ステータス、SSSじゃなきゃダメですか?~クソザコステータスの人間が魔王軍に加入させられたら~

シュリ

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第二章

第二十三話

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「……フン、臭うな」


  ボソリと呟かれたヴェルゼルの言葉に、ヴィルヘルムは内心で肩を震わせる。

  もしや竜人特有の鋭敏な感覚で、自身の残骸の残り香を感じ取られてしまったか。それとも服に臭いが残ってしまっていたのか。原因は色々と考えられるが、いずれにしても不味い事態であることには変わりない。

  斯くなる上は刺し違えてでも、とヴィルヘルムは見当はずれの悲壮な決意を固めるが、当のヴェルゼルは竜車とは全く違う方角を向いていた。


「こっちを覗き見してやがる臆病者の気配がプンプンしやがる。一人、二人……いや、もっと多いか?  どれにしても、天魔将軍を相手にするにはちょっとばかり……いや、随分と数が少ねェみたいだが」


  ヴェルゼルが嘲笑の色をその美貌に浮かべると、唐突に腕を一薙ぎする。

  たった一振り。それだけのただ何気無い動作一つで、世界には変化が訪れた。

  腕を振るった衝撃により空気中に生まれた波が、恐ろしい凶器となって吹き荒れる。ヴェルゼルより前面の地面は、まるで竜巻が通り過ぎたかのように抉り取られ、その勢いは留まる事無く一気に前方へと駆け抜けて行く。

  そして遅れて響く、空気を割く轟音。音すら置き去りにしたヴェルゼルの一撃は、まさに伝説における『竜』の名前に相応しいものだった。


「ケッ、他愛ねェな。所詮はチョロチョロと逃げ回るネズミ共。オレの一撃に耐えられる程の力はねェってか?」


  そして、世界を変える暴風が吹き荒れた跡には、先程までは居なかった筈の男達が立っていた。

  皆一様に腕を前に構えながら、肩で息を吐いている。装備もボロボロになっているところを見ると、どうやらヴェルゼルの一撃が相当に効いているようだ。

  余力も無さそうな彼らを睥睨し、ヴェルゼルは凶悪に笑う。


「あんだけ巨大な魔方陣だ、いくら発動対象を絞ろうともどうしても誤差が出る……大方テメェらは起爆役ってトコなんだろ?」


  彼女の言葉に、男達は何も答えない。だが、その表情を見ればヴェルゼルの予測が当たっているであろうことは容易に想像できた。


「オレ達が魔方陣に踏み込んだところまでは良かったが、そこでヴィルヘルムが気付いたから慌てて起動させた……だが、あの距離ならオレだけでも十分に竜車を支えられる。運が無かったな?」

「その薄汚い口を閉じろ魔人風情が……ありもしない想像をペラペラと!」

「おっと、口調だけは一丁前だな……まあ、それとテメェらの隠密センスだけは認めてやってもいい。オレが意識して探さなけりゃ見逃してたかもな」


   だがよーーと、ヴェルゼルが呟く。その瞬間、彼女の姿が蜃気楼のように消え去った。

  いや、消えたのでは無い。

  目にも留まらぬ速さ、というのは口で言うのは易いが体現するのは難しい。しかし、ヴェルゼルにとってそれは口で語るよりも易いことである。

  背の翼による一瞬のはためきが、突風となって辺りを包む。まさに暴風と呼ぶに相応しい勢い。

  そして、気づけば彼女は男達の背後へと陣取っていた。


「それでもオレの方がツエーんだよニンゲン風情が!!」

「なっ……!?」


  不運にも狙われた男は、慌ててヴェルゼルの一撃を防ごうとする。だが、彼女の一撃の前にそのガードは意味を成さない。
 あるいは彼が防御職向きのスキルや訓練でも積んでいれば結果は分からなかったが、あくまで男は暗部としての隠密訓練を受けた者。総合ステータスもSランクと、到底ヴェルゼルには届くはずがない。

 故に――彼の抵抗は一切の無駄、と表現する他になかった。


「ハッ――それがガードかよ? 笑わせるぜ」


 両腕をクロスさせる、その程度の防御では彼女の前には紙くずに等しい。

 ガードの上から鉤爪を凶悪に開き、思い切り鷲掴み。無理やりにそれを剥ぎ取ると、反対側の鉤爪をナイフのように揃え、一息に突き立てる。

 ザク、という存外に軽い音とは裏腹に、鉤爪は深々と男の胴体へ突き刺さる。


「あ、が……」

「残念だったな? ま、恨むんならテメェの弱さを恨みな」


 口の端からゴポリと流れ出す粘度の高い液体。男が驚愕と絶望の色を浮かべる様をヴェルゼルは興味なさ気に一瞥すると、男の体を蹴り出して血に塗れた爪を一振りする。

 ドサリと倒れ伏した彼を中心に、一気に左右へ広がる男達。そんな彼らを横目に見回すと、ヴェルゼルは退屈そうなため息を付く。


「つまんねェな……こっちの領土じゃ殆どやり合う相手が居ねェってのに、将軍になってからは肝心なニンゲンと戦う機会も減っちまった。だからよ、テメェらには正直期待してたんだぜ? もしかしたらオレを楽しませてくれるんじゃねェかってな」


 肩を竦め、心底残念そうに呟くヴェルゼル。それは彼女が心の内で押しとどめていた闘争本能の発露、あるいは苛立ちが思わず口から漏れ出た結果であった。


「それが何だ、蓋を開けて見りゃ結局いつもの雑魚共……いや、下手すりゃ何時もの奴らの方が強いか? まあ底辺同士のランク付けになぞ興味はねェが、何にしても歯ごたえなさすぎ」

「き、貴様言わせておけば……!!」

「よせ、乗るな!」


 ヴェルゼルの度重なる暴言に遂に堪忍袋の緒が切れたのか、一人が仲間の制止も聞かず一気に飛び掛かる。

 先ほどの惨状を見て、尚も接近戦を挑もうとするその精神は流石だが、それは勇気は勇気でも蛮勇と言う外ない。怒りは恐怖を塗りつぶせるが、同時に理性をもかき消す諸刃の剣でもあるのだ。

 腰元の剣を抜き払い、ヴェルゼルの元へと駆ける男。咆哮を上げることで自身の士気を高め、力を高める。その行為自体は悪くないが、如何せん相手が悪かった。

 退屈そうな表情を浮かべたヴェルゼルは、その様を冷静に見下す。


「おおおおおおおお!!!」

「……ハァ、やっぱお前ら、センスねェよ」


 戦場に高らかに響く、硬質な金属音。

 その音は人体に当たったにしては余りに固く、そして異質な音だった。


「な……」

「効かねぇな」


 ガシリと自身の体に叩きつけられた剣を握りしめるたヴェルゼルには、全く攻撃が効いたような素振りは無い。鱗には傷一つなく、身じろぎすらしない。


「甘ェ、ぜんっぜん甘ェよ。その程度の力じゃ、このオレには傷一つ付かねェって事くらい分かれよ」


 さらに彼女が力を込めると、堅牢なはずの剣にピシリと罅が入る。


「う、あああああああああ!!!」

「んだよ、遂に発狂か? ったく、理性のねェ奴との戦いは面白くもなんともねェんだがな…‥」


 遂に徒手で掛かってきた男を前に、雑なテレホンパンチを放つヴェルゼル。

 だが、たったそれだけで男の首は飛沫となって跳ね飛ぶ。単純と侮るなかれ、例え軌道が分かりやすくとも、それは避けきれる速度ではない。

 その様は最早戦闘と呼べるほど高尚なものでは無く。ただ天魔将軍という強者が、人間と言う弱者に行う蹂躙であった。
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