ステータス、SSSじゃなきゃダメですか?~クソザコステータスの人間が魔王軍に加入させられたら~

シュリ

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第二章

第三十話

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  王との謁見は、斬鬼やアンリの心配を余所につつがなく終わった。
  先程のサカグチの件から、アンリは国王すらも変わっているのではないかと、自身の知識に不安を覚えていたが、良い意味でそれは裏切られ、国王は以前見た時と変わらない髭面の偉丈夫であった。

  ヴィルヘルム達は国王から簡単な歓待を受けた後、『長旅故に疲れているだろう』という事で正式なパーティーは翌日に回され、先に迎賓館へと案内される。

  それなりに金をかけたであろうその外装や内装には目もくれず、部屋に案内され使用人達がドアの外に出て行った途端、斬鬼はアンリに向かって指示を言い渡した。


「おい貴様。とりあえずさっさと外に出てこい」

「着いて早々にいきなり過ぎるでしょうよ!?  せめて頼み事するなら少しばかり申し訳なさを演出しなさい!」

「……?  申し訳、無さ?」

「あ、うん、良いわ。それを貴女に求めるのがそもそもの間違いだって言ってから気付いたから」


  本気で不思議そうな表情を浮かべる斬鬼に、アンリは頭を抱える。彼女の辞書に『反省』や『謙虚』といった類の言葉など存在しないのだと、出会った時からわかっていた事だろうに。

  アンリの反応に小首を傾げていたが、まあ良いかと斬鬼はそのまま話を進めた。


「ここは貴様の祖国だろう?  ならばある程度は市民達にも顔が効く筈だ。私やミミが出向くより、その方が効率がいい」

「ちょっと、いきなり出向けって言われても何をすれば良いのか分からないわよ。それに迎賓館には警備もついてるし、私一人じゃ抜け出すことも難しいじゃない」

「惚けるな。貴様も既に分かっているだろう?  どうにもこの国に踏み入ってから、違和感ばかり感じると」

「……それは」


  確かに彼女の言う通り、この街にはおかしな所がいくつかある。一度も訪れたことが無い斬鬼でも分かるような、どこか薄気味の悪い雰囲気。
 別に彼らを排斥しようとする物ではない。いや、むしろそうであった方が自然ですらあっただろう。異様なまでの歓待具合に、さしもの斬鬼すら居心地の悪さを感じる程、この街の反応はどうにもすんなりと受け入れがたい物があった。

 それはかつてよりこの街と成長を共にしていたアンリにとっても同じこと。慣れ親しんでいる分彼女よりもより敏感にその空気を感じ取ってはいたが、しかしその原因を突き止めるには至っていなかった。


「他の者が出張ってもいいが、私ではあまりに目立ちすぎるし、ミミでは不測の事態に対応できない。この中で調査に出張るなら、どの道貴様が適任だ」

「ま、確かにそれもそうだけど……」


 ちなみにこういった会話でナチュラルにヴィルヘルムが省かれているのは、最早様式美である。確かに彼自身、スキル以外では対して仕事が出来ないという事は理解しているが、それでも若干の疎外感を毎回覚えているのは内緒である。


「だが、確かにこの迎賓館から抜け出すのはやや面倒だな……警備もそれなりに厳重、使用人までも一人一人に付くと来た。いっそ全員縊り殺すか?」

「物騒な事言わないでよ! 仮に成功したところで、明日には全部バレちゃうじゃない!」

「フッ、冗談だ。ヴァンパイアジョークだ」


 基本スペックは高いが、生憎とジョークセンスには恵まれなかった斬鬼。珍しく機嫌の良い笑い声を上げているが、それを聞かされた側にしてみれば、物々しすぎて一切笑えるものではない。

  当然アンリもミミもげんなりとした表情を浮かべるが、斬鬼はそれに気付いた様子もなく話を進める。


「しかし、ふむ……幻惑魔法を扱える者がいれば良かったのだが、確か貴様達は使えないのだろう?」

「ま、私は基本的に攻撃魔法と簡易的な補助魔法しか使えないしね。多数を騙せるレベルの物になると流石に専門的な話になるから」

「み、ミミはそもそも魔法なんて使えません……」

「チッ、やろうと思えば習得は出来るだろうが、今から私が学習するには時間が少ないか……」


  唇を噛んで一人思案する斬鬼。こう行った力を制限された状態で状況を打開するというのは初めての経験の為、どうにも上手い考えが思い浮かばずにいる。

  と、現状を脱却する方法が無く膠着した状況の中、唐突にヴィルヘルムが動き出す。


「……?  ヴィルヘルム様?」


  困惑の声を余所に、彼は徐に自らの服へ手を掛け、ボタンを外し始めた。

  金の刺繍が編まれた豪奢なマント、光り輝く勲章が胸元に付けられた礼服。どれも庶民では到底手の届かないレベルの服を、彼はどれも無造作にベッドの上へと放り投げる。

  真っ白なシャツに黒のズボンと、先ほどまでとは打って変わってシンプルな服装に変わったヴィルヘルム。平凡な顔立ちや雰囲気も相まって、知らない者が見ればそこらの一般市民と何ら見分けが付かないであろう。
  いや、実際偶然手にした地位を除けば彼はそこらの市民と変わらないのだから、当然といえば当然のことがなのだが。

  さて、このヴィルヘルムの唐突な行動。別に彼からしてみれば大した事はなく、ただいつまでも暑苦しい衣装を着ているのが辛くなっただけの話である。

  がしかし、それを見ていた斬鬼がどう思うか。最早恒例行事のように、彼の行動の意味を深読みするだけである。


「……服をくれ」

(この服生地厚すぎない? 風通し悪すぎてすっげー気持ち悪いわ)


 持ち物がどこにあるか分からなかった為、替えの服装を要求するヴィルヘルム。斬鬼は彼の要求に一度目を見開くと、すべてを察したと言わんばかりに深く頷いた。


「……そういう事ですか。ヴィルヘルム様の決定でしたら、私も引き留めるなど無粋な事は致しません。ミミ、使用人の服を少しばかり頂いてこい」

「使用人の服……? えっと、一体何に使うのでしょうか?」

「相変わらず察しが悪いな貴様は。ヴィルヘルム様は自ら、直々に出ると仰られているのだ! それも下々の、質の悪い使用人の服を身に着けてまで!」

(あれ、また空気感おかしいことになって無い? なんか勘違いされてない?)


 僅かに目を見開くことで驚愕、そして反対の意を露わにするヴィルヘルムだったが、当然その機微が伝わる筈もなく。


「我々が不甲斐ないばかりに御手を煩わせてしまうのは不甲斐ない事この上ない……だがそれが御心だというのであれば、私達にそれを引き留めることは出来ない。ここまで私が説明してやったんだ、後は分かったな?」

「は、はい! 不肖ミミ、任務を遂行して見せます!」

「……なんか日を重ねるごとにミミのキャラが分からなくなっていくわね……」


 同じヴィルヘルム崇拝者としてのよしみか、珍しく斬鬼が夜な夜な、直々に『偉大なるヴィルヘルム様崇拝講座』なるものを、ミミ相手に開いているという事をアンリが知ることになるのは、まだまだ先の話である。

 結果、ヴィルヘルムとアンリは外で。斬鬼とミミは内でそれぞれ情報を搔き集めることとなった。
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