傾げます。
「K、部屋にいなくて」
母親と一緒にKの部屋に戻ります。
「Kの部屋に、虫が出て、私、慌てちゃって、そしたらKがどこにもいなくて」
混乱する頭で説明しましたが、母親は首を傾げるばかりです。Kの部屋に入ると、やっぱり黒い虫の群れが天井近くを飛んでいました。嫌な羽音が、部屋に響いています。
Kの母親は「だから部屋に食べ残しを置いてちゃダメって言ったのに」とヒステリックに言いながら、網戸を開けました。虫の群れが、それに気づいたかのように、窓の外に飛んでいきます。
母親はどこから取り出したのか、殺虫スプレーをあたりに撒き、残っている虫を全部、部屋から追い出しました。その後、母親と一緒に、Kを探したのですが、Kは家のどこにもいませんでした。
「虫に驚いて、慌てて家から飛び出したのかも……」
私はKの母親にそう言いました。心配げな母親を残して、私はKの家を後にしました。帰り道、私は震えて、うまく歩けませんでした。
Kの母親にはああ言ったものの、私はあの虫たちがKの体から出てきたように見えて仕方なかったのです。
勘違いだ、見間違いだと思おうとしても、どうしても、Kの体を覆っていた、真っ黒な虫たちの光景が頭から離れません。あれは、体から出てきたと言うよりも、Kの体を形作っていたのが虫たちだったような……
それから数日経って、Kの母親から、Kの捜索願いを出したと連絡がありました。仲の良かった私には、Kから何か連絡があるかもしれない。その時は教えてくださいと言われました。
Kがいないということが、いまだに信じられません。Kの体を覆っていた虫の羽音が、耳に残っていて、時々、頭から離れなくなります。
私からの話は以上です。
[枯れたサボテン 20XX年6月15日 21:59]
うーん……Kは虫になったってこと?
だとしたら嫌すぎる。
[ファット@語り部 20XX年6月15日 22:04]
体験した私自身、よくわかっていなかったのですが、ここで語る機会を得て、思い出しながら書いていて、やっぱり、Kはもう戻ってこないのだなと、理解しました。
ありがとうございました。
[ゆいちゃん 20XX年6月15日 22:06]
ねえ、ゆいちゃん思ったんだけど、それって、ダイエットサプリが原因じゃないの……?
ゾゾゾ! 怖すぎ!
[ミイラ男は透明人間@管理人 20XX年6月15日 22:09]
ファットさん、お疲れ様でした。
貴重な体験を語っていただき、ありがとうございました。
[ファット@語り部 20XX年6月15日 22:15]
こちらこそ、ありがとうございました。
Kがいないことを受け入れるのは辛いけれど、気持ちに区切りをつけることができたような気がします。
[トイレの華子@管理人 20XX年6月15日 22:18]
ファットさん、お疲れ様でした。少しでも辛い気持ちが楽になりますよう、願っています。
[コッケイ 20XX年6月15日 22:27]
もし、これが本当の話なら、今すぐにでもそのダイエットサプリの品名と販売している会社を公表すべき。
フィクションだとしたら、あなたに拍手を。
[夕暮れ 20XX年6月16日 00:03]
虫、苦手なので、怖すぎる。虫の正体がなんにしろ、突然、部屋に虫の群れとか、無理。Kのお母様が強すぎる。
こんばんは、今日も語らせていただきます。
扉が開いたKの部屋から、不快な臭いが漂ってきます。私は戸惑いながらも、細く開いた扉を押して開けました。油っぽい、なんとも言えない臭いに顔を顰めつつも、カーテンが閉め切られて暗い部屋に入っていきます。
背後で、Kの母親が去っていく足音が聞こえました。
Kの部屋は荒れていて、床にはペットボトルや、空になったお菓子の袋や箱、コンビニ弁当の空箱が折り重なるように堆積していました。
澱んだ空気の中心にKがいました。散らかり放題の床に座り込んでいるKは、しばらく風呂に入っていないのか、髪はギトギトと光り、フケが浮いて絡まっています。
「K、どうしたの?」
私の声に、Kの体がびくりと震えました。暗くてよくわかりませんが、リバウンドをした様子もなく、体は細いままでした。地元を離れて慣れない生活をして、心を壊してしまったのかもしれない。私は努めて明るく話しかけました。
私が痩せてから、Kに会うのは初めてでした。私はクルリと回って、Kに言いました。
「見て、K。私もKに教えてもらったサプリで、こんなに痩せちゃったの! 教えてくれてありがとう!」
私は改めて、Kに感謝を伝えました。それでもKは体を少し揺らしただけで、こちらを見ようともしません。私は悲しくなり、次に怒りが湧いてきました。
優しく明るいKが、こんなにもふさぎ込んでしまう原因に対しての怒りが湧いてきたのです。それが専門学校なのか、そこでできた友人なのかはわかりませんが、このまま、Kをそっとしておくことなんてできません。私はピシャリと自分の頬を叩き、座り込むKの横を通って、窓辺に近づきました。
「こんな暗い部屋にいたら、元気でないよ!」
そう言って、カーテンと窓を開けました。新鮮な空気が部屋に入ってきて、嫌な臭いが薄れます。
「あ、あ」
Kが声を出しました。反応があったことが嬉しくて私はKを振り返りました。
昼間の明るさの下、私の目に映ったKは真っ黒でした。顔も腕も足も、ペンキを塗ったように真っ黒です。その中で白目だけが、浮き上がるように白く見えました。
雲が切れ、太陽の光がKの体に当たると、カサカサと音が鳴って、Hの黒い体が波打つように震えました。そして、黒いものがKの体から一斉に飛び立ったのです。
それは虫の群れでした。
開けた窓に向かって黒い群れが飛んできます。窓には網戸がありますから、窓に向かって飛んできても、それは外に出られません。それに窓の前には私がいます。
私は間一髪で飛んできたものを避けました。網戸にぶつかった虫たちがバラバラと弾けるように床に落ちていきます。私は恐怖のあまり、部屋を出ようとしました。そこで気づいたのです。
Kがいない。
さっきまで、床に座り込んでいたはずのKの姿が、部屋のどこにもなかったのです。私はとにかく部屋を出て、虫の群れが出てこないよう、扉を勢いよく閉めました。廊下をKの姿を探しながら小走りに駆け、階段を降りて、リビングに向かいます。
リビングにはKの母親が、ポツンと座っていました。
「あの、Kは」と訊く私に、母親は首を傾げます。
「K、部屋にいなくて」
母親と一緒にKの部屋に戻ります。
「Kの部屋に、虫が出て、私、慌てちゃって、そしたらKがどこにもいなくて」
混乱する頭で説明しましたが、母親は首を傾げるばかりです。Kの部屋に入ると、やっぱり黒い虫の群れが天井近くを飛んでいました。嫌な羽音が、部屋に響いています。
Kの母親は「だから部屋に食べ残しを置いてちゃダメって言ったのに」とヒステリックに言いながら、網戸を開けました。虫の群れが、それに気づいたかのように、窓の外に飛んでいきます。
母親はどこから取り出したのか、殺虫スプレーをあたりに撒き、残っている虫を全部、部屋から追い出しました。その後、母親と一緒に、Kを探したのですが、Kは家のどこにもいませんでした。
「虫に驚いて、慌てて家から飛び出したのかも……」
私はKの母親にそう言いました。心配げな母親を残して、私はKの家を後にしました。帰り道、私は震えて、うまく歩けませんでした。
Kの母親にはああ言ったものの、私はあの虫たちがKの体から出てきたように見えて仕方なかったのです。
勘違いだ、見間違いだと思おうとしても、どうしても、Kの体を覆っていた、真っ黒な虫たちの光景が頭から離れません。あれは、体から出てきたと言うよりも、Kの体を形作っていたのが虫たちだったような……
それから数日経って、Kの母親から、Kの捜索願いを出したと連絡がありました。仲の良かった私には、Kから何か連絡があるかもしれない。その時は教えてくださいと言われました。
Kがいないということが、いまだに信じられません。Kの体を覆っていた虫の羽音が、耳に残っていて、時々、頭から離れなくなります。
私からの話は以上です。
[枯れたサボテン 20XX年6月15日 21:59]
うーん……Kは虫になったってこと?
だとしたら嫌すぎる。
[ファット@語り部 20XX年6月15日 22:04]
体験した私自身、よくわかっていなかったのですが、ここで語る機会を得て、思い出しながら書いていて、やっぱり、Kはもう戻ってこないのだなと、理解しました。
ありがとうございました。
[ゆいちゃん 20XX年6月15日 22:06]
ねえ、ゆいちゃん思ったんだけど、それって、ダイエットサプリが原因じゃないの……?
ゾゾゾ! 怖すぎ!
[ミイラ男は透明人間@管理人 20XX年6月15日 22:09]
ファットさん、お疲れ様でした。
貴重な体験を語っていただき、ありがとうございました。
[ファット@語り部 20XX年6月15日 22:15]
こちらこそ、ありがとうございました。
Kがいないことを受け入れるのは辛いけれど、気持ちに区切りをつけることができたような気がします。
[トイレの華子@管理人 20XX年6月15日 22:18]
ファットさん、お疲れ様でした。少しでも辛い気持ちが楽になりますよう、願っています。
[コッケイ 20XX年6月15日 22:27]
もし、これが本当の話なら、今すぐにでもそのダイエットサプリの品名と販売している会社を公表すべき。
フィクションだとしたら、あなたに拍手を。
[夕暮れ 20XX年6月16日 00:03]
虫、苦手なので、怖すぎる。虫の正体がなんにしろ、突然、部屋に虫の群れとか、無理。Kのお母様が強すぎる。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
4
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる