ステータス、SSSじゃなきゃダメですか?~クソザコステータスの人間が魔王軍に加入させられたら~

シュリ

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第二章

第二十七話

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「見えてきたわね。あれが凱旋門……マギルス皇国の首都、ラルキスの城門よ」


  アンリが言葉と共に指を差した先。遥か広がる青空と対比するように、圧倒的な威容を誇る白亜の大門が、ヴィルヘルムらの竜車の前に姿を現した。

  魔王城の前にも大門が備えられているが、それに勝るとも劣らない巨大な門。そんな強大な見た目とは裏腹に、壁面には繊細な文様が彫り込まれており、芸術的価値の高さも伺える。

  ミミとヴィルヘルムは驚きをもって、アンリは懐古をもってその威容を迎え入れる。三者がそれぞれの反応で(勿論ヴィルヘルムは無表情だが)それを見つめている中、唯一斬鬼だけは竜車の御者台で、それも凱旋門には一瞥もくれず、不機嫌そうな顔で地竜の手綱を引いていた。

  そう、先日まで颯爽と竜車を駆っていたヴェルゼルの姿はそこには無い。勿論竜車の中にいるわけでも無い。彼女は正真正銘、このパーティーから姿を消したのである。

  自ら付いていくと言った彼女が、まさかその契約を自主的にすっぽかす筈がない。では一体、何故ヴェルゼルはいなくなってしまったのか。その答えは全て、斬鬼がしきりに繰り返している回想の中にある。










◆◇◆



『いや~わりィわりィ!  何でもオレが勝手に出奔した事、魔王の耳に届いちまったみたいでさ。こってり半刻は絞られて、最後には『とっとと帰ってこい!』の一言で通信が切れちまってよ。流石にこれ以上は命に関わるっつう事で、オレはこの辺りで退場させて貰うぜ!  あン?  竜車の運転?  うーん……しゃーねェ、ここで基礎だけ斬鬼に叩き込んどいてやるよ!  ん?  遠慮すんなって!』



◆◇◆










  以上、回想終わり。短すぎる?  それだけ中身のない回想だったという事である。察しろ。


(クッ、まさか余計な節介で仕事を増やされるとは……!!)


  吸血鬼にしては珍しく、斬鬼は自らを律せるタイプだが、それでも秘めたる不満が無くなるわけではない。ことそれがヴィルヘルムの事となると、その傾向は顕著である。
  側人として果たすべき事ではあるのだが、だとしても出来るだけヴィルヘルムのそばに居たいというのはどうしても感じてしまう事。故に、その恨みが原因を作ったヴェルゼルへと向くのも仕方の無い事だった。

  背後の斬鬼から立ち上る負のオーラを感じ取ったのか、普段ならあまり言う事を聞かない地竜達も、今では大人しく従っている。竜車を引いている、というよりは引かされている、と表現した方が正しいだろう。

  そんな彼女の状況は露知らず、竜車の中では話が進む。


「あれを見るのも懐かしいわねー……最後に見たのは確か、八ヶ月は前だったかな?」

「勇者パーティーとして旅立った日、ですか?」

「ま、そうね。まさかあの時は、勇者があんな奴だったなんて思いもしなかったけど」


  肩を竦めて自虐的な笑みを浮かべるアンリ。やはりヴィルヘルムがいる事もあり、勇者の事は彼女にとってあまり宜しくない記憶として刻み込まれていた。


「でも本当に大きいですね。お金も随分と掛かってそうですけど、何でこんなの建てたんですか?」

「こ、こんなのって……それ王族相手に言ったら首飛んじゃうからね?  それで、この凱旋門の由来だっけ?  えーっと、確か……」


  腕を組んでうんうんと唸るが、はっきりとした言葉は口から出てこない。ミミの白眼を受けてもあたふたと声が出ないところを見ると、どうやら概要は忘れてしまったようだ。

  とはいえ、彼女の無知を一方に責めることも出来ない。そもそも自分の住んでいる土地の歴史的な建物など、余程有名なものでもなければ知る由も無いからだ。
  ましてや彼女は家庭事情の関係で、学校においての教育を受けた事もない。そんなアンリが凱旋門を見たところで、大きい以外の感想など思い浮かぶことも無いだろう。


「……この凱旋門は五十年ほど前、マギルス皇国第十三代皇帝、リヒト・カールスロイセンが魔皇帝撃退の折に建てた記念碑だ」


  と、御者の用の小窓から前を向いたまま話し掛ける斬鬼。意外な所からの情報に、皆彼女の方を振り返る。


「この大戦で先代魔王はその求心力を失い、現魔王が即位する一つのきっかけにもなった。それだけ大きな出来事を忘れるとは、随分と平和な頭をしているな?  ニンゲンというのは」

「う……仕方ないじゃ無い、私だって教わった事無かったんだから。それより、アンタも随分詳しいわね?  五十年も前の出来事なのに」

「フン、親から寝物語の如く聞きたくも無い呪詛を延々と吐かれれば、誰だろうと嫌でも詳しくなる。自身達の力不足が大元の原因だろうに、我が親ながら情け無い奴だったよ」


  例え肉親であろうと、価値が無いと判断したものに対しては一切の情をかけない吸血鬼らしい言葉である。

  だが、だからこそそれに対してアンリは違和感を覚える。人の悪意ならば幾らでも見てきた彼女だが、だからこそ最後の心の拠り所として挙げられるのが自分の母親なのである。
  そんな自身を育ててくれた親に対して怨嗟を吐くというのは、彼女にとって毛ほども考えられない事であった。

  とはいえ、『両親とは仲良くすべき』という考えが人によっては只の押し付けに過ぎないという事も、彼女は重々承知していた。故にその言葉は口から吐き出ることは無く、代わりに濁ったおりとなってアンリの心中へと積もっていく。

  口に出せば楽になれるだろう。だが、外部にも敵がいる以上ここで分裂するようなことは避けたい。そんな思考が彼女に歯止めをかけ、幸いにもその言葉を喉元で止めさせる事に成功したのである。


「……」


  だが、斬鬼がそんなあからさまな迄の様子に気付かないはずもない。何か苦虫を噛み潰したように、彼女の口元が微かにヒクついたのを横目にすると、再度何事もなかったように前へと顔を戻す。

  彼女の発言は無意識の内に発されるものだが、それが他者を必要以上に挑発するであろう事は斬鬼も承知していた。
  自身の言葉を前にして烈火の如く怒り出す両親や話し相手を見ていれば、そのくらいの事は誰だろうと理解出来る。だが、だからといって彼女はそのスタンスを変える事はない。
  『弱者は淘汰されるべき』。まさに魔人族らしい思考を基本としている彼女は、自身より下と見た者を徹底的に攻撃する。無論それを相手が是とする訳もないが、その言葉に違わぬ程の実力を有していたのだからどうしようもない。

  故にーーアンリがどんな反応をしようと彼女には関係がない。少なくとも、今までならその筈だった。

  だが、何故かは分からないが斬鬼はアンリの反応を『気にかけてしまった』。

  人間など敵だというのに。弱者など路傍の石ころ程の存在だというのに。


(……チッ、下らん。この私が短い付き合いの中で、まさか絆されたとでもいうのか?)


  思い浮かんでしまった雑念を振り払うように、斬鬼は一際強く手綱を振る。それに呼応するように、地竜はその歩みを加速させた。


  白亜の大門。それを越えた先に待つのは、果たしてーー。
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